2019.02.20
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「大漁だ!大漁だ!」~大漁旗をデザインしよう~ 【食と表現】[小4・図画工作科]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第147回目の単元は「『「大漁だ!大漁だ!』~大漁旗をデザインしよう~」食と表現です。

多くの人が「魚」といえば、鮪、鮭などを連想し、地元の魚についてはあまり親しみがありません。もっと地元の魚を知ってほしい、そんな漁業関係者の思いを掲載した新聞記事を読んだことがこの学習活動のきっかけでした。漁業に携わる人々の努力や思いに触れながら命ある海産物を大切に食ベようとする態度を身につけること、また、活きのいい新鮮な播磨灘の海産物や漁場である風景を遠くから見てもはっきりと見えることを意識しながら描いた大漁旗を制作した7時間の授業を報告します。本単元の授業に先立っての実践や本単元後の実践について、次の図のように整理し、他教科、領域との関連を図りながら実践しました。

(全7時間)
第1次:

  • 大漁旗について知り、漁港の見学を振り返り大漁旗を制作するという学習の流れをつかむ。(1時間)

第2次:

  1. 播磨灘でとれた海産物を描く。(2時間)
  2. 海産物がすむ海や風景を描く。(1時間)
  3. 大漁旗に入れたい文字等をデザインする。(1時間)
  4. これまでに描いたパーツや素材の組合わせ方を考えながらコラージュして作品を仕上げる。(1時間)

第3次:

  • 大漁旗を展示し、世界観を楽しむ(1時間)

1 「ホンモノ」に触れる

明石浦漁港にて競りの見学とともに 海産物の観察をしました。

図画工作科において、子どもたちの意欲を継続し、「心動かされる作品」を制作する方法の一つは、できるだけ実物と触れ合わせることです。そこで、事前に明石浦漁港の見学に行きました。子どもたちは、競りや新鮮な海産物、多くの漁船等、熱心に見学していました。また、偶然シラス漁を終えたばかりの船が港につき、ピチピチのおいしそうなシラスが氷で冷やされ、競りにかけられ、あっという間に出荷されていく様子を目の当たりにした子どもらは新鮮さを保つための様々な工夫に驚いていました。
タッチプールを用意し、五感を働かせながらまだピチピチと跳ねる海産物を触ることによってより生き生きとした作品が制作できるように最初は考えていましたが、これは思いのほか大変な課題でした。海産物はあまりにもデリケートですぐに弱り切ってしまうのです。生きたまま・・・は、叶いませんでしたが前日に買ってきた(なるべく)地元産の海産物を教材に、五感を大切にしながら観察しました。

2 播磨灘でとれた海産物をデザインする

海産物に触れながら、割りばしペンで下描き。自分の感じた色で彩色。

授業では、割り箸に墨汁、または朱液をつけて下描きを行いました。作品が生き生きとした感じを出すためにいろいろな角度から海産物を観察したり「動きのあるポーズ」をグループで話し合ったりしました。
「大漁旗は遠くからもよく見える旗にデザインされているんだよ。」という声かけに「魚を大きく描きたい!」という考えを持ちつつも、作品が小さくなりがちな子どもたちに「タイチームは目から描いてみよう!」「タコチームは吸盤や足から描いてみよう!」などと描き出しをアドバイスしました。

自分の感じた色で彩色。

彩色については、普段から「思い込みの色ではなく自分の感じた色で」「パレットは色の研究所。たくさんの色がパレットに乗るように。」と指導しています。大漁旗の性質上1色ベタ塗りでもよいですが、魚のぬるぬる感、ごつごつ感などを表すにはやはり多色の方が表現しやすかったようです。
彩色が終わった人から教室に掲示していきました。まるで水族館にいるようでした。「掲示物を見ながら、どのような風景を描きたいか考えましょう。」という声かけに、見学で見た風景や人からの目線だけでなく海産物目線で風景を描きたいという子どもも出てきました。

3 図工ノートに文字のデザイン

文字を作品にいきなり描くのはむずかしいので、図工ノートに文字のデザインを考えました。子どもらの感想から、文字のデザインの活動が楽しいと感じた子どもが多かったことが分かり、ポスターなど他の学習においても取り入れたいと思います。
毎時終了時に作品を掲示して、 世界観を味わいました。

4 海産物と風景をコラージ

教室の窓を船に見立てて、子どもたちの作品を並べて鑑賞しました。

風景については、
①素材・画材・技法など自分のしたい表現にふさわしいものを考える  
②試行錯誤を繰り返してからコラージュする
③作品の中の主役が引き立つように、他の物は名脇役になる
という話をして活動に入りました。①についてはスパッタリングや吹き流しなど、これまでに学習してきたことをフル活用して、進んで活動できていましたが、③については少し難しかったようです。遠くから自分の作品を眺め、何度も試行錯誤をして、グループでも相談して、と悩みながら活動していました。しかし、第5学年の「主題の表し方を構想する」目標にもつながるので、4年生のこの時期の学習としてよかったと思います。最後に教室の窓を船に見立てて掲示しました。大漁旗がたくさんはためいて港は賑やかな雰囲気というイメージで鑑賞も行いました。

子どもの感想より

  • 目をゼリーみたいにすると生きているような感じになりました。
  • 大漁旗は遠くから目立たせることが大事です。しかもメインの物をさらに目立たせることに気をつけました。
  • 文字のデザインを考えるのも楽しかったです。
兵庫県漁業協同組合連合会の皆様、ご協力ありがとうございました。
平成29年度 4年生 作品 パッケージデザイン ~給食のメニューを パッケージにしてみたら~
授業の展開例

○新鮮な海産物または野菜を売り出すチラシ(ポスター)を描く。
○給食を商品として売り出すとしたら・・・その商品のパッケージをデザインする。

佐伯 久代(さえき ひさよ)

加古川市立川西小学校 教諭
以前は学級担任をしておりましたが、4年前より図工科を中心に指導しています。
教材を考えるのは大変ですがまだまだ新しい発見が多く楽しんでいます。
もしかすると子どもたち以上に楽しんで授業をしているかも?!

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・佐伯久代/イラスト:学びの場.com編集部

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

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