食の擬音語 【食と言葉】[小4・国語]
食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第七十六回目の単元は「食の擬音語」です。
そこで、食べた時の感想を言葉で伝えたり、食感をどのような擬音語で表現すればよいかを考えたりする活動を通して、日常に生きて働く言葉の力を育むことができると考えました。4年生の国語「思ったことや感じたこと・様子を表す言葉」の学習で作文や詩を書く前の言語事項に関する指導の一環として2時間ほど取り上げた2時間目を紹介します。2009年2月公開記事「食感の言葉【食と文化】[国語科]」の新展開でもあります。
「バリッバリッ」は何を食べる音?
「この人は何をしているのかな、何かをおいしそうに食べているね。何を食べていのだろう? これだけだとわからないね。じゃあ特別にヒントを出すよ。これを食べると、こんな音がします」
と言って、「バリッバリッ」の短冊を絵のそばに貼ります。
「さあ、この子は何を食べているのかな? この子が食べているのはプリンかなあ」
と聞くと、子どもたちからは「違う」の声。
「どうしてプリンじゃないってわかるの? では何かな」
とさらに聞くと、のり、せんべい、キャベツ、かたいもの、チョコレートが出てきました。
「どれも食べたら『バリッバリッ』という音がしそうだね。食べた時の感じのことを食感と言うのだったね。実は、この子が食べているのはせんべいです。『バリッバリッ』の音を足しただけで、なんでせんべいだってわかったの? プリンじゃないってわかったの?」
すると、子どもたちは
「全然違う」
「プリンは『プルン』『プルプル』やから」
「プリンは柔らかいから、『バリッバリッ』って音にはならない」
と答えます。そこで、
「『バリッバリッ』という言葉を足すだけで、その食べ物が何か、どんどん想像が広がったね。言葉にはそんな大きな力があるのですね」
と話しました。
せんべいにも色々なかたさの音がある
「せんべいにも色々なかたさがあるね。では、『バリッバリッ』を違う言葉に替えて、せんべいのかたさを変えてもらいます。もっと柔らかいせんべいもあるよね。それは食べたらどんな音がするかな? もっとかたいせんべいはどんな音かな?」
そう説明してプリントを配ります。プリントに色々なかたさの音を書かせます。
「書く時は『バリッバリッ』のように、音を表す言葉は片仮名で書きます」
とも付け加えました。一人で書く時間を3分ほど取った後、どんな言葉を書いているか、班の人と紹介し合うこと。そして同じ班の中で、皆で相談してかたさの違う音を二つ選んで紙に書き、黒板に貼ることも指示します。
子どもたちから次のような音が出てきました。
■ボリッボリッ ■サクッサクッ ■バキバキ ■ボキボキ ■パリパリ ■パリッパリッ ■サクッサクッ ■ムニャムニャ ■パリッポリッ ■ポリッポリッ ■ポリポリ
「いろんな音が出てきたね。じゃあ今から、この音でせんべいを食べてみようか。さん、はい! ガリッガリッ、サクッサクッ……」
と全員で音を読みながら食べるまねをします。音で色々なせんべいが食べられました。
かたい順に音を並べ替えると…
「じゃあ、ちょっと、先生、今からいじわるするよ」
と言って、音を書いた短冊を五つ選びます。
「この五つの音を今からせんべいのかたい順に並べ替えてもらいます。プリントの下の四角に入れていきましょう」
と指示します。その際、簡単な所から考えていけるようにするために、一番かたいと思うもの、一番柔らかいと思うものから決めていくように説明しました。
その後、
「次に、班で紹介し合って、どうしてその順に並べたのか、理由を言い合って班の答えを一つにしましょう。まとまったらA3用紙に書いて前に貼ってください」
と指示します。子どもたちから出てきた意見は次のようなものです。
■出た意見(1)
1 ゴリゴリ
2 バキッバキッ
3 ボリッボリッ
4 パリパリ
5 サクッサクッ
■出た意見(2)
1 バキッバキッ
2 ゴリゴリ
3 ボリッボリッ
