2026.06.22
  • x
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

2040年を見据えて、検討が進む次期学習指導要領 これまでと何が変わるのか New Education Expo 2026 リポート vol.3

現在、中央教育審議会では、次期学習指導要領に向けた議論が大詰めを迎えている。その議論を牽引する一人が、東京学芸大学副学長・教職大学院教授の堀田龍也氏だ。New Education Expo 2026では、教育課程企画特別部会部会長代理、情報・技術ワーキンググループ主査、デジタル学習基盤特別委員会委員長などを務める堀田教授が、「次期学習指導要領を見据えた教育の情報化の動向」と題して講演。2040年の社会を見据えた教育改革、デジタル学習基盤を前提とした学び、デジタルの形態を含む教科書、そして情報活用能力の抜本的向上について語った。

【基調講演】次期学習指導要領を見据えた教育の情報化の動向

東京学芸大学 副学長 教職大学院 教授
堀田 龍也氏

2040年を生きる子供たちに、どんな力を育むのか

東京学芸大学 副学長 教職大学院 教授堀田 龍也氏

堀田教授は講演の冒頭で、「2040年」というキーワードを示した。今検討されている次期学習指導要領は、2030年度に小学校から全面実施され、10年間使われることになる。つまり今回の改訂は、2040年という未来を見据えて設計されなければならないのだ。

2040年の日本では、人口減少がさらに進む。働く人が減れば、企業活動も、行政サービスも、学校教育も、これまでと同じ人員が必要な方法では維持できなくなる。税収も減るため、教員数を大きく増やすことも難しくなる。

産業構造も変わっていく。堀田教授は2040年の就業構造推計をもとに、事務職が大幅に余る一方、専門職やAI・ロボット等の利活用を担う人材が不足する見通しだと説明した。そのため大学では、理系学部へのシフトが進みつつある。さらに生成AIが大学入試で高得点を取り、プログラミングや作画、文章作成まで担うようになってきた今、大学入試も学校推薦型・総合型選抜の比重が増えている。

では、そのような時代に人間に求められる力とは何か。堀田教授は、情熱やリーダーシップ、課題を見いだす力など、AIに代替されにくい資質に目を向ける必要があると指摘し、「こういう時代を生き抜いていく子供に、どんな力を身につけさせるべきかを念頭に、次期学習指導要領が検討されている」と語った。

次期学習指導要領は、デジタル学習基盤が「前提」

次期学習指導要領は、1人1台端末やクラウド、ネットワーク、デジタル教材などを含む「デジタル学習基盤」があることを前提とした、初めての学習指導要領となると、堀田教授は語った。

人口が減少する時代には、一人ひとりの個性や可能性をこれまで以上に大切にし、社会で生きていく力を育まねばならない。しかし、教員の数を大きく増やすことは難しい。だからこそ、デジタル学習基盤を活用し、一人ひとりの学びを支える必要がある。

すでにGIGAスクール環境を積極的に活用している学校では、デジタル学習基盤を活用して「個別最適な学び」と「協働的な学び」の一体的な充実が図られている。その成果は、全国学力・学習状況調査にも表れており、端末を頻繁に活用している学校ほど正答率が高い傾向があることが明らかになっている。

「これはデジタル学習基盤を使えば学力が上がるという単純な話ではありません。一人ひとりが自分のペースで学ぶための授業改善を進めるためにデジタル学習基盤を活用しているから、結果的に学力が伸びているのです」と、堀田教授は説明した。

次期学習指導要領では、資質・能力の整理も進んでいる。

「学習指導要領に書いてある資質・能力はどれも大事です。しかし、すべてを同じように教えようとしてきたため、時間が足りなくなっていた。そこで、育むべき資質・能力に優先順位を付けようと議論されています」と、堀田教授は語る。各教科で学ぶ知識・技能や思考力・判断力・表現力のうち、特に中核となるものを明確にし、重点的に育成する方向で、検討が進められている。

たとえば知識・技能については、個別の知識が相互に関連付けられ、一般化されることで、「統合的な理解」へと高まった姿になることを目指す。思考力・判断力・表現力についても、複雑な課題解決に向けて、個別の思考力・判断力・表現力を組み合わせ、「総合的に発揮」できるようになることが求められる。

教育課程の弾力化も、大きな変化だ。現在の標準授業時数の10%ほどまでを、新たな教科や活動、探究的な学び、あるいは教員研修や教材研究の時間に充てることが可能になる。何割まで減らすことを許容するかは現在検討中とのことだが、これは大きな変更点だ。

「実質的には時数削減です。学校の実情に合わせて、各学校が弾力的に運用できるようになります。だからこそ、教育委員会や管理職は、どこに力を入れたいのかをしっかり考え、教育課程を編成しなければなりません」と、堀田教授は会場の先生方に呼びかけた。

