2020.11.18
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これからの食料生産 【地産地消】[小5・社会]

新型コロナウイルス感染拡大により、観光立県である沖縄県では様々な影響を受けており、観光客の激減で経済が不安定な今、県産食材の過剰在庫等の食品ロスも課題となっています。「県産和牛」「マンゴー」「車海老」など、県民の日常食というより観光用や少し贅沢をしたい時に利用される食材の需要が低迷しており、これらの食材の需要喚起を図る目的で学校給食への提供が行われることになりました。

今回、子どもたちの学校給食へ提供される「県産和牛」を教材として小5社会科「食料生産」で取り上げ、食に関する指導を行うことで、県産食材への関心も深まり、教科の目標がより達成できるのではと授業を考えました。

「これからの日本の食料消費について、自分たちはどう行動すればよいのかを、資料や事例をもとに話し合うことによって今後の行動について関心をもつことができる」を目標にした1時間の授業です。食育の視点としては、「食品ロスの視点から環境や資源に配慮した食生活を実践するために何が必要かを考えることができるようにする。<感謝の心>(思考力・判断力・表現力等)」を設定しました。

授業情報

テーマ:食料生産
教科:社会
学年:小学校5年生
時間:1時間

コロナの状況下での課題

授業の冒頭、コロナのことを話題にして困っている人や困っていることについて話し合うことから授業は始まりました。

(困っている人)
・医療関係者が大変
・お店(レストラン)にお客さんがこない

(特に沖縄で困っていること)
・観光客が減った
・飲食店、ホテルが大変と聞きました。

次に、コロナ禍における県産農林水産物の廃棄危機の新聞記事を紹介しました。
在庫を抱えている農家さんの写真や、「(売れないので)捨てるしか・・・」と書かれたみだしの記事を見た児童からは、「農家さんかわいそう」「こんなに沢山。もったいない」との意見が出ていました。今、身近に起こっている「食品ロス」について児童と話し合いながら本時学習への意欲を高めることができました。

栄養教諭は、コロナの影響を受け行き場を失っている沖縄の農林水産物にはどのようなものがあるかを伝え、今回は県産和牛の食品ロスを削減するためにどうしたらいいかを考えることに焦点化するようにします。

畜産農家の人から届いた手紙で、どんなことで困っているかを考える

今度は、畜産農家さんから届いた手紙を紹介し、農家の思いを知らせます。沖縄での和牛の飼育の仕方、飼育数、出荷先、コロナの影響を受けている和牛の状況について切実に書かれた手紙を活用して問題に迫ることで、子どもたちが集中して聞きいっている様子が伺えました。

(今、県産和牛の畜産業で困っていること)
・コロナの影響で観光客が減り、和牛の食べられる量が減り価格が下がった。
・経済が不安定になった今、安価な豚肉や鶏肉が求められ高級な和牛の需要が減った。

 畜産農家さんの手紙から、和牛の過剰在庫の現実を知った児童は、和牛をどうやって消費者の手に取ってもらえるようにするか、食品ロスにならないようするためにはどうしたらいいか、自分たちなりの課題解決の方法について考える活動への意欲を高めて進みます。

県産和牛限定で食品ロスを削減する方法を話し合い、和牛給食のことを知る

ペアで隣同士座って静かに話し合う様子

今度は、ペア学習での活動に移り「県産和牛の食品ロスを減らすアイディアを見つけよう」のテーマで話し合います。コロナ禍のため、向かい合うグループ学習は控え、ペアで隣同士座って静かに話し合い「ホワイトボードシート」での対話を通して考えを伝え合う活動をとりました。

話し合いの序盤は「みんなに配ったらどう?」「安くしたら買う人が増えるんじゃないかな」といった意見が多く出ていました。「半額で安く売ったらいいさ」と考える児童に対し「でも安すぎたら農家さん困るんじゃない?(収入が足りない)」と、待ったをかける相棒の児童。それに対し「ゼロよりいいと思う。少しでも収入になれば」と答える児童。子どもたちなりの議論が深まります。

少し時間を取った後、栄養教諭から「和牛の売り方(金額)のアイディアだけでなく、和牛を長持ちさせて売れる期間を延ばす方法もあるね」と、さらに多様なアイディアを引き出す言葉かけを行います。さらに話し合いは進み、「加工」の方法についてのアイディアや意見を出し合っていきます。