4 パリパリ
5 サクッサクッ
【理由】
・てんてん(濁音)がついているとかたく聞こえる。
・濁音がつくと音が低くなるからかたく思う。
・小さな「ツ」が入っていると割れる感じ。
・まる(半濁音)はてんてん(濁音)よりも柔らかな感じがする。
・ゴリッは石をかじっている感じがしてかたい。
・パリパリは薄いせんべいの感じ。
・サクッサクッは、雪みたいな白い砂糖がかかっているせんべいを食べている時の柔らかな感じ。
なお、班ごとに話し合う活動中には、次のようなアドバイスをして指導しました。
<どの班も一番柔らかいのは『サクッサクッ』にしているね。どうして? これ『パリパリ』じゃあだめなの?>
<まる(半濁音)があるのと、ないのとあるけど、かたさはどうかな?>
<てんてん(濁音)があるものとないものとではどう?>
班ごとの意見が出揃った所で、
「色々なかたさの言葉を皆でイメージできたね。本当にかたさは変わったかな? 実は、今日勉強した言葉の力は、皆が毎日食べている給食にも使われています。こんな献立があるのだけれど知っているかな?」
と言って、「ささみの○○ッとあげ」と書いた献立名を見せます。
「皆、『ささみのべちゃーっとあげ』だと食べたい? カリッとかサクッと揚がったササミが食べたいよね」
と話し、次につなげます。
給食センターからのメッセージ
と話し、冨永先生の姿を映しながらメッセージを読み上げました。
栄養教諭 冨永景子先生からのメッセージ
皆さんが毎日食べている給食。おいしく食べてもらえるように、いろいろな工夫をしています。味つけや彩り、見た目はもちろん、温かいものは温かく、冷たいものは冷たく届けられるように、蓋が二重になっている食缶を使ったり、この白い袋(※注)を使ったりしています。そして、食べた時の食感も、とても大切にしています。コロッケやから揚げなどの揚げ物は、揚げてからすぐに食缶の蓋を閉めてしまうと、湯気でべちゃーっとなって、おいしくなくなってしまいます。だから少しの間は蓋をせず、熱をとってから蓋を閉めるようにして、カリッとした食感が出せるように工夫しています。
また、あえ物のキュウリやキャベツは、パリッパリッとした歯ごたえを感じてほしい食材です。給食に使う場合は一度お湯でゆでないといけませんが、ゆでたまま置いておくと食感が悪くなってしまうので、すぐに冷ますように工夫しています。
日本語には食感を表す言葉がたくさんありますね。食感はおいしさの秘密の一つ。日本人が昔から大切にしてきたものなんですよ。
(※注)「この白い袋」とは、給食の保冷・保温のために使用するポリエチレン製の特殊な袋。
「明日からは、『のはらうた』の詩『おと』を勉強します。一度読んでみます。……(詩を読む)……いろんな音が出てくるね。皆だったら、この音からどんな景色を想像して、どう読んでくるかな。今日の宿題は、この『おと』を自分の想像を広げて読んできてください。皆がどんなふうに読んでくるか楽しみにしています」
と次の授業につなげながらまとめました。
授業を終えてからの子どもたちの感想です。
「言葉でせんべいのかたさが変わっておもしろかった」。
「食感を考えて食べたことがなかったから、これからは食感を感じながら食べたい」。
「いろんな食感を表す言葉があってびっくりした。てんてんとまるで感じが変わった」。
「給食も食感を考えて作っていたから、これからこれは『~な感じ』って言いながら食べてみたい」。
授業の展開例
- 食品株式会社の広報部スタッフになり、商品の売り出しキャッチコピーを考えてみましょう。
- おじいちゃん・おばあちゃんが使う食に関する言葉辞典を編纂しよう。例えば、「しゃんとした味つけにしいや」「いい塩梅や」など。
藤本勇二(ふじもと ゆうじ)
武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。
ご意見・ご要望、お待ちしています!
この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)