2026.09.29
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同じ食材なのに、食べ方がちがうのはなぜ? 【食と文化】[中学校3年生・家庭科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイデア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子どもたちの興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。
第232回目の単元は「同じ食材なのに、食べ方がちがうのはなぜ?」です。沖縄県石垣市立石垣中学校の3年生が、沖縄県立八重山農林高等学校の生徒、武庫川女子大学の学生とオンラインでつながり、約1600キロ離れた石垣島と関西の食べ方のちがいから、自分たちの地域の食を見つめ直しました。

授業情報

テーマ:食と文化
教科:家庭科
学年:中学校3年生

この授業の目標

石垣島でとれる食材と他の地域の食材を比べ、食べ方のちがいに気づき、その理由を気候や風土と結びつけて考えることができる。

食育の視点

〈食文化〉自分の住んでいる地域の産物や食文化について学ぶことで、身近な土地でとれた食べ物について知ることができる。

実践の概要

沖縄県石垣市立石垣中学校の3年生を対象に、上江洲美奈教諭と藤本が行った家庭科の実践を紹介します。授業には、八重山農林高等学校の生徒と知花江梨子教諭、武庫川女子大学・藤本ゼミの学生がオンラインで参加し、中学校・高校・大学の三者が同時につながる形で進められました。

石垣島は、温暖な気候と豊かな自然環境に恵まれ、さまざまな新鮮な食材が手に入ります。しかし、身近にありすぎて、なぜこの島でよく育つのか、ほかの地域ではどのように食べられているのかを考える機会はあまりありません。そこで、約1600キロ離れた兵庫県の大学生や、地元の先輩である高校生と食材を出し合い、「同じ食材でも地域によって食べ方がちがう」ことに気づかせ、その理由を気候や風土と結びつけて考えさせたいと思いました。

授業が行われたのは6時間目。この日の給食は、青パパイヤを使ったチャンプルーでした。「おかわりをした人は?」という問いかけに半分以上の手が挙がり、いつも食べているものが、そのまま教材になる授業が始まりました。

1600キロ先の食と出会う──スリーヒントクイズ

授業は、大学生から中学生への「関西のご当地の食べ物」スリーヒントクイズで始まりました。

第1問。「お祭りや家でみんなと食べることがあります」「小麦粉、天かす、紅しょうが、ねぎを使って作ります」「丸い形をしています」。ヒントが二つ出たところで、教室からは「たこ焼き!」の声が上がりました。

第2問は「いかなごのくぎ煮」。「いかなご、しょうゆ、砂糖、しょうが、みりん、酒を使います」「とても小さな魚です」「兵庫では春になると食卓に並び、ごはんと一緒に食べます」。いかなごのくぎ煮を見たことがある生徒は一人、食べたことがある生徒も一人だけでした。

第3問の「そうめん」では、「夏など暑い日に冷やして食べることが多いです」というヒントで、生徒たちがいっせいに正解を口にします。大学生は、兵庫県を代表するそうめんのブランドがあることも紹介しました。

続いて、中学生から石垣島の料理を出題します。黒糖を使った沖縄の焼き菓子「チンピン」は、旧暦の行事の日に作られ、ふだんは子どものおやつとしても親しまれてきたもの。大学生からは「聞いたことがない」「食べてみたいです」という反応が返ってきました。

お正月や結婚式に食べる「イナムドゥチ」、そして「ツナ、玉ねぎ、にんじん、にら、そうめんを使います」「混ぜ合わせるという意味の調理法です」とヒントを重ねた「そうめんチャンプルー」。

同じそうめんなのに、関西では冷やして食べ、石垣では炒めて食べる。画面の両側で「ええっ」という声が重なり、この日の学習課題が自然に立ち上がりました。

実物を持ち寄る──ヘチマ、島らっきょう、フーチバー

次は、八重山農林高等学校の生徒が、島の食材の実物を画面越しに見せていきます。

最初はナーベーラー(ヘチマ)。大学生は「せーの、ヘチマ!」とすぐに言い当てました。「どうして分かったの?」と尋ねると、「理科の授業で観察しました」という答え。ところが、「食べたことは?」と聞くと全員が首を横に振ります。「たわしにします」「母に聞いたら、ヘチマの汁を集めて化粧水にしていたと言っていました」。石垣では、味噌汁の具として日常的に食卓に上がる野菜です。

次は島らっきょう。大学生は「これがらっきょうなの?」と驚きます。スーパーで買ってきたという関西のらっきょうは、70グラムで139円。漬物やカレーの付け合わせとして食べられています。

一方の島らっきょうは1袋200円ほどで、市場では1キロ5000円で取り引きされることもあるといいます。天ぷらにするときは緑の葉の部分もそのまま揚げると聞き、「おいしそう」の声が上がりました。上江洲教諭が自分で漬けた島らっきょうを画面に映すと、大学生からは「大きい!」という反応が返ってきます。

最後はフーチバー(よもぎ)。石垣ではヤギ汁に入れて肉のにおいをやわらげたり、味噌汁に入れたりします。大学生は、学校の前で摘んできたよもぎを見せながら「関西では、基本的にはお餅や団子にして食べます」と応じました。

