2009.02.17
食感の言葉
【食と文化】[小6・国語科]
食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第三十一回目のテーマは「食と文化」。食べ物を表現する擬音語・擬態語に親しみながら、食感を表す言葉に関心を持ちましょう。
日本語には食感を表す言葉が多いといいます。その代表が擬音語、擬態語。「ホクホクした焼き芋」、「コリコリしたたくあん」、「シャキシャキのレタス」。こうした言葉には、実際に自分がそれを口にしていなくても、そのおいしさを思い浮かべるよさがあります。言葉は食文化を伝えていくうえでとても大切です。
食感を表す擬音語・擬態語について、国語の時間に2時間ほど取り上げてみました。
ご飯・のり・梅干の食感を表す言葉を見つけよう
黒板に 「ガムを____食べる」 と書き、この空いたところにどんな言葉が入るかなと聞きます。子どもたちはすぐに 「クチャクチャ」 と答えます。擬音語・擬態語について簡単に説明した後、「ご飯」の写真を見せます。炊き立てのご飯がお茶碗に入っていて湯気が立ち上っています。子どもたちに思いつく言葉を発表させます。すると、「ほくほく」、「ほっかほか」、「てかてか」、「(米粒の表面の様子から)ぴかぴか」、「もちもち」。 次は「のり」の写真。「パリパリ」、「ザラザラ」、「サクサク」、「バリバリ」の言葉が出てきました。 次に、「梅干」の写真を1枚ずつグループに配ります。ホワイトボードに思い浮かぶ言葉を書いていきますが、ご飯やのりよりも難しいようで、すぐには言葉が浮かんできません。身振り手振りを交えて言葉を探しています。ホワイトボードに書いた言葉を発表していくと、次のような言葉が出てきました。 「しわしわ」、「ふにゃふにゃ」、「プニュプニュ」、「カリカリ」、「ゴリゴリ(硬い梅干のようです)」。
擬音語・擬態語から思い浮かぶ食べ物を当てよう
次に、各グループに一枚ずつ付箋紙を配ります。付箋紙にはそれぞれ「かき氷」、「ラーメン」、「きな粉パン」、「ハンバーグ」、「ポテトチップス」と書かれています。グループごとに、他のグループには分からないように席を離して相談しながら、担当する食べ物の食感を表す言葉をホワイトボードに書いていきます。 最後に、子どもたちの考えた言葉を順番に発表させ、それをヒントに皆で食べ物を当てて楽しみました。次の通りです。
■ツルツル、ずるずる、ずーずー、チュルチュル
答え:ラーメン
■シャリシャリ、キーンキーン、ザクザク、ガリゴリ
答え:かき氷
■(このグループは食品の製造過程を表現していました。)
ほくほく → ザクザク(トントン)→ ジューパチッ、パチッ → パリパリ
答え:ポテトチップス
■サクホク、ジュージュー、ジュワジュワ、ホワホワ、ぬくぬく
答え:ハンバーグ
■カリッカリッ、ザラザラ、もちもち、パサパサ
答え:きな粉パン
ここまでで1時間です。
今度はみんなで一斉に食べ物を思い浮かべよう
「クチャクチャと言えばどんな食べ物を思い浮かべますか」 「ガム」 「そうですね。2時間目は、こんなふうに食感を表す言葉から、食べ物を思い浮かべる活動です。今度はみんなと同じような食べ物を思い浮かべることがポイントです」。 つまり、みんなと同じ食べ物を思い浮かべられた方がいいのです。食べ物を表現した擬音語・擬態語を聞いて、みんなが思いつくような食べ物を思いついたら起立していきます。全員が起立したら「セーノ」でその食べ物の名前を言います。なかなか食べ物を思いつかないときには、座っている人たちが当てます。起立している人は答えが当たったら着席します。 出題した問題と子どもたちが想像した食べ物を紹介します。食べ物は想像した人数の多い順です。 【こりこり】…… 漬物、骨付きチキン、軟骨、タコ、キュウリ、ナタデココ 【ツルツル】…… ラーメン、そうめん、うどん、ゼリー、氷 【パサパサ】…… チャーハン、パン粉、焼き鮭、乾パン、粉チーズ 【ツルン】…… そうめん、たこ、寒天、ゆで卵、プリン 【ねばねば】…… 納豆、バナナ、ヤマイモ、オクラ、 【フワフワ】…… 綿あめ、パン、ホットケーキ、スクランブルエッグ、生クリーム、千切りキャベツ たとえば、 「ねばねば」 といえば、 「納豆!」 と、ほぼ全員の子の声がそろい、思わず笑顔が出たり、 「そうか、確かにオクラもねばねばだね」 と納得したりと、大変楽しい活動になりました。 「何で千切りキャベツがフワフワなの」 と聞くと 「お皿に盛ったときの感じがフワフワしている」 「ああ、そうだね」 「食感ではないかもしれないけどいいよね」 そんなふうに話が弾みました。
食べ物から思い浮かぶ擬音語・擬態語を当てよう
2段落目「擬音語・擬態語から思い浮かぶ食べ物を当てよう」の活動と同様、各グループに一枚ずつ付箋紙を配ります。今度は、それぞれ「もちもち」、「サクサク」、「とろとろ」、「ぷるぷる」、「シャキシャキ」と食感を表す言葉が書かれています。他のグループには分からないようにグループ内で相談しながら、その言葉から連想する食べ物の名前を書き出します。みんな、ニコニコと楽しそうに話し合ってくれました。
■もち、パン、白玉、マシュマロ、ぼたもち
答え:もちもち
■ビスケット、クッキー、ポッキー、ピザの生地を焼いた部分、フランスパン、揚げた餅、クルトン
答え:サクサク
■生クリーム、温めたチョコ、ハチミツ、焼いたチーズ、サトイモ、みずあめ
答え:とろとろ
■グミ、生卵の黄身、ゆで卵、寒天、こんにゃく、ゼリー、プリン
答え:ぷるぷる
■千切りのキャベツ、かき氷、刺身についている千切りのダイコン、サラダ
答え:シャキシャキ
日本語の食感表現の豊かさ
子どもたちの感想を紹介します。 「一人では1から3個ぐらいしか出てこなかったけど、班で意見を出し合ったら、食べ物のイメージや味が見えてきた。言葉ってすごいなあと思いました」。 「擬態語や擬音語を考えてみるとたくさん出たけど、その食べ物にぴったり合った言葉を見つけるのは難しかった。考えるのも難しかった。反対に、言葉から食べ物をさがすとたくさん見つかった。同じ言葉でも、みんなの意見がそれぞれ違っていたのがおもしろくて不思議だった」。 「いろいろな言葉が出てきてびっくりした。自分が思っていたのとみんなが思っているのが違っているとふつうはいやだけど、とてもいろいろあっておもしろかったし、言葉がおもしろくなった」。 「官能評価のためのテクスチャー用語リスト 食品機能研究領域 食品物性ユニット 早川 文代: 食総研ニュース No.19(2007)」によると、日本語には445語の食感を表す表現があるそうです。中国語で144語、英語で77語、ドイツ語で105語と比べると日本語の食感表現の多彩さは際立っています。農研機構食品総合研究所の主任研究員、早川 文代さんは次のように述べています。 「日本語の食感表現の多さには、擬音語・擬態語が多いという言語上の特徴が関係しています。しかしそれだけではなく、日本人が食感に対して繊細であり、こだわりをもっていることが背景にあるのだと思います。言葉は単に食品の性質を表すだけではありません。言葉を使う人たちの食生活や食嗜好を反映しています。おいしいものを食べたら、どんな風においしかったか言葉にするのは楽しいことです。言葉にすることで、食べ物への興味や愛着がわくこともあると思います。食卓の楽しい記憶も増えるでしょう。日本語に多彩な食感表現があるということは幸せなことではないでしょうか。」 (出典:農林水産省オピニオン第15回 )
授業の展開例
- 英語では「○○のような」という比ゆ的な表現が使われるようです。食感を表す表現を調べてみましょう。
- 「もちもち」や「ぷるぷる」などの表現は昔は使わなかったと思われます。お父さんやお母さん、おじいちゃんやおばあちゃんに昔は使わなかった食感を表す表現を聞いてみましょう。
藤本勇二(ふじもと ゆうじ)
武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。
文:藤本勇二 イラスト:あべゆきえ、みうらし~まる〈黒板〉
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