2024.05.20
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作家クイズ大会をしよう(前編) 常滑市立常滑中学校「国語」授業リポート

文部科学省は学習指導要領の中で「主体的・対話的で深い学び」の視点からの授業改善を規定している。学ぶ内容だけでなく学ぶ環境やプロセスまで重要視されるいま、一斉授業を主流としてきた教育現場にはどのような変化が求められているのだろうか。今回は愛知県常滑市立常滑中学校の国語の授業を取材した。前編では日本を代表する著名な作家たちについて、情報を調べてスライドにまとめていく生徒たちの様子を紹介する。

<授業概要>

学年:中学1年生
教科・単元名 :国語「作家クイズ大会をしよう」(3/7)
単元の目標:①日本の作家に興味を持って、進んでまとめたり、発表したりする。
 ②作家の作品や生涯について、分かりやすく伝える。
授業者:都築準子 教諭
使用教材・教具:教科書(光村図書「国語1」p.278 読書資料「坊っちゃん」)、タブレット端末

調査対象の文豪を選ぶ

単元は全7時間で構成されており、今回は3時目となる。前時では作家・夏目漱石の人生や代表作を知り、映画やアニメにもなって100年以上読み継がれていることを学んだ。本時では、夏目漱石のように世代を超えて読まれている作家を挙げ、生涯や作品を調べてスライドにまとめるグループワークを行う。本単元では以下の7人を対象とした。

  • 芥川龍之介
  • 川端康成
  • 志賀直哉
  • 森鴎外
  • 樋口一葉
  • 与謝野晶子
  • 太宰治

都築教諭「(森鴎外の名前を見せながら)これ、読める人いる?」
生徒「もり……つるがい!」「もり……なんだろう?分かんない」
都築教諭「もりおうがい、です」
生徒「えぇ〜!?」

都築教諭は「漫画の文スト(文豪ストレイドッグス)読んでる人いない?」「この人はお札にも描かれている」「日本初のノーベル文学賞を受賞した人」など、生徒とコミュニケーションを取りながら身近にあるものを取り上げて作家を紹介すると、生徒たちは興味を持ったようだ。さらにタブレット端末で気になる作家について調べて一人を選び、作家ごとに3〜6人のグループを作って、単元の3、4時目を使い、資料の完成を目指す。

作業は生徒の主体性に任せ、教諭は少しのアドバイスだけ

都築教諭「これからグループに分かれるけど、席はどうする?自分の机を移動させるか、自分だけ移動してその場にある机をくっつけるか?」
生徒「自分だけ移動する方法でいいと思う」
都築教諭:「誰が自分の机を使ってもいいですね?では各グループで集まって作業を始めてください。場所も自分たちで決めてね」

テンプレートとなるスライドのファイルと必要な項目について説明を受け、席を移動して早速グループで資料作成に取り掛かった。

スライドはグループの中で一人がダウンロードし、共有して作業を行う。ファイルの編集権限付与でつまずくグループもあったが、別のグループの生徒が教えるなどして全員が問題なく作業に取り掛かることができた。

作業が始まるとすぐに「ノーベル賞のこと書いていい?」「どんな人生だったか書きたい!」「表紙やりたい!」と、一人ひとりが声を上げスムーズに役割が分担されていく。

「川端康成がノーベル賞を受賞したの、日本人で3人目らしいよ!」
「このスライド作ったの誰?背景がおもしろい!」
「作家の人生の項目、誰か作業してる?」

作業中は調べた内容を共有したり他の生徒が作ったスライドを見たりと、生徒同士でさまざまな会話が生まれていた。あちこちで笑い声が上がり、教室内は終始賑やかで活気ある雰囲気だった。

都築教諭はグループを順に回りながら生徒の様子を見守っている。質問があれば答えたり、見せ方の相談をされたらアドバイスしたりするが、基本的には生徒のやり方や進め方を尊重している。本時は研究授業ということもあり同校の教諭が何人か参観していたものの、生徒は萎縮することなく、メンバーで話し合いながら作業を進めていた。

見やすさ、おもしろさを意識して工夫をこらす

生徒たちはタブレット端末を使い慣れているだけあり、スライドの空白がみるみるうちに埋まっていく。Wikipediaの情報を参考にしている生徒が多かったが、スライドにまとめるときには情報を取捨選択し、必要な情報を吟味していた。

また、多くの生徒が文字サイズやフォント、背景画像を工夫し、見やすくなるよう試行錯誤していた。長い文章は重要箇所を目立つようにしたり、分かりやすく伝えるためにスライドの見出しを何度も書き直したりする様子も見られた。作家の若いときと晩年の写真を並べる、代表書籍のタイトルと文庫本の表紙画像をセットにするなどの工夫もあった。

「YouTubeと一緒で、スライドもおもしろくしないと見てもらえないよ!」

という生徒の発言を都築教諭がクラスに共有すると、既に完成していたスライドを見直す生徒や「文字だけだときついかな?」「写真を入れたら?」「これでいいかな?確認お願いします!」と周りと話し合う生徒も多くいた。

中には今後の授業を見越して作家クイズの作成に着手するグループもあり、意欲的に授業に取り組んでいることが分かる。しかし、グループ内でクイズの内容が重複してしまった。

「このクイズ、私が作った内容とかぶってる!どうする?」
「うわ、ほんとだ!」
「うーん……私が別の内容に変えるね」
「ありがとう」

というような、相互的なコミュニケーションの必要性を学べるシーンもあった。

生徒主体の授業進行

都築教諭の授業では、生徒が自由に発言し、生徒が決断して進行していくシーンが多く見られる。選択肢を提示した上で、決定権は生徒に委ねることで、生徒の主体性を伸ばし、協働的に取り組む力を育む狙いがある。4月からずっとこの方針で授業を行ってきたこともあり(取材日は3月)、生徒は教諭の質問に対しすぐに答えたり行動を起こしていた。また、授業中の発言や私語もすべて授業の内容に関するものであり、意欲的に授業に参加しようとする生徒が多いことが分かった。

最後には授業を振り返って「よかったと思う意見」「今日の反省を活かして次にどうしたいか」などのアンケートに回答する。

「Aさんのしっかりとした役割分担で、テキパキと作業を進めることができました。」
「みんなそれぞれ個性あるスライドができていて、いいと思いました。」
「スライド作成をしているときにBさんが提案をしてくれました。」
「一人ひとり、私は◯◯を調べると言って、調べた内容を発表しながら進められました。Cさんが調べた内容を私がまとめて、連携して作業ができました。」

与えられた課題に対し、ただこなすのではなく、より良いものにするべく主体的・意欲的に取り組む様子、周りと話し合い協働しながら完成させていく姿勢が強く印象に残る授業だった。後編では、授業者の都築準子教諭へのインタビューを紹介する。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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