2023.05.29
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ホップ・ステップ・ジャンプで子どもの「読む」力を伸ばす 「種まき、水まき、花開け!〜説明文の系統指導」セミナーリポート

物語文に比べて、説明文を「苦手」「つまらない」と感じる小学生は少なくない。そんな子どもたちに確かな「読む」力を身につけさせるには、どのように指導すればよいのだろうか。教員コミュニティ・授業てらすが開催する本セミナーでは、年間の見通しをもって指導事項をくぐらせ、1学期の種まき、 2学期の水まきを経て3学期に学びの花を開かせる「ホップ・ ステップ ・ジャンプ」で子どもの力を伸ばすことを提案。3人の現役教員が低・中・高学年の説明文の系統指導について発表した。

プログラム

各学年の説明文の系統指導の紹介(各10分)
(低学年)あっつーさんによる発表
(中学年)ユウシさんによる発表
(高学年)しょーちゃんによる発表

対話交流(ブレイクアウトルームごと)

質疑・応答

低学年

時間的順序と、事柄の順序

京都府公立小学校教諭のあっつー氏(仮名)は、光村図書の教科書を用いた2年生の説明文の系統指導を提案するにあたり、同社の資料『光村の「国語」構造と系統』を提示した。この資料には小・中9年間でおさえておくべき指導事項が教材とともに示されており、2年生の「読むこと(説明的な文章)」には以下の4つが挙げられている。

  1. 「たんぽぽのちえ」(1学期)【説明する文章を読む】
    ・説明する文章を読むときには、順序やわけに気をつける。
  2. 「どうぶつ園のじゅうい」(2学期)【読んで、考えをもつ】
    ・誰が何をしたかや、何があったかを、順序に気をつけて読む。
    ・読んで分かったことと、自分の知っていることを比べる。
  3. 「馬のおもちゃの作り方」(2学期)【説明のしかたに気をつけて読む】
    ・文章のまとまりに気をつける。
    ・「まず」「次に」などの言葉を見つけて、順序を捉える。
  4. 「おにごっこ」(3学期)【大事な言葉や文を見つける】
    次のことを確かめて、大事な言葉や文を見つける。
    ・何について書かれた文章か。
    ・自分の知りたいことは何か。

あっつー氏は、「おにごっこ」以外の3教材の指導事項に登場する「順序」を中心に、どう系統立てて指導していくかを述べた。

「たんぽぽのちえ」には、時間的順序に沿ってたんぽぽの成長の様子が述べられている。続く「どうぶつ園のじゅうい」でも、時間的順序に基づいて獣医の1日の仕事が語られており、この2単元で種まきとなる指導を行う。一方、次の「馬のおもちゃの作り方」は、事柄の順序に沿っておもちゃの作り方を読み取る必要があり、「これまでに学んだ時間的順序との違いに気づかせること」が水まきとなる。

また、「たんぽぽのちえ」には「はじめ・中・終わり」という文章の組み立ての「終わり」の部分が初めて登場する。「はじめ・中・終わり」は「書くこと(説明的な文章)」の6月教材:組み立てを考えて書く 「こんなもの、見つけたよ」に取り上げられているが、あっつー氏はその前に本単元で指導することを提案。「馬のおもちゃの作り方」でも「『はじめ・中・終わり』の組み立てに気づかせたい」とした。このほか、子どもたちの説明文を読む必然性を高める工夫として、他教科との連携も提案した。

こうした2年生での学びのまとめとなる「おにごっこ」は、2つの問いに答える形で、おにごっこの多様な遊び方を述べたもの。あっつー氏は、「1年生から学んできた『問い』と『答え』の文章構造について、『はじめ・中・終わり』の各段落の特徴を含めて、もう一度気づかせ、花開かせることで、3年生の学習につながっていく」とした。

中学年

要約を意識

愛知県立公立小学校 教諭 佐野 裕史先生

愛知県の公立小学校教諭・佐野裕史氏は、まず小学1年生から中学1年生までの「読むこと(説明的な文章)」の目標を整理した表を提示。「他の学年と並べて見ていくと、中学年でおさえるべきことが改めて理解できる」とし、それをもとに3・4年生の説明文の系統指導を提案した。

光村図書の3・4年生の説明文教材は6つ(プレ教材を含めると8つ)。低学年で「順序」の種がまかれていることを踏まえ、3年生の1学期教材「言葉であそぼう」と「こまを楽しむ」では、改めて「はじめ・中・終わり」についておさえ、段落の中心となる語や文を確かめる。2学期教材「すがたをかえる大豆」で段落のつながり、筆者の例の順序や資料の使い方の工夫について考え、3学期教材「ありの行列」では段落どうしのつながりを気をつけて読む、中心となる語や文から短くまとめる、という指導事項をおさえていく。

