2019.11.20
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地域と生きる酪農家の仕事 【食と暮らし】[小6・社会科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。今回は「地域と生きる酪農家の仕事」です。

授業情報

単元:地域と生きる酪農家の仕事
テーマ:食と暮らし
教科・領域等:社会
学年:小学校6年
時間:1時間

私たちが抱いている酪農のイメージと都市での酪農とのずれから「町で酪農ができるかな」という問いが引き出されて、課題が明確になります。子どもたちのそれぞれの問いが対話を通して、酪農家の工夫や努力に目を向けることにつながっていきます。さらに、地域で酪農を続ける酪農家の営みを通じて持続可能な開発目標(SDGs)の実現の姿に触れることができます。「地域と共に酪農を営む酪農家の仕事を通して、持続可能な農業について関心をもつ」ことを目標にした1時間の授業を紹介します。今回の授業では、藤本が酪農家としての役割を担当しました。

乳牛を飼っている場所のイメージ

授業の冒頭、給食の献立には毎日、牛乳が出ることを取り上げ、乳牛や酪農へ目を向けるようにします。それから、子どもたちに乳牛を飼っている場所のイメージを聞きます。「広々としている」「草原にある」「人があまりいない場所にある」という意見がでました。子どもたちの発言を受けて、牧草地の写真を示すと、「そうそう、そんな場所」「北海道だ」との声が出てきました。乳牛を飼育する場所のイメージを共有できました。 
次に、市街地にある牧場の写真を示すと、次々に意見が出てきます。「匂いがするんじゃないかな」「エサはどうするの」「牛は逃げ出さないかな」という人の視点からの意見だけでなく、「牛にストレスがたまらないかな」といった乳牛の視点からの意見が出てきました。子どもたちがもっている牧場のイメージとのずれが本学習への意欲を高め、市街地での酪農の大変さや課題に関心をもたせることができました。全国には、こうした市街地で酪農を営んでいる酪農家が多いことを知らせると、自然に「どんな工夫をしているかな」の声があがりました。

市街地で酪農を営むことによっておこる課題

担任の先生から、におい、排気ガス、鳴き声、えさの4つの視点に課題を整理した後、町で酪農を続けるためにどんな工夫をしているかと問いかけます。班になって話し合い、ミニホワイトボードに記録します。においは、「空気清浄器を使っている」「においを何かに吸わせるといい」、排気ガスに対しては「周りに木をたくさん植える」「排気ガスを吸い込む機械を使う」などの意見が出てきました。鳴き声に関しては「防音の壁を使う」「きれいな音を流す」、えさについては、「社会科で習った食糧のように輸入かな」「スーパーなどで余った野菜をもらう」といった意見が出てきました。酪農家の立場に立って考えることで、酪農家の実際の工夫や努力が現実味を帯びてきます。

地域に生きる酪農家の工夫

子どもたちの意見について、藤本が酪農家のGT役として工夫を伝えます。子どもたちが驚いたのは「大切に飼うと鳴かない」ということでした。
そして、ジェラート店の写真を示して、その意味を考えさせます。「ジェラートの店に地域の人が集まるからいいな」「地域の人が牛に慣れてくれる」の意見を受けて、「MEGURI」の意味を考えてもらいます。「めぐりめぐるということはつながっている」「地域の人といっしょかな」などの意見が出てきました。「地域の人がつながる場所がここなんだよ」と伝えると、ジェラートの店が地域の暮らしの拠点となっていることに気付かせることができました。

他の酪農家も、においへの対応として、においの出にくい糞尿処理施設を整備したり敷料などの資材の工夫をしていること、騒音への対応として作業時間の工夫、また近隣への配慮として景観をよくする花壇の設置、牛舎・牛体を清潔に保つなども紹介しました。
近隣住民や子供の受け入れ、地域の役を引き受ける、たい肥の提供、乳製品製造してイメージアップなど、多くの酪農家が課題と向き合い努力していることに目を向けさせることができました。

今回の授業は、藤本が伊勢原市の石田牧場を訪問し、石田陽一氏から伺った話をもとにしています。酪農家は、一般的に大変な仕事と一言で片付けられてしまいそうですが、石田氏のように工夫や努力を重ねて地域で生きる酪農家はたくさんいます。近隣住民や子どもの受け入れなど多くの酪農家が課題と向き合い、努力していることに目を向けることで食を通した学びが深まり、キャリア教育も実現します。また、地域の人とコミュニケーションがとれるかどうか、地域住民の一員としての気持ちが大切であることを学ぶことでSDGsとしても成立していると考えます。SDGsは、国連サミットで採択された「持続可能な開発のための2030アジェンダ」にて記載された2016年から2030年までの国際目標です。持続可能な世界を実現するための17のゴール・169のターゲットから構成され、地球上の誰一人として取り残さない(leave no one behind)ことを誓っています。今後、学校教育の中でキャリア教育はもちろん、消費者教育、SDGs等の実践が求められても、優れた食の授業を実現する営みを続けていけばよいと考えます。

授業の展開例

〇牛乳を製造する工場では、どのような工夫や努力をしているか考える。(5年生社会科)
〇生乳を輸送する人たちは、どのような工夫や努力をしているか考える。(5年生社会科)

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

文・写真:藤本勇二

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