2011.10.18
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調理の言葉 【食と言葉】[小6・国語]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第六十二回目の単元は、「調理の言葉」。調理に関係する言葉を集めてまとめます。

「言葉」と「体験」の重要性が指摘されています。「言葉」は学力を支え、「体験」は心を育て、体を育てる上で極めて重要です。子どもたちの生活に目 を向けると当然のことながら、 「言葉」と「体験」は一体化していることに気がつきます。体験が豊かであった時には、生活になじんだ言葉がありました。しかし調理の言葉を例にとっても、 今は日常的に使わなくなってきたものが多くなってきています。料理を作る過程での親子の触れ合いがなくなっていることも言葉が伝わらなくなった原因の一つ のようです。

「言葉」は主に国語の授業を通して育てます。その際、家庭科実習での体験と結びついた言葉を意識的に指導することも可能 です。そこで調理の言葉を取材してまとめる学習をしました。調理に関係する言葉を集めて言葉の世界を調べたのです。6年生の国語の学習で3時間ほど取り上 げてみました。

言葉の仲間分け

家庭科と総合的な学習の時間に「味噌汁プロジェクト」の学習に取り組みました。味噌を仕込み、それぞれの家庭の味噌や全国の味噌を食べ比べしたり、具にこ だわり、海岸部の学校と食材の交換をしたりしました。味噌汁作りを通して、地域の食材の魅力や旬の食材のよさ、朝食の大切さなどを学びました。

「調理の言葉」を付箋紙に書き出す

この体験を受けて、国語の時間に「調理の言葉」に着目させました。
「味噌汁作りでは、『茹でる』や『半月切り』などの調理の言葉を使ったね。他にも調理に使う言葉を集めよう」
 と家庭学習で取材させました。1時間目は、集めてきた調理の言葉を整理する活動を行いました。十分に聞き取りできなかった子には国語辞典で探させます。取材ノートや国語辞典で見つけた言葉を出し合って付箋紙1枚につき1個の言葉を書き出します。
「『ねる』ってなんだ?」
「うどんをほらこうやってすることだよ」
 動作を交えて話し合いながら子どもたち同士で言葉を理解していきます。

グループで付箋紙を仲間分けする

次に、グループでの話し合いです。皆で持ち寄った多くの言葉の付箋紙を仲間分けして、まとまりを作っていきます。この活動は、グループで相談して仲間分けすることが目的で、答え合わせなどは行いません。
「ここは包丁を使う系で」
「こっちは『蒸す』と『蒸らす』だから、蒸気を使う系……」
「『炒める』と『焼く』は火を使う系」
「『いちょう切り』や『千切り』は切り方の仲間」
「ところで『蒸す』と『蒸らす』ってどう違うんだ?」
 今度は、仲間分けの解釈を通して議論が自然に始まります。子どもたちの活動を見ていると、これは完全に言葉の学習になっています。

「『絡める』と『まぶす』って液体と固体の違いなのかな?」
「『溶く』と『溶かす』は違うんだよ」
「一緒だと思っていた」
「『溶く』ってなんだ?」
「小麦粉をほら、こうやってすることだよ」
 身振り手振りで、相手に説明しています。子どもたちが生活の中で言葉を獲得していく過程が見えたような気がしました。

「調理の言葉」に関係する絵を描く

こうして整理できたら、今度は言葉の周りに関係する絵を描きます。調理器具も描いていきます。絵に表現することで意味を獲得していく子もいます。この活動には、子どもたちからもっとやりたいという声が多数上がりました。そのリクエストに応えて2時間目も続けました。

謎が生まれる

グループごとに言葉の仲間分けができあがったところで、今度は全員でどんな風にまとめたかを簡 単に報告し合います。他のグループの話を聞きながら、意味のわからない言葉をワークシートに書きます。グループの話し合いで「悩んだ言葉」や「初めて知っ た言葉」などもワークシートに書き留めておきます。

和える・さらす・あく抜き・まぶす・締める・いぶす・油抜き・溶く・こす・戻す・面取り・びっくり水などが、意味がはっきりせずに「悩んだ言葉」、「初めて知った言葉」として上がりました。

「蒸す・蒸らす」「絡める・合わせる・混ぜる」「下ろす・する」「添える・盛る・並べる」「炒める・焼く・炙る」「漬ける・浸す」「煮る・煮込む」「さばく・切る」などの言葉が、同じような調理法に見えても違うかもしれない「調理の言葉の謎」として浮かび上がりました。

3時間目には、この謎を解決していくために国語辞典で意味を調べました。多くの言葉は国語辞典でわかったのですが、具体的な調理法の違いまではピンとこないものもありました。そこで、子どもたちは職員室に行って先生方に聞きました。
「『蒸す』と『蒸らす』はどう違うのですか?」
「ご飯を炊く時にするでしょ。『蒸らす』は火を止めている状態で……」
「『絡める』と『混ぜる』は?」
「大学芋のように、表面に味を付けるのが『絡める』で……」
 先生方に答えていただき、子どもたちはスッとイメージできました。国語辞典の説明ではつかめなかった違いがはっきりとわかったのです。「炊飯」や「大学 芋」という具体的な体験やものを例に上げてもらったためでもあります。体験を通して学ぶとは、こういうことなのでしょう。体験の重要性を実感しました。

豊かな調理の言葉の世界

子どもは体験を通して言葉を獲得する

料理のレシピを読みこなせない大人が増えているそうです。切り身の魚では「さばく」は必要ないですし、レンジでチンでは「和える」「絡める」なども同様で しょう。さらに、包丁とまな板のない家庭では、もっともっと言葉が少なくなっていくと思います。言葉と体験を今つないでおかないといけない(もちろん時代 と共に変わることは仕方ないとも思いますが)、そんな気がします。調理の言葉を知らない子どもたちがいることは、大人の課題なのではないかということにも 気づかされました。
授業の展開例
  • 「卯の花」は「おから」のことです。日本では昔から料理に特別な名前をつける文化があります。他にどんなものがあるのか調べてみましょう。
  • 「少々」と「ひとつまみ」など量を表現する調理の言葉も興味深いものです。実際にはどれくらいなのか調べてみましょう。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

文:藤本勇二 イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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