和牛という食材が子どもたちにあまり馴染みがないため、話し合いに行きづまったペアもありました。

「もしマグロ(島の主要水産物で、子どもたちにとっては身近な食材)が沢山獲れ過ぎたらどうする?」と声をかけると、「冷凍したらいいね。乾燥してジャーキーにもできる。」などと次々にアイディアが出始めました。子どもたちの経験や関心がワークショップの流れを作るということがとてもよくわかる場面です。

畜産農家の方とビデオ通話での対話を通して、思いを伝える

ビデオチャットサービスを使ってやりとりをする様子

続いて、栄養教諭から来月の和牛給食について紹介です。コロナの影響で行き場を失っている和牛の食品ロスを回避するために学校給食への和牛の提供が決まり、来月給食で食べられることになったことを児童へ伝えます。今回の学習で和牛の価値(少し贅沢したい時に食べるようなもの)を知った子どもたちは「すごい!」「和牛が食べられるの?うれしい」と口々に言っています。

ここからは児童と、今回手紙を頂いた畜産農家さんと学校給食の和牛提供事業者の県畜産振興公社の方お二人に協力を頂き、ビデオチャットサービスでのやりとりを通した活動です。

食品ロス削減アイディアを発表する様子

畜産業の方の気持ちを聞き、そのあと児童の和牛の食品ロスを減らすアイディアを聞いてもらったりと、相互的なやりとりを通した学習が進みました。その中で、子どもたちが考えた食品ロス削減アイディアの「インタ―ネットで販売する」や「和牛の美味しい食べ方をネットで公開する」の発表に畜産農家さんが反応し、「実際に取り組んでいるよ」と言葉をもらい感激している様子も見られました。


コロナ禍で社会見学等が実施できない状況が続いていますが、ICTを活用することで、島外の生産者さんと楽しそうに主体的に取り組む子どもたちの姿を確認することができました。

授業のまとめ(ワークシート)では、「食品ロス削減のために私たちができること」として
・料理は食べる量だけ準備する
・食べ残しをしない
・すききらいせず食べる
・食べる分だけ買って、消費期限を切らせない。
など、自分たちが今後どう行動すればよいのかについて、それぞれが考えをまとめることができていました。以下は振り返りの感想です。

県産和牛が給食に登場

県産和牛の給食

29日(ニクの日)

県産和牛の給食を10月29日に実施しました。部位は「肩ロース」を使い、シンプルな牛丼にして提供しました。食品ロスの授業の後、給食だよりで「食品ロス」の授業について保護者にお知らせしたり、「お肉パズル(牛肉の部位と適した料理を合わせる)」を作成し掲示していたこともあり、職員をはじめ子どもたちもニクの日をとても楽しみにしていました。

給食を食べる子どもたち

日頃よく口にする牛肉と違って和牛は脂身が多いため、「油がおおいな」と言いながらも、「とっても柔らかい。脂身の中にコクがある。うまみがすごい。美味しい!」などと笑顔で給食を食べ、幸せそうな表情を浮かべていました。


和牛給食を頂いたのち、授業でお世話になった畜産農家さんと県畜産振興公社の方へ手紙(寄せ書き)を書きました。手紙を書くことで食品ロスを削減する着眼点がより生産の場に近づくことができたように思います。

お世話になった畜産農家さんと県畜産振興公社の方へのお手紙(寄せ書き)

(畜産農家さん・県畜産振興公社さんへの手紙)
  • 10月29日に牛丼がでました。とてもおいしかったです。 また、食品ロスの話をしてこれからは自分が食べられる量を食べて食品ロスを減らしていきたいです。
  • 私は、和牛のことや食品ロスのことがわかりました。
  • ぼくたちの食品ロスを減らすためのアイディアや質問を聞いて下さりありがとうございました。和牛おいしかったです。
  • 県産和牛が食品ロス(の危機)だから、それをなくすために色々な案を出した時はとても楽しかったです。本当にありがとうございました。
授業の展開例
〇コロナ禍の中での食品ロスについて資料を集め、意見文を書いてみましょう。

玉城 恵子(たまき けいこ)

渡嘉敷村立阿波連小学校 栄養教諭
村学校給食共同調理場勤務。モットーは「食べることは生きること」。
沢山の子どもたちの心に「おいしい楽しい記憶」が残り、将来の生きる力に繋げていけるような食育を目指して奮闘中です。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

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