大好物はマシュマロ! 【食と絵本】[小2・国語・学級活動]
食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第七十二回目の単元は「大好物はマシュマロ!」です。
子どもたちに絵本を読み聞かせしていて、お話の中に出てくる食べ物を無性に作りたくなる(食べたくなる)ことってありませんか?『しろくまちゃんのほっとけーき』(わかやまけん 著 こぐま社)を読むとホットケーキ。『ぐりとぐら』(中川李枝子 文/大村百合子 絵 福音館書店)を読むとカステラ。あるいは、子どもたちと一緒によもぎ団子を作る時には、ばばばあちゃんシリーズの『よもぎだんご』(さとうわきこ 作 福音館書店)を読むという逆パターンもあります。絵本のおかげで、食べる楽しみだけでなく、調理すること自体が楽しくなるから不思議です。
司書教諭に、ある絵本を読み聞かせしてもらったことで、どうしてもマシュマロが作りたくなった2年生。マシュマロって、一体どうやって作るのでしょうか? 今回は2年生とチャレンジしたマシュマロ作りを取り上げてみます。
読み聞かせから始まる
絵本の主人公でマシュマロが大好物と言えば……? 子どもたちが大好きな絵本『まくらのせんにん さんぽみちの巻』(かがくいひろし 作 佼成出版社)。主人公「まくらのせんにん」は枕の姿をした仙人。弟子の掛布団の「かけさん」と敷布団の「しきさん」の二人を連れた珍道中が繰り広げられます。あの有名なテレビ時代劇とそっくりな設定が面白く、さんぽみちの巻は、寒さに震えて困っている者たちを温め助けてあげるというほんわかとしたお話です。まくらのせんにんの大好物はマシュマロ。お話の始めにも終わりにもマシュマロを「パフパフ モフモフ」と食べています。
この絵本を司書教諭に読み聞かせをしてもらった時の子どもたちの第一声は
「マシュマロ食べた~い!」
でした。主人公「まくらのせんにん」が絵本の中でたらふく食べていたマシュマロに子どもたちの興味、関心が集中したのです。ちょうど前の週によもぎ団子作りをして、お菓子作りに目覚めた子どもたち、第二声は
「マシュマロ作ろう~!」
の大合唱となりました。
マシュマロってどうやって作るの?
「マシュマロって何でできているのかな?」
という問いに、子どもたちは
「小麦粉! だって白いもん」
「砂糖! 砂糖! マシュマロは甘~いから」
「白いから牛乳も入っているんじゃない?」
「あっ! 卵は?」
「え~、マシュマロは黄色くない!!」
「絶対、小麦粉!! ケーキみたいにふわふわしているよ」
小麦粉説が優勢になってきました。
図書室で起こったマシュマロ論争。幸いなことに、解決のヒントも図書室にあります。混迷したマシュマロの材料予想は、司書教諭にレシピが書かれている本を見つけてもらったことで終息したのです。
ふっくらふくらむふしぎ
見つかった本は『絵本 おもしろふしぎ食べもの加工 ふっくらふくらむふしぎ』(生活環境教育研究会 編 農山漁村文化協会)です。本に書かれていたマシュマロの材料は、
(1) 卵白
(2) 板ゼラチン
(3) 水
(4) グラニュー糖
(5) 水あめ
(6) バニラエッセンス
(7) コーンスターチ
の七つ。2年生の子どもたちには少し聞きなれない材料が多かったのですが、
「卵の白身、ゼリーの素、砂糖でできているんだよ」
と話すと、
「えーっ!」
と驚きの表情を見せました。
マシュマロは卵白の起泡性によってできたメレンゲをゼラチンで固めてできるお菓子です。起泡性といえば、スポンジケーキやシフォンケーキなども、卵白の気泡がもつ力を利用して生地の中に空気を入れ込み、ふわふわの食感を生み出しています。また、ゼリーやババロアなどはゼラチンのもつ凝固性を利用して作られていて、マシュマロはこの二つの性質をうまく利用してできたお菓子なのです。
作り方がわかったので今度は、「いつマシュマロを作るか?」が話題になりました。ちょうど、4月と5月の誕生会を開く計画を立てていたので、お祝いのお菓子としてマシュマロを作ることにしました。
マシュマロが作れた!
