2026.05.18
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いじめ加害者の立場から考える(後編) 6月・11月・2月の危機を乗り越える

前編では、シンキングエラーカードを活用して、加害者の立場に立って、必要な言葉かけを考えるいじめ防止の授業実践をリポートした。
後編では、授業者の小清水孝教諭に、授業で工夫した点や、生活指導主任としての学校全体でのいじめ防止の取組、「午前5時間制」のメリットなどについてインタビューした。
※シンキングエラーは公益社団法人 子どもの発達科学研究所の登録商標です。

いじめに関する「知識」を学ぶ

東京都目黒区立不動小学校 小清水孝教諭

―今回の授業では、なぜシンキングエラーを取り上げたのでしょうか。

小清水孝教諭(以下、小清水) 大きく2つあります。1つ目は、従来のいじめ問題を扱う教材では、被害者に焦点を当てたものが多く、加害者の立場から考える機会がほとんどなかったことです。以前からその点に懸念があり、加害者が変わらなければ、いつまでも「被害者救済」にとどまってしまうのではないかと物足りなさを感じていました。

2つ目は、子どもの発達科学研究所さんがこの教材を開発されたことです。今年度購入して初めて使っています。これまでの授業では、「思いやり」については深く学んできましたが、「知識」を学ぶ機会は十分とは言えませんでした。正しい知識を身につけるという点で、シンキングエラーは非常に適した題材だと考えました。

―授業のねらいや工夫した点について教えてください。

小清水 2つのポイントがあります。まずは、ゲームと教育を組み合わせた「ゲーミフィケーション」を取り入れたことです。ショート動画の影響で、今の子どもたちの脳は数十秒で満足を得るようになっており、40分間の授業に集中するのは難しくなっています。

そこで、ゲームの要素を取り入れることで、楽しみながら学べ、集中力も維持しやすくなると考え、ゲーミフィケーションを導入しました。

もう1つは、グループワークをトリオ(3人組)で進めたことです。ペア学習では、パートナーが話さなくなると議論がそこで途切れてしまいがちですが、トリオ学習では1人が発話しなくても、もう1人がフォローに入ることができます。その結果、発話量が増え、議論が進みやすくなります。この効果は、科学的にも認められています。

―子どもたちの反応で、印象的だったことはありますか。

小清水 全員が議論に参加できたことですね。仮に「ゼロから話し合おう」という形式だったとしたら、何も発言できず、机に突っ伏して授業自体に不参加になってしまう子も出ていたと思います。

でも、カードという“選択肢”があることで、意見を出しやすくなり、その結果、全員を議論に巻き込むことができました。さまざまな子がいる公立学校にとって、とても有効な手法だと感じています。

学校全体で進める、いじめ防止の取組

―不動小学校では、いじめ防止に向けてどのような活動を行っていますか。

小清水 さまざまな取組を行っていますが、その中からいくつかをご紹介します。その1つが、危ない月と言われる6月・11月・2月に「ふわふわ言葉を使おう」と呼びかける取組です。

以前から、学級経営では6月・11月・2月に危機を迎えやすいと言われています。そこでその時期に合わせ、教育学者・齋藤隆さん監修の『ことばえらびえほん ふわふわとちくちく』をもとに、「よかったね」「だいじょうぶ」など、相手の心が元気になる言葉、いわゆる「ふわふわ言葉」を意識して使うようにしています。

もう1つは、いじめ問題を扱う授業の模擬授業です。学校組織の1つである生活指導部会で、いじめ問題をテーマにした授業の模擬実践を行い、できる学年から順次取り入れてもらう体制をとっています。本日の授業も、模擬授業をしています。

その他、6月には、いじめ防止のためにできることを書いたものを廊下に全員分貼り出しています。また、12月の「いじめ問題を考えるめぐろ子ども会議」にも参加しています。

―8年連続で生活指導主任を務められているとのことですが、どのようなお仕事が分掌範囲なのでしょうか。

小清水 仕事は非常に多岐にわたります。いじめへの対応や、いじめ防止のための授業推進をはじめ、特別支援サポーターの手配、掃除用具の管理・購入、給食時の感染症対策など、担っている業務は実にさまざまです。本校は、他に教務、研究推進、特別活動の分掌がありますが、それ以外全般です。

いじめ対応の教員研修も行っています。裁判事例を紹介するなど、10分程度のものを含めると年間30回以上行っていると思います。いじめを発見したら、学年会で共有し、なるべく男女ペアの先生で対応するようにしています。担任が困っている保護者をクレーマー扱いして、軽く扱ってしまったなど、学年会で解決せず、保護者が担当者を変えてくれと言ってきた場合に応対するのも生活指導主任の役割です。

