2010.01.19
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本の探偵団 【食と言葉】[小4・国語]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第四十二回目の単元は「本の探偵団」。食べ物が登場するお話を紹介しあいながら本に親しみましょう。

食べ物が登場するお話は、子どもたちにとっても印象深いものです。物語や本にまつわる思い出もたくさんあります。食べ物をきっかけに思い出されることもたくさんあります。皆の思い出を紹介しながら読書活動につなぐ授業です。

給食の時間の会話から…

「『ぐりとぐら』の話の中に出てくる目玉焼きの話を知っていますか?」
そう聞くと、子どもたちからは、
「先生、違うよ。カステラだよ」
「え! そうだったかな?」
「先生、その本は私が初めて買ってもらった本だから覚えています」
「先生、私も大好きです」
皆、口々に語り出します。そこで、
「そうかあ。じゃあ、11匹のネズミが出てくる話は知っているかな?」
と聞いてみると、
「何? それ」
という反応。
「家族でピクニックに行ったり、ご飯を食べたり……」
と、さわりを説明すると、
「知っている、知っている」
「でも、14匹じゃなかったっけ」
「ネズミじゃなくてイヌ?」
「それは、『101匹わんちゃん』でしょ!」
などと、子どもたちはにぎやかに会話して、興味がどんどん湧いてくるようです。
「昼休みに先生のお手伝いをしてくれる子がいたら図書室においで、一緒に本を探そう」
こうして子どもたちと本を探して、5時間目の授業が始まります。

卵で作るのは目玉焼きじゃなくてカステラ

さっそく本を読む

「先生は『ぐりとぐら』の本を手にして、思い違いをしていたことに気がつきました。お話に登場するのは目玉焼きでなく、カステラでした」
「やっぱりね」
と子どもたち。
「この絵本を読んだことのある人はいますか?」
クラスの8割が手を挙げます。
「どんな話だったかな。先生が覚えているのは、大きな卵を運んでいるところなんだ」
すると、子どもたちはそれぞれ
「うん、うん」
「割った卵を車にしていた」
「そうそう」
「ぐりとぐらがカステラを作って森の皆で食べる」
と、自分たちの記憶をたどります。

「そうだったか。それと、11匹はこちらの絵本(『11ぴきのねこ』馬場のぼる 著 こぐま社)で、先生がさっき思っていたのは14匹のネズミの物語でした」
と言って、絵本(『14ひきのあさごはん』いわむらかずお 著 童心社)を見せると、子どもたちは、
「持っている!」
「読んだことがある!」
と、これまた大反響。
「先生はね、物語の思い出をたどりながら、皆と本を探してみて楽しかったです。ずっと昔に読んだことも思い出したよ。では、食べ物が出てくる物語で、皆が 読んだことのある本を探してみましょう。そして、お互いに思い出を聞いたり紹介したりしてみようか」。

本の探偵団になる

「おにぎりの出てくるお話といえば何だろう?」
と聞くと、
「はい、おにぎりころりん」
「違う、おむすびでしょ」
「そうだった」
教室に笑いが広がります。そして、
「どんな話だったかな?」
と質問すると、
「おじいさんが……」
「穴に落ちて……」
「ネズミが……」
と不思議なことに、一人が話すと話のまとまりごとに次の子にリレーし、物語が自然に続いていくのです。
また、最後に話した子が、
「おじいさんと幸せに……」
そう言うと、別の子が
「あれ、そうだっけ? 意地悪じいさんが出てきて……」
と訂正を入れ、
「そうだった?」
と、皆で本を見て確認します。すると、
「出てきた!」
と思い違いに気づくこともあります。

「皆も先生のように思い違いをしていることがあるんだね。皆でお話を探したり紹介したりするとおもしろいでしょ。じゃあ、もっと本の探偵団になってみようよ。ほかにおにぎりが出てくるお話はあるかな?」
「『一つの花』!」
「そうだ!」
「おにぎりがとても大切なことを表していましたね」。

 こうして、「スープが出てくる話」「チョコレートが出てくる話」「パンが出てくる話」と進めます。一人が話の断片を少しでもつぶやくと、すぐにだれかが反応して思い出や内容を語り始めます。そのうち、
「その話はあまり読んだことがないよ」
「そうか、教室に置いてないかな」
と、今度は本を探し始める子も出てきました。ふと教室を見渡すと、話を思い出している子、隣の子と語りあっている子、学級文庫で本を探している子、探した 本を友だちに教えている子、昼休みに集めた本を読んでいる子……と、一見てんでばらばらながら、全員が同じことに向かっている素敵な風景になっていまし た。

持ち寄った本を読み合う

 授業の最後には子どもたちから、
「先生、本を持ってきていい? 小さい頃の本だから落書きもあるけど」
という提案がありました。
「いいよ、思い出だからね」
「僕も他の本が読みたくなった」
「皆、お気に入りの本があったら紹介してあげようね」
そんな話で授業を終えました。
翌日、おのおの思い出の本を持ってきた子どもたち。お互いに紹介したり、借りたりしながら本に親しむことができました。

 子どもたちの思い出を紹介します。
「『14ひきのやまいも』、2年生のときに、この本が気に入っていて、3年生になっても読んでいました。そして、生活の時間に芋掘りでチャンピオンになったこともずっと覚えています」。

「『プカプカチョコレー島』、小さい頃に、今老人ホームにいるおばあちゃんによく読んでもらった」。

「『いちごばたけのちいさなおばあさん』、保育所でお母さんのお迎えが遅くなって雨が降っていて、そのときに読んでとても好きになっていました」。

「『おおきなかぶ』、よく寝る前に読んでもらった。弟と取りあいになったこともあった。よく弟が『うんとこしょ、どっこいしょ』といいながらまねをしていた」。

授業の展開例
  • 家族や先生に大好きなお話や本にまつわる思い出を聞いてみましょう。食べ物が登場することが条件です。
  • 『本の探偵事典 ごちそうの手がかり編』(あかぎかんこ 著 フェリシモ)を読んでみましょう。今回の授業で使わせていただきました。「こどもの本の探偵」をしていらっしゃる赤木かん子さんが、探偵依頼を受けて探してきた本の数々を取り上げています。見開きの右ページに、手がかりについての簡単な記述があり、次のページから1ページに4冊分の本のカラー写真と、発行年、出版社、著者名が載っています。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

文:藤本勇二 イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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