2018.12.12
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水産業のさかんな地域 【食文化・社会性】[小5・社会]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第145回目の単元は「水産業のさかんな地域」です。

「水産業」は、「農業」と並び日本の主要な食料生産活動である。当たり前のように食卓に並ぶ魚介類。子どもたちは、これらを何気なく食べている。しかし、この魚介類が自分たちの食卓に並ぶまでには、関係する多くの人たちが努力や工夫を重ね、様々な経緯を経ている。本単元では、「なぜ、日本ではたくさんの魚を食べることができるのか」という単元を貫いた課題を常に意識させながら、まず、沖合、遠洋、養殖・栽培漁業に目を向け、それに関わる人たちの努力や工夫について学習した。その後、一人ひとりが興味を持った漁業について調べ学習を行い、既習事項と併せて考えながら、それぞれの漁業の長所と短所という形でまとめた。この長所と短所には日本の水産業の現状が反映されており、長所を伸ばすことや短所を改善することが、日本の未来の水産業の方向性につながると考え、児童一人ひとりが未来の水産業の在り方(方向性や守るべきルール)について提言できるように授業を展開していった。

◇指導計画 全8時間

第1次 ・給食の献立調べ及び日本近海の漁場における自然条件をまとめる
第2次 ・沖合、遠洋、養殖・栽培漁業と魚の輸送についてまとめる
第3次 ・沖合、遠洋、養殖・栽培漁業について調べ学習を行う。
第4次 ・未来の日本の水産業について提言(方向性や守るべきルール)を行う。

1 給食の献立調べと日本近海の漁場の自然条件をつかむ。

まず、給食の献立調べを行い自分たちの身近な食事の中にもたくさんの水産物が存在していることを確認し、水産業が自分たちにとって大切なことを実感させる。

そして、日本は周囲を海に囲まれ、大きな大陸棚が広がっていることや暖流と寒流がぶつかる潮目が日本近海にあることなど、水産業を営むのに自然条件が揃っていることをつかませる。

2 沖合漁業、遠洋漁業、養殖・栽培漁業についてつかむ。

学習の足跡(授業における学習内容のまとめ)【日本の漁場の自然条件、沖合漁業】

日本の漁業の主要な3つの形である沖合、遠洋、養殖・栽培漁業について漁法や漁に対する工夫点、生産者の努力について学習した。その際には教え込み過ぎず、教科書レベルの学習内容をおさえる。(調べ学習で深く追及させるため)

(学習内容)
沖合漁業・・・・・・まきあみ漁について(漁法や工夫点)
          沖合漁業で捕れる魚種について
遠洋漁業・・・・・・かつおの1本釣り漁について(漁法や工夫点)
          200海里水域について
養殖・栽培漁業・・・ほたての養殖について(やり方や工夫点)
          ひらめの栽培漁業について(やり方や工夫点)

3 沖合、遠洋、養殖・栽培漁業について、各自で調べ学習を行いまとめる

沖合、遠洋、養殖・栽培漁業の中から興味を持った漁業について、さらに深く知るために調べ学習を行った。(インターネットサイト、図書室の本、教科書、資料集を使って)まとめるときには、既習事項と自分で調べた事項の中から、各漁業の長所と短所を考えることを意識させた。また、この長所や短所を考える際には、7つのキーワード【自然環境との関係、安定、値段、食の安全性、味、費用、働き方】の視点を持ちながら考えさせていった。前単元の米づくりでも、このキーワードを使っていたため、スムーズに考えられている児童も見られた。自分の興味がある学習内容であり、子どもたちは意欲的に活動に取り組むことができた。

(子どものまとめの例)
沖合漁業・・・・・・・【長所】捕れる魚の種類が多い
               効率よく魚が捕れる。(速く、たくさん)
           【短所】捕り過ぎて魚が減った
遠洋漁業・・・・・・・【長所】捕れる魚の種類が多い(高級な魚も)
               1本釣りだと魚の痛みも少なく、すぐに冷凍できて新鮮
           【短所】200海里水域で捕れる範囲が減少
               何か月も船に乗っているので疲れる(休みなし) 
養殖・栽培漁業・・・・【長所】人手が少なくてすむ
               安定して魚がとれる 収入も安定する 
           【短所】養殖より天然の方がおいしい
               養殖できる魚の種類が少ない

  • 各自の調べ学習のまとめ(沖合、遠洋、養殖・栽培漁業について)①

  • 各自の調べ学習のまとめ(沖合、遠洋、養殖・栽培漁業について)②

  • 各自の調べ学習のまとめ(沖合、遠洋、養殖・栽培漁業について)③

  • 各自の調べ学習のまとめ(沖合、遠洋、養殖・栽培漁業について)④

  • 各自が調べた内容とそこから考えた各漁業の長所と短所が書かれています。
  • 考えられる児童については、今後の各漁業の方向性(すべきこと)についても書いています

4 未来の日本の水産業について考える。

自分たちでまとめた各漁業の長所と短所を出し合い、その長所を伸ばし、短所を改善するために、未来の日本の水産業について、その方向性や守るべきルールについて考えさせた。魚群探知機の性能を上げるなど、各漁業の改善点について考えた意見が多かったが、前単元の米づくりのときと同様に、水産業で働く人たちの減少に気づき、体験や船内見学などを通して、漁業をアピールすることが大切だという意見も見られた。そして、中には、漁業で働く人たちの減少に気づき、自分が漁業をして日本の漁業を支えたいという意見を持った児童も出てきた。

【子どもたちの意見】

各班の意見のまとめ

・外国と交渉して協力してもらう。
(食料・燃料・200海里内で捕っても良い魚の量を増やしてもらう)【遠洋漁業】
・外国と話し合いで200海里水域をなくす。【遠洋漁業】
・研究して、養殖できる魚の種類を増やす。【養殖・栽培漁業】
・魚がえさを食べる量を研究して、食べ残しがないようにして赤潮にならないようにする【養殖・栽培漁業】
・魚は全世界の資源。決まりを作って守っていく。
・魚群探知機の性能を良くして、もっと効率的に魚をとる。
・漁業で働く人が減っているので、知ってもらって、協力してもらえるように伝えていく。(体験やチラシなど)

【子どもたちの感想から】

学級全体での各班の意見の発表

・水産業についてあまり知らなかったけど、水産業の生産量が減ってきていることや200海里で漁業ができる範囲がせまくなってきたことが分かりました。
・当たり前に食べている魚だけど、捕っている量が減ってきていて、輸入量が増えてきていることにびっくりしました。
・魚群探知機が漁業をするのにとても便利なことが分かりました。
・水産業をやっている人たちが高齢化してきて、減ってきていることが分かったから、体験会などをして若い人たちを増やすことが大切だと思いました。
・いろんな漁業の種類があってすごいと思ったし、魚の捕り方もいろいろあって、おもしろいと思いました。
・水産業はいがいと大変だと思いました。大勢人がいるし、長い間家に帰れないからです。

当日の板書

授業の展開例

○沖合、遠洋、養殖・栽培漁業のそれぞれの現状と課題について調べてみましょう。
○未来の日本の水産業について(方向性や守るべきルール)考え、発表してみましょう。

井土 哲也(いど てつや)

兵庫県丹波市立中央小学校 主幹教諭
教員生活20年目で、小中5校目の勤務。児童が主体的に活動し、楽しんで学びに取り組む授業づくりを目指し、日々研鑽を積んでいる。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・井土哲也/イラスト:学びの場.com編集部

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

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