「午前5時間制」のメリット

―東京都目黒区では、文部科学省の研究開発学校として「午前5時間制」を実施されていますが、これによってどのような変化がありましたか。

小清水 40分授業にすることで、教員も子どもも30分早く帰れるので、双方にとって有益だと感じます。報道でもよく指摘されているように、教員の多くは過労死ラインに近い働き方をしている現状があります。

1日30分でも、週にすれば2.5時間分の違いです。教員が健康でいることは、子どもの教育にとっても重要です。その意味でも、この30分の余裕は非常に意義があると思います。

子どもにとっては、30分の余白の時間ができたことで、遊ぶ時間が増えたことが最大のメリットだと言えます。十分に遊べている子どもは、授業中ものびのびとしています。塾に通っている子どもでも、その前に公園で30分遊べるだけで、目の輝きは明らかに違います。

また、今までは遠くて間に合わなかった習い事に行けるようになったり、1日がより充実したものになりやすいと感じます。

木曜日の午後は40分使って、学校独自に「探究の時間」を設けています。子どもたちが研究室を選ぶような形式で、ラジオ番組を作ったり、肉体改造に取り組んだり、私は日本の神話を学ぶ講座を作りました。

学級経営のカギ:まずは「7月まで」乗り切る

―学級経営について、1年間の進め方のポイントを教えてください。

小清水 一言で表すなら、メンタルをやられずに、「7月まで乗り切る」ことだと思います。先ほどもお話ししたように、6月はクラスが不安定になりやすい時期です。4月は新しい先生に対する関心が非常に高く、信頼関係がとても築きやすいです。

ですがやはり相手は子どもなので、その効果は6月頃切れてしまいます。言葉遣いが荒れてきたり、いじめが起きたり、保護者から声が上がったりと、いろいろなことが6月あたりに一気に出てくるんですね。

なので、その“魔の6月”を乗り越えて、7月までたどり着ければ、夏休みでしっかり充電できます。次は12月まで乗り切れば冬休みですし、3学期は短いですからね。

いじめ防止のムーブメントとしては、けん玉、ドッジボール、スポーツスタッキングなど、勉強が苦手な子が得意なことを見つける活動を取り入れたり、クラスのために自主的にしたことを付箋に書いて教員の机に貼って「徳を積んだ」と自己申告する取組などをしています。

―学級開き初日から、子どもの名前をフルネームで呼べるようにしていると伺いました。早く顔を覚えてネームコーリングできるようにするために、どのような工夫をされていますか。

小清水 ズバリ、録音です。「1番、山田太郎」「2番、山田花子」というように、自分の声で録音したものを、通勤時間などに繰り返し聞きます。

ポイントは、番号と名前の間を数秒空けることです。その数秒の間に名前を言えるようになるまで、何十回も聞きます。初日に顔を見たら、呼びながら紐づけます。そうすれば、自然と3日ほどで顔と名前が完全にインプットされます。

「気合い」で乗り切った1年目

―昨年度、東京都では新規採用教員の5.7%が1年以内に退職し、過去最高となりました。小清水先生も1年目はご苦労が多かったと伺っていますが、どのように乗り切られましたか。

小清水 就学援助率が40%以上という小学校で、教室に行くと、教員の机の上で子どもがはねていたり、「おはよう」と挨拶したら「死ね」と言われたり、教員に対する暴力もあるという状況でした。荒れている子どもへの対応は大学では教わりませんし、授業のやり方も分からないことばかりでした。

「このままでは潰れてしまう」と感じたので、給料のほとんどをセミナーと本につぎ込みました。1年目が終わったとき、貯金は6000円ぐらいでしたね。「つらいだろう」と言って、時々とんかつをおごってくれた少し年上の先輩には今でも感謝しています。

今振り返ると、辞めずに踏みとどまれたのは、「気合い」だったのだと思います。

―今後、挑戦してみたいことなどを教えてください。

小清水 授業に “革命”を起こしたいですね。50%を体験学習に、残りの50%を自由進度学習に充てたいと考えています。

たとえば体験学習では、漁師さんと一緒に船に乗って一本釣りを体験したり、車の組み立てや相撲を間近で見たりといった本物に触れる活動をイメージしています。今の教育現場では、体験的な学びが不足しているのが現状です。だからこそ、五感をフルに使い、自分の中に暗黙知をたくさん蓄積してほしいですね。

とはいえ、現実の学校制度の中でそれを実現するのは簡単ではありません。東京都が特例校を作らなければ、将来的には「自分の学校をつくる」という目標も、密かに抱いています。

記者の目

気づかない思考のくせから生まれる「いじめ」。取材を通じ、シンキングエラーによる問題は、学校だけのものではなく、職場など大人の社会にも通じるものであると感じた。
子どものうちからこうした考え方に触れ、自らの思考を振り返る力を育むことは、将来社会に出たときに大きな糧となるはずだ。

取材・文・写真:学びの場.com編集部

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