【用意するもの】
- 15×25cmのバット1枚分
- 卵白……60g(約2個分)
- 板ゼラチン……15g
- 水……75cc
- グラニュー糖……250g
- 水あめ……25g
- バニラエッセンス……少々
- コーンスターチ、粉砂糖……同量にして混ぜたものを適量
(上記『絵本 おもしろふしぎ食べもの加工 ふっくらふくらむふしぎ』より抜粋)
<作り方>
(1) バットにコーンスターチと粉砂糖をふるう。
(2) 卵白を泡立て、分量外の水でふやかしたゼラチンを入れる。
(3) なべに水、グラニュー糖、水あめを入れ、125度になるまで煮詰める。
(4) 泡立てた卵白に(3)のシロップを糸状に落としながらハンドミキサーで泡立てる。
(5) バニラエッセンスを入れ、7~8分間粘りのある生地になるまで泡立てる。
(6) バットに(5)を流し入れる。
(7) へらで表面を平らにして、コーンスターチと粉砂糖をふりかける。
(8) クッキングシートをかぶせ、2時間くらい冷蔵庫で冷す。
(9) 好きな大きさに切り分けて、切り口にコーンスターチと粉砂糖をまぶす。
子どもたちは上記工程のうち、卵を割って黄身と白身に分ける作業と、卵白を泡立てる作業、冷し固めたマシュマロを切り分ける作業をしました(シロップを煮詰めたり、メレンゲに加えたりする少し危険な作業は指導教諭が行いました)。卵を割ったことがない子どもが多く、恐る恐るの挑戦でしたが、卵白を泡立てていくうちに、どんどん白く泡立つ様子に大興奮をしていました。
作業は6人ずつ2班で行い、班ごとに冷やし固めたマシュマロを6等分にして一人1枚ずつ行き渡らせました。そして、各自思い思いにそのマシュマロを切り分け、ビニール袋にコーンスターチと粉砂糖と共に入れてから、空気いっぱいにしてふくらませ、粉をまぶして完成させました。
さて、誕生会でお祝いのお菓子として食べることにしていたこのマシュマロ。一口食べて、
「おいしい~!」
「とろけるみたい!」
「本当にマシュマロになっている!」
と感激していたと思いきや、子どもたちはそそくさとビニール袋の口をしばり、「まくらのせんにん」のように、「パフパフ モフモフ」食べようとしないのです。あれ? と思って見ていると、
「先生、家に持って帰ってもいい?」
「妹に持って帰って食べさせてあげる。だって、妹がマシュマロ好きだもん」
「帰ったら、お母さんやお父さんと一緒に食べる!!」
と言って、マシュマロをお家に持って帰りました。
翌日、連絡帳には、子どもが嬉しそうにマシュマロ作りについて話してくれたことや、家族みんなで食べたことなどが書かれていました。買うものと思っていたマシュマロを子どもが作ってきたことに驚いたという感想を書いてくれた保護者もいました。
「まくらのせんにん」の大好物のマシュマロ。この絵本を読み返すたびに、マシュマロ作りを思い出してくれると嬉しいです。
授業の展開例
- 卵の起泡性を利用して作るスポンジケーキやシフォンケーキなど他のお菓子作りに挑戦してみるのも楽しいですね。
- メレンゲは砂糖の力を借りることで気泡を安定して保つことができます。砂糖を入れるタイミングや温度の変化でメレンゲのでき方がどう変わるか実験してみましょう。今回は120度のシロップ(125度に煮詰めた後、火を切るため少し温度が下がる)を入れながら泡立てる「イタリアンメレンゲ」でマシュマロを作りました。
※メレンゲにはこの他、氷水にあてながら泡立てる「コールドメレンゲ」、湯煎しながら60度くらいの卵白を泡立てる「ホットメレンゲ」などがあります。
汲田 喜代子(くみた きよこ)
高知県いの町立川内(かわうち)小学校 教諭
「カイコをそだてよう」では、桑茶や桑ケーキを作り、育てたカイコが作った繭から糸を採り織物に。「ピザのたねをまこう」では、小麦、タマネギ、ニンニク、トマトを育てピザやスパゲティー作りに挑戦。「ふくじんづけパーティーをひらこう」ではナタ豆を育て、塩漬けにした他の野菜と一緒に福神漬けを作るなど、「どきどき」「わくわく」がいっぱいの食農教育に取り組んでいます。
藤本勇二(ふじもと ゆうじ)
武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。
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