2009.06.16
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だ液はえらい! 【食と科学】[小6・理科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第三十五回目の単元は「だ液はえらい!」。実験を通して、だ液の働きや大切さを理解させましょう。

食に関する課題は科学的な側面を持ち、理科との関連が極めて大きいものがあります。理科で学んだ内容や知識は食育の内容を実感あるものにしていきます。6年理科の「消化と吸収」の学習で、だ液の働きと噛むことの大切さを考えさせてみました。

理科「消化と吸収」の学習で

6年生の理科「消化と吸収」では、消化液の一つとしてだ液が登場します。実験を通してだ液がデンプンを他のものに変えることを理解させます。

 消化は食べ物が口に入った時点から始まっています。よく噛むことでだ液がたくさん出ます。食べ物にだ液がよく混ざり、だ液に含まれる消化酵素によって消化が促進され、胃腸の負担を少なくします。だ液は食べ物を消化するために大切な働きをしています。

 このように、だ液はなくてはならない大切なものなのですが、子どもたちは、汚いもの、不要なものと考えています。こうした子どもたちの見方を変えるために授業を考えました。まず、実験に先立って朝食を食べることの大切さを話します。

「ご飯やパンなどの主成分であるデンプンが消化されてブドウ糖になってはじめてエネルギーとなり、脳を活発に働かせること ができます。脳はエネルギーの消費が大きく、寝ている間にも消費します。だから朝食を食べないと脳にエネルギーが行かないのでボォーッとしてしまいます」
こう話した後、
「だ液でデンプンが本当に変化するのかな。調べてみよう」
と問いかけ実験を始めます。

だ液がデンプンを変える

実験は一人一人行います。自分専用の容器に自分のだ液を入れて実験すれば、他の人のだ液で行う場合と違い、心理的な嫌悪感が少なくなります。

 まず少量のおかゆを自分の容器(アルミのカップ)に入れます。そこにヨウ素液をたらすと、すぐに青紫色に変化します。次 に青紫色に染まったおかゆにだ液を落とします。青紫色に染まっていたおかゆが次第に透明に変化します。子どもたちはだんだんと色が薄くなっていく様子に驚 いています。おかゆは40度くらいに温めておき、口の中の状態と同じようにしておくことがポイントです。

  • おかゆを自分専用の容器に入れる。

  • おかゆにヨウ素液をたらす。

  • だ液を入れると色が透明に変化。

だ液はどんな働きをするか?

次に、だ液の働きを説明します。
「食べ物の消化・吸収を高める」
ということに加えて、
「口の中の汚れを落とす」
「味を感じさせる」
「食べ物を飲みこみやすくする」
などの働きがあることを話します。さらに、
「分泌されるだ液の量は1日1~1.5リットル、つまり牛乳パック1本分以上にも相当する」
と話すと、子どもたちは皆びっくりしています。

「ご飯やパンなどを噛んでいると甘く感じられることがありませんか」
と聞くと、
「ある!」
と答えてくれます。
「それはだ液がデンプンを糖に変えているためです。よく昔から“早食いは消化によくない”と言われますが、食べ物を消化しやすくするためには噛むことが大切だからです。よく噛んでだ液を出して消化することで体に栄養を取り入れるのです」。

 この実験を通してだ液に対する子どもたちの見方が変わっていきます。子どもたちの感想です。

「僕は、はじめだ液は汚いと思っていたけど、実験をやってみるとだ液はこんなにすごい働きがあり、味を感じることができるのは、だ液のおかげだということがわかってよかったです」

「1日1.5リットルのだ液が出ていると知ったときは驚きました。だ液はただ出ているだけでなくて、だ液がちゃんと体の中で仕事をこなしているんだ、私たちにとって大事なものだとわかりました」

授業の展開例
  • 私たちの体の中には多くの消化酵素が働いています。だ液の中に含まれているアミラーゼはデンプンを分解する消化酵素です。他にはどんな消化酵素があるか調べてみましょう。
  • 「固いもの」「食物繊維が多いもの」など、噛みごたえがある食べ物と、ゼリーやプリンなどの柔らかい食べ物を食べ比べてみましょう。噛みごたえがある食べ物は、自然と噛む回数が増え、たくさんのだ液が出てくれます。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

文:藤本勇二 イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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