2023.10.23
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「犯人は? 真相は?!」(後編) 言葉の一つひとつをじっくり読み解かせるために

前編では、魅力的な国語科の授業の創造を目指す先生方の研究会「創作国語」(発起人・山梨大学 茅野政徳准教授)主催の『第5回謎解きセミナー「謎解き物語文」で変わる! 明日からの国語の授業』の公開授業と協議会の模様を紹介した。後編では、参加者が「謎解き物語文」を読み解くワークショップと、シンポジウム:「国語科学習における『謎解き物語文』の教材化の可能性」の模様をリポートする。

ワークショップ

謎を解くのが目的ではない。注意深く読む力を育む。

続けて、高学年向けの教材文を使ったワークショップに参加した。教材となる謎解き物語文が配られると、先生方は一心不乱に読み始めた。

  • 教材を夢中で読む参加者

  • 夢中で読み解く

  • ワークシートに記入

あらすじは、こうだ。

「なくなったキャッチャーミット」あらすじ

試合当日、事件が起きた。おれのキャッチャーミットが、なくなったのだ。買ったばかりなのに。盗まれた? 怪しいのは2人だ。

おれにスタメンを奪われたシンゴは、「ぼくは知らない」と言い、「代わりにぼくが出るよ。絶対勝つ!」と、闘志を燃やしている。バッテリーを組むはずだった幼なじみのヨウタは、「何やってんだ、チームに迷惑かけるな」とおれを叱り、シンゴの方がキャッチャーとして優れていると説教された。――おれのミット、どこにいったんだ?

川崎市立東小倉小学校 森 壽彦 先生

これもなかなかの、「難問」だ。参加した先生方は、赤ペンで線を引いたり、配られたワークシートに人間関係図や動機をメモを取りながら、熱心に読みふけった。そして、一通り読み終わると、参加者同士で議論が始まった。

「新品のミットは誰にもまだ見せてないのに、シンゴはミットの色がグレーなことを知っている。犯人である決定的証拠だ」
「でも、ヨウタとシンゴが共犯な可能性もあるのでは? 今日の試合にかけるシンゴの思いをヨウタも知っていたし、2人とも『今日は何としても勝つ』と異口同音に言ってるのが怪しい」

初対面同士にも関わらず、議論はとても盛り上がった。

この謎解き物語文を作った、ワークショップ講師の森先生は、教科書教材の「帰り道」や「たずねびと」を意識して、書いたという。

「犯人は誰かと推理させるのが、謎解き物語文の目的ではありません。言葉一つひとつに立ち止まって、注意深く読ませるのがねらいです。特に高学年ですから、人物像や人間関係、登場人物の心情を読み解けるように心がけました」

シンポジウム

謎解き物語文は、国語科の土台を築く!

左から櫛谷先生、茅野先生、青山先生

最後に、「国語科学習における『謎解き物語文』の教材化の可能性」と題して、シンポジウムが行われた。国語科のエキスパートとして有名な、筑波大学附属小学校の青山由紀先生は、「子供たちの国語嫌いを、謎解き物語文が治してくれるかも」と、期待を寄せた。

「テストの点はいいのに、国語が嫌いな子が多い。国語の学習を楽しんでないし、やらされている感が強く、主体的に学べていません。謎解き物語文は、『真相を探し当てたい!』という強い欲求や切実感を与えてくれます。子供を主体的な学習者にしてくれます」

一般的なミステリーでは、「探偵役」がすべて謎を解決してくれる。しかし、謎解き物語文では、探偵が謎を解き明かしてはくれない。真相も、本文内では語られない。読者である子供が謎を解かなければ、謎は謎のまま。だから子供は、真相を解明しようと、前のめりになるのだ。

コーディネーターを務める、相模原市立清心小学校の櫛谷孝徳先生も、「先生が問いを与えずとも、子供一人ひとりが、自分で問いを持つようになる」と、謎解き物語文の持つ力を指摘する。

しかも「真相を探る」という問いは、クラス全員に共通する問いだ。だから自然と対話的な学びが生まれ、みんなで解決に向かって進み始める。この研究会の発起人である、山梨大学の茅野正徳准教授は、こう語った。

「謎解き物語文は、1回読んだだけではわかりません。何度も読んで自分なりに答えを出しても、他の意見を聞いているうちに、不安になってきます。だから周りと話し合って、自分の答えが正しいか確かめたくなる。対話して自分の意見が強化されることもあれば、誤りに気づいて修正することもあります。

こういう対話にこそ、価値がある。単に話し合えばいいというものではなく、『学び合い』にする必要があるのです」

青山先生も、今日の子供たちの姿を見て、「学び合いになっていた」と、振り返った。

「最初は犯人が誰なのか目星すらつかなかった子が、友達の意見を聞いて、『なるほど。登場人物の行動が手がかりになるのか』と学び取り、自分なりに推理し始めていました。どういう視点から真相に迫っていくかを、子供たちに考えさせてもおもしろいかもしれませんね」

子供たちの読解力も鍛えられる。たとえば「目を合わせずにうつむいたままだった」という一文から、その人物の心情を推察し、真相解明に役立てようとしていた。言葉の一つひとつを、とても大事にしていた、と言ったらいいだろうか。

「今の子供たちは、『言葉に立ち止まれない』傾向があります。たとえば、『見る・見つめる・見守る』は、それぞれ微妙にニュアンスが違う。謎解き物語文には、何気ない言葉の一つひとつにしっかり立ち止まって、じっくり読み解かせる力があります」(茅野准教授)

「先生が『この文に注目しなさい』などと指示せずとも、子供たちは目を皿のようにして何度も読み返し、自分で注目すべき文を見つけていましたね」(櫛谷先生)

確かに子供たちは、何か手がかりはないかと、言葉の一つひとつを注意深く読み、その言葉からわかる人物像や心情を正確に推し量っていた。あの名教材「ごんぎつね」よりも熱心に読んでいるねと、参加した先生が感心していたほどだ。

そして「国語科本来の学び」につながっていくと、登壇した3人の先生は口を揃えた。

たとえば高学年の公開授業で用いられた教材「オフにならなかったマイク事件」は、学習指導要領が高学年で育むべき読む力と示している「人物像」と「人間関係」を読み解く教材になっていた。この日は低学年と中学年でも公開授業が行われたが、低学年は「場面の様子」や「人物の行動」を読み解く教材、中学年は「人物の性格」や「気持ちの変化」を読解する教材になっていた。どちらも、学習指導要領が掲げる資質・能力に準拠しているのだ。

「謎解き物語文で育んだ力は、教科書の物語教材を読み解く時にも、必ず役に立ちます。国語科の土台となる資質・能力を育める教材だと言えるでしょう」(櫛谷先生)

記者の目

大人さえも熱中する謎解き物語文に、子供たちは完全に魅了されていた。みな主体的に学び、対話を欲し、実りのある議論を戦わせていた。穴が開くほど教材文を読みふけり、言葉の一つひとつを丁寧に読み解き、根拠を伴った論理的な思考をしていた。まさに「夢中」になっていたと言っていいだろう。子供たちはみな、とても「楽しそう」だった。
この教材を「自作」するのはたいへんではあるが、「作るのも楽しかった。自分の学びにもなった」と、作成した先生方が笑顔だったのも印象的だ。授業自体は2時間程度で収まる。物語教材を学ぶ前後などにピンポイントで実施してみると、単元の学びにつながるのではないだろうか。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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