2012.11.20
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おにぎりの思い出 【食と暮らし】[小6・道徳・国語]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第七十五回目の単元は「おにぎりの思い出」です。

日本人の主食であるごはんを使った「おにぎり」は、手軽さと持ち運びのよさから広く愛され続けてきました。運動会や遠足のお弁当では、おにぎりは定番メニューであり、おにぎりには幼い日の記憶や家族との思い出をよみがえらせてくれる魅力があります。おにぎりにまつわる思い出を家族から聞き取り、教室で話し合う活動をしてみました。6年生の国語と道徳での3時間の事例です。なお、本事例は「とくしまおにぎりプロジェクト」と題した総合的な学習で、1年間おにぎりを作り続けた体験が基になっています。

これまでの実践を振り返る

「一つのおにぎりには、色々な人の思いが込められていることを学んできましたね。皆はどんな人とおにぎりを通じて関わってきましたか?」
 と、これまでの実践を振り返ることから始めました。
「お米は、伊沢小学校から送ってもらいました」
「伊沢小学校では、総合の時間にお米作りをしていました」
「塩は、林崎小学校からいただきました」
「林崎小学校では、海水から塩を作ったそうです」
 と子どもたちは答えます。そこで、
「そうですね、二つの学校から届いたお米と塩に、うちの学校の地域でとれる野菜を具にしておにぎりを作ってきたのですね」
 と付け加えると、
「おにぎりの具について考える時は、栄養教諭の先生に教わりました」
「おにぎりを握る技は、料理の先生に教えていただきました」
 というように、子どもたちは「とくしまおにぎりプロジェクト」に関わってくださった先生方との実践も振り返ることができました。その後、
「あなたの周りの方におにぎりについての思い出を聞いてきましょう」
 と問いかけました。聞き取りの活動は国語のインタビューの学習であることも付け加えました。一人一人に配布したワークシートには、次のような文書を添えました。
保護者の方にお願いします
 1個のおにぎりができるまでには、たくさんの人が関わっていることを学ばせたいと学習を進めてきました。学習の最後に、おにぎりにまつわる思い出を子どもたちに語ってあげてくださいませんか。保護者の方の親御さんが作ってくれた思い出や子どもの頃の遠足での思い出、保護者の方が6年生に作ってくださる時に思ったことや気をつけたことなど、おにぎりのことを話してあげてください。

おにぎりの思い出を聞く

子どもたちが聞いてきた思い出を学級で紹介します。次のような内容です。

「お母さんは小さい頃、好き嫌いが多くて、よく晩(夜)に怒られていたそうです。お母さんは、夜お腹が空くと、おばあちゃんがおにぎりを作ってくれて、ベッドへこっそり持って来てくれたという思い出があるそうです」。

「母はいつもおにぎりを作る時、衛生には気をつけて、まずしっかり手洗いをしてぼくたちの体を考えて作ってくれています。それはおばあちゃんが作る時に、母の体のことを考えて作っていたからだそうです。それで母がおにぎりを作る時、手を洗わなかった時は怒っていたそうです」。

これら子どもたちが聞いてきたことを書いてきたワークシートだけでなく、保護者が直接書いてくださったものもありました。

「今回、学校でのおにぎりプロジェクトは子どもにとってすごくよいことを学んだと思います。お米はどこで作って、農家の人の大変さ、塩はどのようにできるかとか色々わかったことと思います。私のおにぎりの思い出はやっぱり母親がよくしてくれた、三角ではなく、俵型のおにぎりです。私も子どもにはよくおにぎりを作ります。仕事と家事で忙しく時間がないときには欠かせません。うちの子はシンプルな塩とのりだけのが好きみたいです。この間、家ではじめておにぎりを作ってくれました。形は少し悪いけど、味はすごくおいしかったです。その作っている後姿を見ているだけで、私は満足でした」。

「私が小学生の頃、1年間だけ祖母の家で暮らしました。その頃、食が細かった私に、祖母は色々と考えて食事の準備をしてくれました(今だからわかることですが……)。そんな祖母が朝食はきちんと食べないといけないと、毎朝工夫しておにぎりとお味噌汁を作ってくれました。中でもきなこをまぶしたおにぎりがとても美味しくて、きちんと食べる習慣ができたおかげで、食事の量もかなり増えました。今はもう、祖母も他界し、美味しかったおにぎりは、もう食べられませんが、今でもたまにその味を思い出し、むしょうに食べたくなる時があります」。

子どもたちの思い

子どもたちはおにぎりに込められた思いを、次のように受け取っています。

「『おにぎりの思い出』という題でそれぞれぞれの違うエピソードが聞けてよかったです。お母さんの小さい頃のおにぎりの思い出を聞けて、もっと興味を持ちました。作った人は違うけど、『おいしい。嬉しかった』という気持ちは皆同じでした」。

「皆のお父さんやお母さんの話を聞いて、色々なドラマがあるなあと思いました。私はまだ子どもだからお母さんの気持ちはわからないけれど、いつかわかる日が来るのを楽しみにしています」。

「クラスの子の家の人などの思い出を聞いて、本当におにぎりについては色々な思い出があったんだなあと思いました。私もいつか、誰かに作って、その誰かの心に残るようなおにぎりを作れるようになりたいです」。

「お母さんの『おにぎりの思い出』なんて聞いたことがなかったのでとても嬉しかったし、すごく勉強になりました。今度は私が思い出を作ってあげたいです。もっとおにぎりが好きになりました」。

「人は亡くなっていってしまうけど、一年間私たちが習ってきた『おにぎり』に思い出があり、こんな風に私たちにも受け継がれていたのがすごい!! と思ったし、これからも受け継いでいきたいと思った」。

授業の展開例
  • 日本各地にはそれぞれの地域の特産物と結び付いた個性的なおにぎりがあります。どんなおにぎりがあるか調べてみましょう。
  • 好きなおにぎりの具は何ですか。また、おにぎりの具にはどんなものがあるか調べてみましょう。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

文:藤本勇二/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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