2019.01.30
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ロボット教材を活用した課題解決のためのプログラムを考えよう!(前編) 全教職員でプログラミング教育研究に挑む茨城県古河市立大和田小学校

2015年9月、茨城県古河市の全小学校にタブレット端末が導入され、大和田小学校は「文部科学省情報教育指導力向上支援事業」のプログラミング実証校に指定された。さらに今年度は「茨城県小学校プログラミング教育推進事業」の重点校に指定を受け、理科でのプログラミング教育について研究を進めている。今回は5年生の理科・単元「流れる水のはたらき」にて、レゴ®ブロックをプログラミング教材に応用したアプリ「レゴ®WeDo2.0」を使用した授業をリポートする。

学年・教科:5年 理科
単元:流れる水のはたらき 第4次 川とわたしたちの生活
教科目標:洪水に備える工夫について理解を深めることで、洪水から身を守るための対策を考えることができる。
プログラミング目標:洪水から身を守る対策を考え、ロボット教材(レゴ®WeDo2.0)を活用して、課題解決のためのプログラムを考えることができる。
指導者:飯田 敏夫
使用教材・教具:タブレットPC、レゴ®WeDo2.0(付属ソフトウェア、スマートハブ、Mモーター、モーションセンサー、チルトセンサー、ブロック)、ワークシート、発表ボード(小型ホワイトボード)、WeDo2.0用マグネットカード、WeDo2.0用マグネットシート、テレビモニター

プログラミング教材 レゴ®WeDo2.0とは?

レゴ®WeDo2.0

昔から“おもちゃ”として子供に親しまれてきたレゴ®ブロック。レゴ®WeDo2.0は、実際に子供がブロックを自由に組み立てるだけではない。ブロックにセンサーやモーターを取り付け、タブレット端末にダウンロードしたアプリで簡単にプログラムを組み立て、ブロックで作ったロボットの操作ができるというものだ。プログラミングといっても、あらかじめ色々なプログラムが組まれたアイコン同士をタブレット端末上で組み合わせるだけなので専門的な知識は必要ない。感覚的な操作でプログラミングし、動くロボットを目の前で観察しながら、自分の意図した動きをするように作り上げていけることが魅力的な教材だ。

全体指導計画

全体指導計画。総合的な学習の時間を間に入れて、理科のプログラミングの授業がスムーズに進行できるよう計画されている。

今回リポートする「洪水時の対策の中間発表会をしよう」の授業では、児童がレゴ®ブロックで作った洪水対策ロボットをプレゼンテーションする。本題に入る前に、まず全体指導計画について触れておきたい。

飯田教諭は今回の授業に至るまでに、洪水とは何か、増水はなぜ起きるのかについて授業を行っている。教室内での授業に加え、実際に土でつくった山のモデルの頂上から水を流して洪水が起こるプロセスを学んだり、台風の動きを「ScratchJr(※)」で再現したり、体験しながら理解できるよう工夫がされていた。なお、プログラミングで使用するレゴ®WeDo2.0の操作方法については、第4時〜6時の間の総合的な学習の時間とあわせた指導計画がされている。この指導計画が、本時の授業を成功させるポイントのひとつになっている。そのときの様子については後編を御覧いただきたい。

※ScratchJr(スクラッチジュニア)とは、4歳以上の子供を対象に作られた無料のプログラミングアプリ。

授業を拝見!「洪水時の対策の中間発表会をしよう」

ここからは授業の流れについて、「導入」~「まとめ」までパートごとに整理しながら紹介しよう。

導入:今までの授業の振り返り

当然ながら、本時の目標はプログラミングの習得ではなく、洪水から身を守る対策を考えることにある。今回の授業の冒頭の10分程度で、飯田教諭は児童に「洪水って何で起きるの?」「台風になると何と何が強くなるの?」と児童一人一人に問いかけを行い、既習事項を振り返ることからスタートした。今までの授業の記録動画や写真を掲示しながら進めているので、子供たちも一つひとつ思い出しながら発言することができているようだった。

課題確認:「洪水に備える工夫や、身を守るための対策を考えよう」

児童はプログラミングに夢中になるあまりに、本時の目的や課題を忘れてしまうことも考えられる。何度も課題を明確にして共有することはプログラミングの授業においてとても大切なことだ。洪水対策の方法を場面ごと(未然防止、洪水後の対応)に分け、いつどんなときに洪水対策が必要なのかを確認し、その上でロボットの仕組みに触れて今日の本題を迎えた。

今回の授業では3〜4名ずつ、グループに分かれて課題に取り組んでいた。児童の手元にはそれぞれが考えた洪水対策のストーリーとプログラムが書かれたワークシートがあり、そこにも本時の課題・目的が一番始めに明記されている。何のためにプログラミングをするのか、常に考えさせる工夫が随所に見られる。