こうした学びを経て、「3年生の終わりには『順序の意味を確かにとらえる』という花を開かせたい」と佐野氏。そのためには「3部構成、段落の繋がり、要点まとめという指導事項を常に意識し、入れ替える・隠す・書き替えるといった水まきをしていくことが大事」だとした。

4年生では「順序の意味を確かに捉える」の種がまかれていることを前提に、1学期教材「思いやりのデザイン」と「アップとルーズで伝える」で対比の意図、事例と筆者の考え、文章構成や段落同士の関係を確かめ、筆者の考えを捉える、という指導事項をおさえる。2学期教材「世界にほこる和紙」では、まとまりごとに中心となる語や文を確かめて要約し、3学期教材「ウナギのなぞを追って」で興味を持ったことを中心に要約する。

佐野氏は、「4年生では指導事項として要約も強く意識し、3年生同様に水まきを行って、最後に『 筆者の意図を推論しながら、順序の意図を確かに捉え、要約できる』という花を開かせたい」とした。

また佐野氏は、「説明文こそ筆者の気持ちに寄り添った発問が大事」だとして、2つの単元の実践事例を紹介した。例えば「こまを楽しむ」は、「はじめ」の1段落に書かれた2つの問いに答える形で、「中」で6種類のこまが紹介され、「終わり」の8段落でまとめる3部構成となっている。そこで、「いくつこまの説明が出てきましたか?」などと「中」についての発問を重ねてから「1段落と8段落はなくてもいいよね?」と子どもたちを揺さぶることで、「筆者が3部構成にした意図や順序の意味が見えてくるのではないか」と述べた。

高学年

他教科の題材や「書く」「話す」の領域と接続

神奈川県公立小学校 教諭 布富 翔大先生

神奈川県の公立小学校教諭・布富翔大氏は、高学年の説明文の系統指導をするにあたり、新年度のスタートにどのような準備をすればよいかを提案した。

まず行うべきことは、指導事項から高学年の国語学習のゴールを整理すること。 高学年「読むこと」の指導事項6つのうち、説明的な文章に関するものとしては、主に以下の4つが挙げられる。

 事実と感想、意見などとの関係を叙述を基に押さえ、文章全体の構成を捉えて、要旨を把握すること。

 目的に応じて、文章と図表などを結びつけるなどして、必要な情報を見つけたり論の進め方について考えたりすること。

 文章を読んで理解したことに基づいて、自分の考えをまとめること。

 文章を読んでまとめた意見や感想を共有し、自分の考えを広げること。

布富氏は「『書く』と『話す』の領域を関連付けることで指導の効果が高まる」として、「読む」以外の領域についても指導事項を整理することを提案。「読む」「書く」「話す」の指導事項には、「事実と感想と意見とを区別する」「論の進め方/書き表し方/表現を工夫すること」「目的や意図に応じて」という共通する言葉が入っていることを指摘した。

このことから、高学年の国語学習では、「まず『読む』の学習で筆者の伝えたいこと(目的や意図)と、その伝え方(表現の工夫や論の進め方)の関係を学び、その上で自分の考えを持ち、読み手の感じ方を理解する。そして、『書く』『話す』の学習で表現方法の特徴を理解し、目的・意図に応じた伝え方の工夫を考え、応用する」というサイクルが考えられ、「『自分の思いや考えを、相手や状況に応じて上手に伝えられるようになる』ことがゴール」であるとした。

次に布富氏は、学習を計画する上で必要となるカリキュラム・マネジメントにおいて、自身が意識していることを述べた。まず上記のように指導事項を確認後、「読む」「書く」「話す」の各領域に、どのような単元がどの時期にあるのかをおさえる。さらに、他教科と絡めることで学習の必然性が高まることから、他教科の題材も確認する。そして、他教科の題材と「読む」「書く」「話す」の領域との接続も考えながら、時期を入れ替えたり、単元を組み込んだりしてカリキュラムを編成していく。その際、「各教材の特性を活かして、どの時期からどのような流れで指導していくか」を考えることもポイントであるとした。

質疑応答

質疑では、高学年で「要旨をぱっと抜き出せる子」に至るまでのプロセスでどんなことをすればいいのかや、各指導内容に力を入れる時期などについての質問があり、物語文指導では「イエ(家)の土台がないとオカ(丘)には登れない」という言い方があるが、説明文指導においても、1学期にアとウの下積みをしっかりやって、後半でオとカの考えを持ち、仲間と考えを共有して広げることができるようにするイメージがよいのではないかと回答があった。

※本記事で紹介した教材は、いずれも2023年度版の教科書に収録されているものです。

記者の目

こうして小学校6年間の説明文の系統指導を一度にみていくと、種まき、水まき、花開く「ホップ・ ステップ ・ジャンプ」の学びは、低・年・高学年の3段階にもあてはまることがわかる。各学年の教員がこのような視点をもって指導にあたることで、子どもたちに確かな力が育まれ、小中のスムーズな接続にもつながっていくと感じた。

取材・文:学びの場.com 画像提供:授業てらす

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