2020.01.22
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カルシウムの多い食材はどれ? 【食と科学】[小5・算数]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。今回は芦屋市山手小学校、内藤剛志先生の算数の授業「カルシウムの多い食材はどれ?」です。

授業情報

単元:カルシウムの多い食材はどれ?
テーマ:食と科学
教科:算数
学年:小学校5年
時間:1時間

はじめに

『食育』をどのように算数に盛り込んでいくか。我が校で食育を研究テーマに掲げて実践していく以上、限られた教科・単元だけでは不十分であると考えていました。どの教科・どの単元でも工夫次第で食育を切り口に授業を組み立てることができるという考えのもと、授業を組み立てていきました。

しかしながら、授業の方法論ばかりが先に立ち、児童の実態を後回しにしたのでは本末転倒です。

そこで、児童の実態から授業を組み立てることにしました。私は、クラスの中で算数に特に苦手意識を持っている児童(児童A)の算数に対する姿勢をこの授業を通して変化させることができるのではないかと考えました。児童Aは給食が大変好きで、特に牛乳を飲むことで背を伸ばしたいと思っています。そしてそれはクラスの多くの児童が同様に考えています。

そのような実態から『牛乳』『カルシウム』を切り口に授業を展開していくことを考えました。カルシウムを多く含む食材は多く紹介されています。しかし、その多くが一食あたりの重さと含有量で示されています。それを単位量あたりで考えることで、本当にカルシウムを多く含む食材を見つけることができます。クラスの児童(特に児童A)にとって、この単元の導入としては十分な動機付けとなります。

同時に、牛乳がカルシウムを摂取するにあたって効率の良い食材であるとともに、毎日の給食がいかに大切なのかに気付かせることもできます。
そうしたことを願い、算数「単位量あたりの大きさ」でカルシウムの多い食材を取り上げた1時間の授業を報告します。 

1 カルシウム含有量を予想する

はじめに『とうふ』『牛乳』『ひじき』『小松菜』の中で、どの食材のカルシウム含有量が一番多いのかを予想させます。児童の大半がもちろん牛乳が一番だと予想しました。

ここでのポイントはあえて『ワカサギ』などの飛びぬけて多く含む食材は紹介しないことです。その理由として、あくまで算数であるので、単位量あたりの大きさを求める必然性を作る必要があります。提示された含有量と単位量当たりの含有量で、逆転現象を起こす必要があるためです。さらに見た目は一番含有量の多い牛乳を、単位量当たりでみると一番少なく持ってくることで、なぜ、牛乳がカルシムを摂取するのに効果的な食材なのかを考えさせるねらいがあるためです。

2 カルシウム含有量を紹介する(1食あたり)

それぞれ発表していく中で、児童からは「やっぱり牛乳が1番だ」という声が上がります。しかし、1食あたりの含有量なので、実際は比べることができません。

そこに気付く児童がいるはずだと予想していましたが、一向にそのような意見がでませんでした。こちらから話したくなる気持ちをぐっと抑えてただ、ニコニコしながら待っていると、その間に違和感を覚えた児童が、考え始めました。そしてとうとう、「ん~、でもこれって……」という発言が出てきました。「もう少し詳しく教えて」と促すと、「そもそもの量が違うから、これって比べられないんじゃない」と。

この発言でクラスが「確かにそうだよな」という雰囲気になり、どうすればいいんだろうという疑問が生まれました。こちらとしては願ったり叶ったりの展開です。

3 比べる方法を班で考える

どのようにすれば比べられるか、班で考えます。そこで児童はこちらの予想をはるかに超える話し合いを展開します。私はてっきり塾で習っている児童が単位量あたりの大きさを持ち込み、すぐに答えを出す班が出てくると思っていました。しかし、どの班も学校での既習の単元(最小公倍数・最大公約数)を用いて、単位量をそろえることで答えを導き出したのです。私は思わず、「よく考えたね!」と声をあげてしまいました。一つの基準となる量をもとに比べる作業は、まさに単位量あたりの大きさの考えです。結果的に、途中でこの数字よりももっとわかりやすい100とか1のほうが比べやすいことに気づく班が大半となりました。無意識のうちに単位量あたりの大きさを意識した取り組みができたのです。

その理由として、『食』を切り口にしたことで、算数という意識がうすれ、目の前の活動に児童が夢中になっていたのではないかと、後になって思います。

児童Aも、算数だけれども算数とは思わなかったのか、後の振り返りで「とてもおもしろかった」と書いていました。

4 全体に班の取り組みを共有し、牛乳の良さを考える

単位量当たりのカルシウムでみたとき、提示した食材の中で牛乳は最下位でした。では、なぜ牛乳がそこまでカルシウムが多く摂取できる食材といわれるのかを皆で考えました。班の話し合いの結果、「牛乳は多くの量を手軽に摂れるから」という結論に行き着きました。そして、毎日の給食に牛乳が出ていることで、児童も納得の結果となりました。

最後に、カルシウムを多く含む食材の一覧を見せ、アレルギー等で牛乳が飲めなくても、他にもたくさんの食材にカルシウムが含まれていることを確認しました。

この後、児童から、「単位量あたりのカルシウム含有量を他の食材でも調べたい」という意見が出たため、パソコン室で調べ学習を行いました。
(計算のしくみを理解させることを第一に考え、望む児童には電卓を渡しました)

児童Aについて

児童Aのふりかえり

電卓を使用したため、計算にストレスなく6時間目は取り組めました。単位量当たりの考え方のもと、正しい計算式で食材1gあたりのカルシウム含有量を調べることができました。そこで、私は児童Aに、「あなたは算数ができないのではなく、計算が苦手なだけなんだよ。」「計算さえスムーズにできれば、これから習う算数の内容もきっと理解できる」と伝えました。児童Aは冬休みに1年生からの計算の練習をするそうです。
「単位量あたり」の考え方は、複雑で子どもたちの学習意欲が高まりにくい内容です。今回、食材に含まれるカルシウムの量を比べる活動を取り入れたことで、成長期にある子どもたちの関心事にもうまくつながり、算数の単位量あたりの考え方について理解することもできました。
授業の展開例
○カルシウムの多い食品を上手にとることができる献立を調べてみましょう。

内藤 剛志(ないとう たけし)

芦屋市山手小学校教諭
食育と教科の関連を研究、実践している。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・写真:内藤剛志

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