教科書はどう変わるか。学びやすさを保障するために

デジタル学習基盤を前提とするため、教科書のあり方も変わっていく。堀田教授は、いわゆる「デジタル教科書」ではなく、「デジタルな形態を含む教科書」という表現を用いながら、制度見直しの方向性を説明した。

現在の教科書制度では、検定や無償給与の対象となるのは紙の教科書のみであり、紙の教科書と同じ内容をデジタル化したデジタル教科書は有償で提供されている。今後はこの仕組みを見直し、紙でもデジタルでも教科書とみなし、検定や無償給与の対象とする方向で議論が進んでいる。

すべて紙で提供する教科書もあれば、紙とデジタルを併せ持つハイブリッド型の教科書、さらにはすべてデジタル化した教科書もありうる。どのような形を選ぶかは教科書会社に委ねられるが、教科や学年によって望ましい形は異なってくるだろう。

教科書のデジタル化に異を唱え、紙の教科書を維持すべきだという声もあるが、堀田教授は「紙かデジタルかという二項対立ではない。国の会議でも、教科書をすべてデジタル化すると決まったことは一度もない」と強調した。紙の教科書には紙の良さがあり、デジタルにはデジタルの良さがある。先進校の授業では、紙の教科書を使う子供もいれば、デジタル教科書を使う子供もいる。一人ひとりが、自分が使いやすい教科書を選んで学ぶ姿が、これからの学びには求められるのだ。

デジタルには、学びやすさを保障する効果もある。文字サイズを変える、ルビを振る、読み上げ機能を使う。こうした機能は、日本語に不慣れな子供や読み書きに困難を抱える子供にとって、大きな支えとなる。多様な子供たちが同じ教室で学ぶ時代には、一人ひとりが学びやすい環境を選べるようにすることが欠かせない。問われているのは、紙かデジタルかではなく、子供の学びをどう保障するかなのだ。

※この講演の後、6月10日に、デジタルな形態を含んでいる場合も正式な教科書にする改正学校教育法が成立した。

情報活用能力の抜本的向上が、すべての学びを支える

デジタル学習基盤を使って学ぶには、子供一人ひとりに情報活用能力が備わっていなければならない。そこで次期学習指導要領では、「情報活用能力の抜本的向上」が図られる。

たとえばタイピングがおぼつかないようでは、端末での学習に支障をきたす。ゆくゆくは全国学力・学習状況調査もすべてCBT化されるが、タイピングができなければ、正答がわかっているのに解答できない事態に陥りかねない。「タイピングが苦手なままの子供は、字が書けないのと同じくらいの大変さを伴うことになります」と、堀田教授は強く訴えかけた。

この情報活用能力も、次期学習指導要領で「再定義」される。これまでは、端末やクラウドなどICTを活用するスキルや、情報そのものを取り扱うスキルなどを含めて、広く情報活用能力と呼んでいた。これが次期学習指導要領では、「情報技術」を適切かつ効果的に活用し、問題を発見・解決したり、自分の考えを形成していく力に焦点化される。

情報活用能力を確実に育むために、小学校では総合的な学習の時間に「情報の領域(仮称)」を設ける案が検討されている。中学校では、技術・家庭科の技術分野を再編し、「情報・技術科(仮称)」を新設する方向で議論が進んでいる。高等学校の情報科も内容の高度化が見込まれており、小中高を通じて、情報活用能力を体系的に育てる教育課程へと変わっていくことになる。

実際のカリキュラムとしては、たとえば小学校では、1学期に情報の領域で情報活用能力を育て、2学期以降の探究の領域でその力を発揮する運用も考えられる。あるいは探究の進行に合わせて、必要なタイミングで情報の領域を学ぶ方法も考えられる。どのようなカリキュラムを編成するかは、教育目標や子供の実態に応じて、各学校が判断する。各学校・各教師の負担が過度に増加しないよう、情報の領域の教材は国が主導して開発する。

次期学習指導要領では、子供が自分に合った学び方を選び、自律的に学びを進めていくことを目指す。デジタル学習基盤の活用も、情報活用能力の抜本的向上も、そのための改革なのだ。「次期学習指導要領の全面実施を待つのではなく、学校と教育委員会は今から、経験を積み重ねておいてほしい」と呼びかけ、講演を締めくくった。

記者の目

今回の講演で印象的だったのは、堀田教授が2040年の社会を見据えて、「教育の情報化」を教育制度全体の見直しとして語っていた点だ。人口減少、国際競争力の低下、産業構造の変化、AIの台頭。社会が大きく変わる中で、学校教育もまた、これまでのあり方を問い直す必要に迫られている。
次期学習指導要領では、デジタルをどう使うのかに目が向きがちだが、大切なのは、多様な子供たちを誰一人取り残さず、社会で生きていくための力を育むことだ。そのために、デジタル学習基盤を活用するのであり、情報活用能力を育成むことで、一人ひとりの学びを「保障」する。この視点を忘れないようにしたい。

取材・文:学びの場.com編集部 写真提供:New Education Expo実行委員会事務局

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop