2019.05.22
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牛乳から考える循環型社会 【食文化・食の社会性】[小5・国語科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第150回目の単元は「牛乳から考える循環型社会」です。

牛乳をテーマに、国語「プロフェッショナルたち」の学習と関連付けて牛乳工場で働く人の工夫や努力、そして、プロフェッショナルとしての考え方から学ぶ授業構成を考えました。給食や食べ物を残す子どもたちに、働く人の思いを知って行動を変えることと、実際に働く人の意見や考え方を知ることで生き方を考えることに繋げていきたいと考え、授業をデザインしました。国語の授業を受けて、牛乳工場で働く人々の工夫について学ぶ1時間の授業を紹介します。

1.授業の流れ

〇導入の工夫~循環時計の活用~

資料①牛乳の循環時計

導入では、自分たちの身近にある給食の牛乳の写真を提示しました。子どもの生活と教材を結び付けることで関心を惹きつけるように工夫しました。
次に、資料①のように乳牛から絞られた乳がどのようにして自分たちの手元に届いているのかを問いかけ、各班で予想しながら半円に表現(循環時計のアクティビティ)させました。各班から出た意見で共通していたものとして工場を通り、自分たちの手元に届いていることでした。

(1)工場の工夫を予想する。

資料②工場の工夫

子どもたちが挙げた牛乳工場では、どのような仕事をしているのか聞いてみました。すると以下のような内容が出てきました。(資料②より)

  • 品質管理→きれいにする
  • 殺菌する
  • 紙パックに詰める
  • 賞味期限、消費期限を決める
  • 少し味見をする


ここでは、賞味期限と消費期限を分けて考える子どもたちがいました。社会科で学んだ既習の知識をもとに予想する学びが確認できました。また、「少し味見をする」といったいかにも子どもらしい発想も見られました。子どもたちに問い直してみると、味見をして安全かどうか確かめることだと考えたようでした。授業をしながら、子どもの発言の一つ一つがおもしろく、意味があるものだなと感じる瞬間でもありました。

(2)安心・安全な品質管理

資料③牛乳の品質表示

次に、工場で働く人の工夫として検査をしている写真を提示しました。子どもたちは、「やっぱり味見している。」と答えていました。安心・安全な商品を届けるために牧場から運ばれた牛乳を何度も繰り返し、検査していることを伝えました。
さらに、牛乳パックの品質表示(資料③)から130度で殺菌していることも確かめました。

(3)牛乳工場で働く服装

働く人の工夫に着目させるために、工場で働く人の作業着を実際に着てみました。(資料④)実際に働く人の作業着を着ることで、子どもたちは、服の素材の違いや上下がつながっていること、ポケットがないことなど、自分たちが普段着ている服装と比べ、学びを深めていました。さらに、なぜ、このような服装なのか理由を問いかけると、以下(資料⑤)のように答えていました。

  • 資料④ 作業着を着る子ども

  • 資料⑤ 作業着の秘密

  • ほこりが入らないようにするため
  • 牛乳にほこりや髪の毛が入ると大変なことになるから
  • 安心して飲めるように、責任を持って作っている


実際の服を着るといった体験を取り入れることで、子どもたちは、働く人の工夫について意欲的に考えることができたようです。

(4)工場で働く人の思い~国語「プロフェッショナルたち」~

資料⑥ 働く人の思い「牛乳工場で働くTさんの話」

〇牛乳

資料⑦ 牛乳工場で働くTさんが 大切にしていること

工場で働くTさんが考えるプロフェッショナルとは・・・

  • 当たり前のことを当たり前にすること
  • くり返し確認すること


当たり前のように自分たちの手元に届いている牛乳は、さまざまな場所で働く人の思いがこもったものであることに子どもたちは気づいていきました。(資料⑦)

資料⑧スーパーの牛乳売り場

授業の終わりには、資料⑧を提示しました。
この写真は近くのスーパーで牛乳が欠品していたときの写真です。北海道地震が起こった際には、交通手段が滞り、各地のスーパーで牛乳が届かない事態となりました。しかし、子どもたちの給食の牛乳は優先して届けられていたため、その事実に出合うことはありませんでした。
以下は子どもの感想です。

子どもたちは、牛乳工場の工程や働く人の思いを知ることで、普段手元に届いている牛乳の大切さに気付いていました。また、震災が起こった時、自分たちの手元に優先して届けられている事実を知り、普段当たり前に飲んでいる牛乳は、目に見えない人の努力や苦労が積み重なってできていることだと感じていました。私たちの身の周りには、物が溢れています。その物一つ一つに働く人の思いや願いが込められているのです。このような授業の積み重ねこそ、物が大切に作られていることに気づくきっかけとなると考えます。

2.理科「自然とともに生きる」への発展

当たり前が当たり前でなくなる状況を感じることで、遠くで働く人、目に見えないところで働く人の苦労や思いをより切実に感じ、今ある状況や現状を見つめ直すきっかけとなってほしいと思い、授業を考えました。
この授業の感想に、右のような子(子どもの感想③)もいます。この子は牛乳が苦手な児童です。実は、この子のためにこの授業を行いたいと思ったのです。その子どもは、現在、中学生になって給食の牛乳を飲めるようになったそうです。
本時の学習を受けて、理科「自然とともに生きる」へと繋げました。自分にとって、どうしても苦手なものがあるし、好き嫌いがあるのは事実です。この学習を通して、たくさんの人の思いのこもった牛乳だから大事にしたいという考え方が子どもの中に芽生えることはとても大切です。さらに、牛乳が苦手だった子が牛乳を飲み、好き嫌いを克服することが、もちろん正解でしょう。しかし、アレルギーの子はどうなのでしょうか。
自然界においてこの地球に生きる生物は長い年月をかけて循環して支え合って生きています。
子どもたちは、牛乳が人の手にわたり、さらに牛に戻るまでを考えさせました。循環する地球において、いかに自然界に生きていくか、そこを考えるきっかけとなると感じています。
理科の実践では、資料⑨⑩にあるように子どもが調べ学習を行い、牛乳が牛に戻るまで個々で考えさせました。子どもたちは、生き物や自然にあるものが長い時間をかけて循環していることを学んでいきました。

  • 資料⑨牛乳の循環時計(調べ学習)

  • 資料⑩牛乳の循環時計(調べ学習)

授業の展開例

○理科「自然とともに生きる」の活用単元として、水の循環から牛乳の循環へと考えさせることができる教材である。

○牛乳が残されている写真を提示することで食品ロスの教材とし、子どもたちに考えさせることができる。

箱根 正斉(はこね まさなり)

兵庫県西宮市立北六甲台小学校 教諭
教員10年目。総合的な学習の時間を中心として子どもの主体性を引き出せるように単元、授業づくりを行っている。子どもの学ぶ文脈の中に学習を取り入れたり、社会における課題と子どもを繋いだりするなど、優れた問題解決者を目指して日々の授業や教育活動に取り組んでいる。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・箱根正斉/イラスト:学びの場.com編集部

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