蒸すってなあに 【食と言葉】[小4・国語]
食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第五十五回目の単元は「蒸すってなあに」。調理の言葉への関心を高める学習です。
「蒸す」から連想する言葉を集めよう
「“蒸し”パンの生地を“蒸し”器で“蒸し”ましたね」
と言うと、
「先生、『蒸す』ばっかりだね!」
と、まずはツッコミを入れられました。
「では、蒸した時に何を見つけたかな?」
と問うと、
「湯気がいっぱい出てきました」
「熱かったよ」
「お湯を沸かしました」
「蓋をとると蒸しパンが膨らんでいました」
子どもたちが経験したことを語ります。
次に、
「蒸しパンを作った時に出会った『蒸す』に関係する言葉を集めてみましょう」
と言いながら、子どもたちに付箋紙を配ります。子どもたちは1枚の付箋紙に、思いついた言葉を一つ書くこととします。黒板の中央に大きく書かれた「蒸す」の周辺に、一人一人が自分の付箋紙を貼っていきます。
子どもたちが付箋紙を貼る作業を手伝いながら、大まかな分類をしていきます。「水蒸気」などの理科で登場した言葉、「シューマイ」などの料理名、「茹でる」などの調理の言葉に分けました。
「蒸す」について一度整理
「この言葉ってどこかで習ったよね」
と聞きます。
「理科の時間に習いました」
「水の変身のことです」
と子どもたち。
「そうですね。理科で勉強した『水が温度によって姿を変える』ということを、蒸しパン作りで確認したのですね」
さらに続けます。
「水を温めて沸騰させ、出てきた水蒸気で調理する。冷えたら湯気が見える。水滴も付きますね」
このように、理科の学習内容である「水の三態変化」につなげながら「蒸す」ことを説明していきます。
「蒸す」料理を探す
と子どもたちは理解を深めます。そこで、
「そうですね。蒸すに関係することは理科の勉強につながっているのです。じゃあ、『蒸す』ことでできる料理はあるかな?」
と話を料理の世界へ広げていきます。子どもたちからは、
「あんまん」
「ピザまん」
「蒸し餃子」
「茶碗蒸し」
と、次々に意見が出てきます。今度は、
「いろんな食べ物が出てきたね。ところでどうして蒸すといいのだろうね?」
と、蒸すことの利点を考えさせます。
「柔らかくなるから」
「おいしくなる」
「色が濃くなる気がする」
「蒸しパンの時に生地が膨らんで大きくなったよ」
こうした意見が出てきます。
「蒸す」ことのよさについて話し合う
ここで栄養教諭の登場です。担任教諭が代表して、子どもたちの意見をまとめて報告後、
「『蒸す』って、どんないいことがありますか?」
と聞きます。栄養教諭からは、
「柔らかくなって食べやすくなります。栄養素が溶け出さない上に、油を使わないので栄養がギュッと詰まってしかもヘルシーです。水蒸気は気体なので食品がどのような形をしていても、熱が食品全体に行き渡るからムラがなく調理できます」
といった話をしていただきました。
さらに、「蒸す」は水を沸騰させて出た水蒸気の熱で加熱すること。「蒸らす」は、火を止めて調理器具の内部に残った熱や 水蒸気などを閉じ込めて調理する方法であること。「蒸す」と「ふかす」は同じ意味で、蒸したイモのことを「ふかしイモ」と言う……といった、それぞれの調 理法の違いや共通する点についての話がありました。
子どもたちは、「蒸す」という言葉を足場に、理科と調理の世界、そして生活の中の調理の言葉へ関心を向けるとことができました。
授業の展開例
- 「蒸す」ことでできる食品や料理を調べてみましょう。
- 「煮る」と「煮込む」の違いを調べてみましょう。
藤本勇二(ふじもと ゆうじ)
武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。
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