じゅんかん時計で考える 【食と社会】[小6・社会]
食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第六十七回目の単元は、「じゅんかん時計で考える」。環境学習プログラムの授業です。
この授業は、食品などの製品が製造・消費・廃棄といったライフサイクルを送る過程で、どれほどの資源を消費したり、環境に影響を与えたりするかを総合的に考える活動です。6年生の社会科で取り組みました(※オリジナルは、アメリカの環境学習プログラム「PLT:Project Learning Tree」の「トラック輸送」です。これを藤本がアレンジしました)。
「じゅんかん時計」のねらいは「製品が原料から製造される過程で多くのエネルギーと時間を使うことや、製品を大切に扱うためには知識と知恵と技術を集め、協調していくことが大切であることに気付かせること」です。画用紙に絵を描きながら、グループのメンバーで相談する活動を通してねらいを達成していきます。
原料から製品になるまで
このように話しながら授業を始めました。四つ切り大の画用紙をグループに1枚ずつ、油性フェルトペンもグループに1セットずつ配ります。
「では、どのグループが何の製品について考えるかは、くじで決めます」
そう言って、子どもたちの目の前で付箋紙をめくります(付箋紙の裏側には鉛筆でテーマの製品名が書かれています)。
「えー、難しそう」
「やったー!」
の声の中、子どもたちはグループごとに1枚の画用紙を真ん中に置いて、くじで決まったテーマの絵を描き込みます。今回のテーマは、牛乳パック・ミックスジュース・大豆でできる製品です。みんな、それらが器に盛りつけられた絵などを描いています。
このように、じゅんかん時計の前半は原料の場面から、製品が消費者の手元に届くまでを画用紙の右半分に描きます。この時、時計の文字盤にきっちり対応させるように描く必要はありません。原料から製品の細かい製造工程についても描けなくて構いません。グループで、その過程を話し合って相談することが一番の目標です。
絵ができるとグループごとに発表していきます。原料は何で、どのようにして牛乳パックやミックスジュースになるかなど、話し合った結果を発表します。この前半の活動から、製品が作られるまでには、いかに多くのエネルギーと費用が使われているかがわかります。
製品を大切に使う工夫
「作った製品を隣の班にプレゼントしてください」
というもの。つまり、グループで画用紙を交換することです。6班が1班に、1班が2班に、……というように、製品の原料から出来上がるまでを描いた画用紙を隣のグループに渡します。ミックスジュースを担当した班は、自分たちが描いた絵を豆腐の班に渡します。豆腐の班は、ミックスジュースの絵を受け取り、自分たちの描いた豆腐の絵を牛乳パックの班に渡すのです。
「こんなに時間をかけてエネルギーを使って作られたものですから、大切に最後まで使って下さいね。ところで大切に使うってどんなことだろう?」
と問いかけると
「残さず食べる」
「容器を使って違う物を作る」
などの意見が出ました。
「グループのみんなで相談して、製品を大切にする工夫やアイディアを画用紙の左半分に描きます。できれば、最後は原料の場面に戻せたらいいですね。自然に返すことを目指してね」 と説明します。
こうしてじゅんかん時計の後半は、6時から始めて12時までの間を描いていく作業となります。他の班からもらった画用紙の続きとなる左半分の残りを描くので、子どもたちは、
「エー! 難しいよ」
「できないよ!」
と言いながらも、プレゼントされた製品を最後まで使う工夫を考え始めます。子どもたちがどのようなことを知っていて、何を知らないかを引き出すためにこの活動を取り入れたので、疑問点は残しておいて構いません。また、どの段階で自然に返ったかは、グループの判断に任せます。グループの一人の気づきやアイディアを全体へ広げて製品を最後まで大切に使う知恵を出し合うことが大切なのです。
意見がなかなか出ないグループには、大切に使う工夫を考える視点――リサイクルやリユースに触れて助言します。たとえば、
「牛乳パックは小物入れにしよう」
といった提案です。
最後はグループごとの発表です。
牛乳パックは、
「パックを開く → 工場で溶かしてトイレットペーパーの芯にする → 焼いて灰 → 土の中」。
ミックスジュースは、
「皮で拭いて手をきれいに → 肥料ゴミナイス(野菜くずを肥料にする機械)に入れる → 肥料 → ミカンの木にまく」
などの意見が出てきます。また、
「それって本当にできるのかな」
「もっとほかの方法はないか」
などの意見も出ました。「もっと知りたいね、地域の人々はどんな工夫をしているんだろう」という疑問が生まれ、子どもたちの取材する気持ちが高まりました。
家庭科の授業につながる活動
「紙って、燃えたら肥料になるのかな」
「そんなにうまくいくのかな」
「燃やしてもいいかな」
こうした疑問や新しい気づきも生まれます。あるいは、
「おばあちゃんが包み紙をとっていました」
「ミカンの皮で手を拭くと本当にきれいになるんだろうか」
「牛乳パックから紙ができるのかな」
などと、やってみたいことが次々に出てきます。この話し合いの中から生まれた疑問・やってみたいという意欲が原動力となり、その後の家庭科の学習へと進めることができました。
その後の学習で、家族や近所のお年寄りの方から聞いてきた暮らしの知恵をいくつか選び、グループに分かれて実際に試しました。たとえば、地元特産のユズをつかった「柚味噌」、ユズの皮と蜂蜜を合わせた風邪薬、ユズのタネを焼酎につけた化粧水……こうしたものを作りました。
実際に牛乳パックからハガキを作ろうと取り組んだグループは、給食で出される牛乳パックを洗って紙漉をしました。地域で紙漉をされている方が子どもたちの学習を知り、作り方を教えて下さいました。
授業の展開例
- 今回は、できあがった食品などの製品を大切に使うことが学習の中心となりましたが、前半の製品を作る活動を中心に学習を組むことも可能です。「どのようにして食品ができるのだろう」といった疑問をもとに、調べたり工場を見学したりする活動につなぐといいでしょう。
- 大豆製品を取り上げて「じゅんかん時計」を作ってみましょう。
藤本勇二(ふじもと ゆうじ)
武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。
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