展開:課題解決に最適なプログラムを組み立てる

児童は自分たちの意図する動きに近づけるためプログラムを修正していく。

第5時の授業からワークシートにプログラミング計画をまとめたり、ブロックを組み立てたりする作業はある程度進められているが、さらに試行錯誤し発表の準備をする。ワークシートを見ながらプログラムとブロックを組み直し、動作を見てプログラムを修正していく。発表用の小型ホワイトボードにも修正が加えられていく。

「レゴ®ブロックが楽しくて遊んでしまうこともあるのでは?」と当初懸念を抱いていたが、ロボットを作る開発者のような顔とグループメンバーとの建設的な会話が印象的な時間だった。

まとめ:各グループの防災対策ロボットの発表

ホワイトボードには、洪水対策のために考えたプログラムの手順が書き出されている。

最後は、グループごとに洪水対策ロボットのプレゼンテーションを行う。自分たちの考えた洪水対策ストーリーを語り、ブロックを動かしながら発表する。黒板前に掲示した小型のホワイトボードにはタブレット端末上で組んだプログラムのアイコンをマグネットにしたものが貼り付けられ、どんなプログラムを組んだのか共有できるようになっている。各グループの内容は次の通りだ(ワークシートおよびホワイトボードの表記は、読みやすいように編集を加えてある)。

Aグループ

対策ストーリー 「洪水が終わって人が救助された後の、川の周りのがれきを片づける」

Aグループが想定した場面は、洪水が起きて人が救助された後に、モーションセンサーを利用してがれきを撤去するというもの。児童は今年の洪水のニュースを見て、発想が浮かんだという。

  • Aグループのワークシート

  • ロボットは、がれきを模したブロックを感知すると、弾いて移動させる。

プログラミングの流れ(発表用ホワイトボードの内容)
①がれきの近くまで進む。(手動で、ロボットをがれきの近くまで進める)
②がれきを感知したらモーターでがれきをどかす。
③がれきを感知したらライトを赤く光らせる。
④がれきを感知したらサイレンを鳴らす。
⑤④まで終わったら①に戻って繰り返す。

Aグループの実演

Bグループ

対策ストーリー 「水の量が増えて洪水が起きやすくなったら、(水を)流すための門を開く。その後に低い土地、高い土地、海、田畑に少しずつ(水を)流す」

川に2枚の扉がついた水門型ロボットを用意する。ロボットに取り付けられたモーションセンサーが、危険な水位まで増水したことを感知すると、次はモーターが水門を動かす。水門が右へ左へと動くことで、田畑や海など、さまざまな場所へバランスよく水を逃がすという仕組みだ。続いて、センサーが水位の低下を感知すると、水門は元の位置に戻る。このように細かい動作を取り入れ、複雑なプログラミングを考えていた。

  • Bグループのワークシート

  • 川の水量が多くなると、水の流れを振り分けて洪水を防ぐ水門型ロボット。画面左に置かれた水色のブロックが水量を表している。

プログラミングの流れ(発表用ホワイトボードの内容)
①洪水が起きそうなら「避難してください」とアナウンスを入れる。
②注意を呼びかけるために、サイレンを鳴らす。
③モーターの速さを決め、モーターを動かす(右へ左へ)
④③を2回繰り返す。
⑤水門を閉じるために、モーターを左へ動かす。☓で終わりにする。

Bグループの実演

Cグループ

対策ストーリー 「洪水で橋が傾いたら、橋を巻き上げみんなを避難させる」

増水で橋が揺れ、チルトセンサーが橋の傾きを感知すると、ロボットが橋を巻き上げるというダイナミックなストーリー。橋が押し流され住宅に被害が及ぶことを、未然に防ぐのがねらい。同時に周りの住民にも避難を呼びかける。

  • Cグループのワークシート

  • 洪水で橋が流されないように巻き上げるロボット。

プログラミングの流れ(発表用ホワイトボードの内容)
①橋が揺れる。
②揺れた橋を巻き上げる。
③避難を呼びかける。
④人が逃げる

Cグループの実演

今回の授業は各グループの発表までであった。次回以降の授業では、洪水の備えとして何を準備すべきなのか、川の自然環境の守り方も視野に入れて話し合い、単元は終了となる。後半のリポートでは単元を終了した飯田教諭にプログラミング教育を導入した授業の難しさや、学校としてどんな取り組みをしてきたのか、お話しいただいた内容を紹介する。

記者の目

苦い記憶ではあるが、2015年に茨城県で起きた鬼怒川の決壊や、平成30年7月の豪雨のニュースを見ていた児童も多く、洪水災害についての課題感は身近に感じられたようだ。児童はプログラミングを勉強することで、洪水のメカニズムを一つ一つ解き明かし、人やロボットの動きを連動させて洪水対策を考えることができていた。もし自分の身に何か起こったときにも、冷静に一つひとつ行動を考え安全に避難できる力に変えてほしい。

取材・文・画像:学びの場.com

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