2019.03.20
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北海道からの贈り物 【食の流通】[小5・学活]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第148回目の単元は「北海道からの贈り物」です。

子どもたちが給食で毎日飲んでいる牛乳。子どもたちは、その牛乳が牧場で飼育されている牛から絞られていることは知っているものの、牛がどこで、どのように育てられ、生乳がどのように運ばれているかについては、意外に知らないものです。そこで、牛乳の味の違いや牛乳を運ぶ人たちの工夫、牛乳工場の仕事について知ることで、自分たちがおいしく牛乳を飲むまでに、たくさんの人がたくさんの苦労や工夫をしていることに気付いてほしいと考え、単元構想及び授業づくりを行いました。今回は3時間中の第2時目で行った授業について紹介をします。

1.北海道の牛から給食で牛乳を飲むまでに、どんな人たちが関わっているかを考える

前時に乳脂肪分が違う牛乳の飲み比べをして、牛乳の味は季節や牛が飼育された場所、食べるエサによって変わっていくことを知りました。
まず本時では、牛や牛乳だけに着目するのではなく、そこに関わる人々にも目を向けさせたいと考え、北海道の牛から自分たちが給食で牛乳を飲むまでに、どんな人たちが関わっているのかについて、ウェビング図を用いて考えさせました。
「牛を育てる人」
「エサを育てる人」
「パックを作る人」
「パックに入れる人」
「検査をする人」
「お店で売る人」
「運ぶ人」
など、たくさんの人が出されました。そこで、子どもたちに「運ぶ人」に着目させ、
「牛乳ってどうやって運ばれているのか知っている?」
と聞くと、
「飛行機」
「電車」
「船」
などのバラバラの意見が出されたため、本時は牛乳を運ぶ人たちの工夫について考えていくことになりました。

2.北海道から丸1日をかけて牛乳を運ぶ「ほくれん丸」の工夫について考える

北海道で絞られた牛乳はすぐに工場でパッキングされるのではなく、大きなタンクローリーに入れて、北海道釧路港と茨城県日立港を結ぶ「ほくれん丸」という大型船で、約20時間をかけて運ばれてきます。タンクローリーを船に乗せて運ぶことは、「衛生的に」「たくさん」運ぶために理にかなった運搬方法ですが、そこに込められたたくさんの工夫を子どもたちに気付かせたいと考えました。

課題を提示する様子

まず、子どもたちに、牛乳が「ほくれん丸」に乗って、丸一日かけて運ばれることを伝えました。そして、
「昔の牛乳会社の人は、普通に運んでいたら丸一日たったら腐ってしまうという壁にぶつかったらしいけど、みんなならどうする?」と問いかけ、牛乳会社の社員になったつもりで、「衛生的に」「たくさん」に運ぶには、船の中にどのように入れればよいかをグループで考えさせました。また、より多様な考えを出させるために、言葉でまとめるのではなく船のイラストを使って設計図の形で考えさせました。イラストで描くことで置く場所や大きさなど、より具体的に話し合うことができ、
「大きな缶づめに入れて、並べている」
「大きなプールみたいになっていて、そこに牛乳を入れている」
「船が3階建てになっている」 
「大きなビンに入れて、それを並べている」
「巨大な冷蔵庫があって、その中に牛乳パックが敷き詰められている」
など、多様な意見を出すことができました。また、他のグループの発表を聞きながら、
「あ~そうゆう工夫もあったか」
「それはちょっと衛生的じゃないじゃないかな」
など、お互いに考えを深め合う様子も見られました。

グループで考える様子

学級全体で考えを交流する様子

4.どうしてタンクローリーに入れて運ぶのかを考える

学級全体の交流が終われば、正解の発表です。トラックで船まで運び入れ、タンクローリーだけを置いていく写真を見ながら、自分たちの考えから大きくは離れていなかったことに喜んでいるようでした。そこで、さらに考えを深めさせるために、角ばったコンテナではなく、どうして丸いタンクローリーを使うのかを子どもたち考えさせました。
「トラック部分がいらないからたくさん運べる」
「丸いから衝撃に強い」
「角がないから泡がたたない」
「出し入れがしやすく、トラックですぐに運ぶことができる」
など、写真から想像を広げながら、運搬にタンクローリーを用いる理由にしっかりと迫ることができていました。

5.タンクローリーに牛乳を入れる時の工夫を考える

タンクローリーは上から注入すると泡が立つため、下からホースをドッキングさせ牛乳を注入をしています。本時では、本時の学習のまとめとして、このタンクローリーに牛乳を入れる方法に注目をさせることで、牛乳を運ぶだけでなく、注入する時の細部にまで工夫がされていることに気付かせたいと考えました。
そこで、上から水道の蛇口のように牛乳を注入すると泡が立ってしまい、「衛生的に」の点で問題が発生してしまうことを伝え、どうすれば「衛生的に」注入することができるのかを考えさせました。

「長いストローのようなホースで入れている」
「そーっと入れている」
などの考えが出ましたが、子どもたちには少し難しかったようで、最後は下から注入することをこちらから伝えました。
授業の最後の振り返りには、
「牛乳を運ぶだけで、ここまでたくさんの工夫がされているとは思っていませんでした」
「いろんな人がたくさんの工夫をしてくれているから毎日おいしい牛乳が飲めているんだと思いました」
など、牛乳運ぶ人たちの工夫を考えることきっかけとして、そこに関わるたくさんの人の苦労や工夫についに考えることができたようでした。

授業の板書

本学級の子どもたちは、総合的な学習の時間で「地域の食」について学習をしており、その学習の中で、「野菜を育てるためにはたくさん苦労があり、一つ一つにたくさんの思いを込めている」ことに気付くことができていましたが、本単元では、その学習経験を基にして、毎日のように飲む牛乳について気付きを深めさせることができたように思います。このように、今後も様々な食の学習経験をつなぎ合わせながら、児童に確かな「食の力」の育成に向けて、日々授業づくりを行っていきたいと思います。
今回の授業づくりにおいて、ホクレン生乳受託課 叶 勇司氏には、「ほくれん丸」に関する情報や資料の提供等大変お世話になりました。ここにお礼を申し上げます。

授業の展開例

○酪農の仕事内容や牛乳工場で牛乳の製造過程を調べてみましょう。
○私たちの手元に届く野菜や魚などがどこからどのように運ばれてくるかを調べましょう。

藤池 陽太郎(ふじいけ ようたろう)

教員4年目で現在は5年生を担任。幼児教育の「遊び」をヒントに、児童が夢中になって「遊ぶように学ぶ」授業づくりを目指して、日々研鑽を積んでいる。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・写真:藤池陽太郎/イラスト:学びの場.com編集部

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