同じ植物が、一方では汁物の香りづけ、もう一方では和菓子の材料になっていることが、画面の両側で確かめられました。

青パパイヤのひみつ──高校生が語る島の食材

高校生は、青パパイヤについても紹介しました。石垣島では、鳥が運んできた種が土に落ちて芽を出し、家の庭にいつのまにか育っていることも多いといいます。

関西の大学生は「スーパーに行きましたが、置いていないと言われました」「パパイヤは果物で、缶詰のイメージ」「色は黄色」と答えます。

石垣では、熟す前の青いうちに収穫して野菜として炒め物に使います。同じ食材が、熟す前は野菜として、熟すと果物として食べられることが見えてきました。

知花教諭は、青パパイヤを切ったときに出る白い汁について説明しました。この汁にはたんぱく質を分解する酵素が多く含まれ、消化を助ける働きがあること。青パパイヤは産後の体によいとされ、昔から親しまれてきたこと。汚れを落とす働きがあるため、洗顔料にも使われていること。身近な食材が、科学の知識と結びついた瞬間でした。

ナーベーラーについても、夏によく食べられる野菜であること、炒め物や汁物のほか、和え物や酢の物にもすることが紹介されました。「ヘチマってどんな味、どんな食感ですか」という大学生の質問に、高校生は「食感はナスに近いです」と答えます。実物を前にした質問と応答が、そのまま学びになっていきました。

「同じ食材なのに、食べ方がちがうのはなぜだろう」

黒板の中心には、この日の学習課題が書かれています。上江洲教諭が問いかけました。

「そうめんは、関西では夏に冷やして食べるよね。沖縄のほうが気温は高いのに、炒めたら余計に暑くない?」

「確かに」とつぶやきが漏れます。そこから、「おいしいから」という素朴な理由に加えて、「火を通すと安全だから」「傷まないようにするため」という考えが出てきました。

暑い地域だからこそ、火を通して日持ちさせ、安全に食べる。気候に合わせた知恵が、料理の形になっているのではないかと考えました。

「関西でもゴーヤーは育ちますか」という問いに、大学生は「育つけれど、小さい」と答えました。気候によって、育つ野菜の種類だけでなく、その大きさまで変わる。気温、日ざし、雨の量、土、とれる時期、そして保存や衛生。ちがいを生む条件が、生徒たちの言葉で並べられていきました。

板書には、石垣と関西のそれぞれの食べ方が対にして整理され、そこから導かれた三つの視点が残りました。「気温の条件に合う」「酵素の働き(パパイヤを切った時の白い汁)を生かす」「炒めるのは、火を通すことで保存・おいしい」。右端には、三校をつないだ距離「1600km」と、「食がつないだ縁」の言葉が添えられています。

授業を終えて──中学生・高校生・大学生の振り返り

授業の最後に、中学生・高校生・大学生がそれぞれ振り返りを書きました。

中学生の振り返りより

・関西の大学生と交流し、1600キロ離れていると同じ食材でも調理方法や食べ方などが全くちがうこと、また、それには気候や住んでいる地域などが影響しているのだと理解することができました。関西の郷土料理クイズでは、「いかなご」という名前の料理が出てきて、初めて見るもので、どんな味がするのか食べてみたいなと思いました。そして、特に印象に残ったのは、ヘチマの利用の仕方です。私たちの地域では、味噌汁と一緒に食べたり、食として味わっています。しかし、関西では、化粧水やたわしにするなどの使い方をしていて、とても衝撃的でした。

高校生の振り返りより

・石垣と関西でお互いの食の違いや食の文化の違いを改めて感じることができました。特にスリーヒントクイズや野菜の紹介で、中学生や大学生の反応を見たり、お互いの情報を教え合ったりする中で、こんなにも違うんだと思ったし、らっきょうの天ぷらを茎の部分まで食べると言った時の大学の皆さんの反応に私は驚きました。

また、沖縄ではヘチマを食べるけど関西ではヘチマを乾燥させてタワシに使ったり化粧水にしたりと全く違う使い方があることも初めて知りました。今日のこの時間は良いものになりました。

大学生の振り返りより

・今回ICTを活用して中高生とつながり、お互いの地域での食材のイメージや食べ方について交流することができた。約1600km離れた中高生と、画面越しではあるもののリアルタイムで交流できたことは、とても有意義な時間になった。特に、相手の驚いた表情や声などをその場で感じることができたため、文字や資料だけでは分からない相手の反応や雰囲気を感じながら、生の声で意見交換することの良さを実感した。

また、今回の交流を通して、普段何気なく食べている食材にも、その土地ならではの価値や歴史、文化が詰まっていることも分かった。同じ食材であっても、地域によって食べ方や捉え方が異なることを知り、他の地域を知ることの面白さを感じた。これをきっかけに、地域の食材や文化についてさらに深く調べ、それらを将来に残していくために、自分にできることは何かを考えていきたい。そして、今回のように他の地域の良さを知るだけでなく、交流を通して自分の地域の良さにも改めて気づくことができる学習機会を、今後もつくっていきたいと思った。

計画どおりに進まないことの価値

この授業は、事前の打ち合わせどおりには進みませんでした。食材を見せるたびに質問が飛び、話題は値段や調理法、方言の呼び名へと広がっていきます。しかし、その脱線こそが、画面の向こうの相手と本当にやり取りしている証でもありました。食材の実物という共通の対象があることで、中学生・高校生・大学生という三つの立場が、対等に言葉を交わすことができたのです。

半年後には、進学のために島を離れる生徒もいます。当たり前にあった食材の価値に気づいておくことは、島を出たあとに、自分の育った場所を語る言葉をもつことにつながります。「地域に、食から目を向けてね」。板書に残された言葉が、この授業の願いを表しています。

授業の展開例

・気候や地形などの自然環境が、人々の生活や産業に影響を与えていることを学ぶ学習と関連づけて指導することができる(中学校・社会科 地理的分野)。

・地域の食材を使った調理実習や、郷土料理を取り入れた献立づくりへ発展させることができる(中学校・家庭科)。

・食材に含まれる酵素の働きを取り上げ、消化や調理性の学習と関連づけることができる(中学校・理科)。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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