2018.11.21
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恵方巻から考える食品ロス 【食文化・食の社会性】[小5・学活]

2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発のための2030年目標」(SDGs)の17の目標と169のターゲットの中に、食品ロス削減が、「12.3: 2030年までに小売・消費レベルにおける世界全体の一人当たりの食品廃棄物を半減させ、収穫後損失などの生産・サプライチェーンにおける食品の損失を減少させる」と明確に位置づけられました。
食品ロス削減は、喫緊の課題となっており、学校教育における実践やその成果が大いに期待されています。ターゲット12.3の達成のための学校教育における取組については、すでに「北六米っこ物語」(141回~143回)において報告しました。
今回は、同じ5年生で社会科の食料生産の学習から身近に起こっている食品ロスについて「恵方巻」の事例を取り上げました。売れ残った商品が廃棄されている現実に出合うことで、食品ロスについて考えた1時間の授業を紹介します。

1.教材化の視点~子どもの生活や教科の学習と関連づけた食品ロスにかかわる事例の選択~

販売者は、消費者の需要に応えるため、たくさん仕入れ、店頭でものがなくならないように商品を販売しています。売り切れると、せっかくの販売チャンスが無駄になるからです。商品をたくさん揃え、消費者に買ってもらうために鮮度を保ち、日々努力しています。しかしながら、消費者の求めに応えるためにたくさんの商品を仕入れるということは、当然、売れ残りや廃棄する商品(=食品ロス)が出てきます。売れ残った商品は消費者の手に届くこともなく捨てられる現実があります。

売れ残った商品が捨てられる現実は、私たち消費者には見えてきません。身近に存在するこうした食品ロスを自分事にするために、総合的な学習の時間での米作りと社会科「食料生産」の学習に関連させて学ぶことにしました。5年生の子どもたちは、田んぼとバケツ稲で米を栽培・収穫し、家庭科の調理実習でおにぎりにして食べました。栽培活動を経験し、生産者としての苦労や努力を学んできました。そんな経験をした子どもたちに「恵方巻」が廃棄されている現実に出合わせました。米作りを通した経験と節分という身近な年中行事から迫ることで、食品ロスを学どもにとってより切実な問題として捉え、深く学ぶことができると考えました。

2.授業「恵方巻から考える」

図1 「恵方巻からくらしを考える」授業板書記録

授業のはじめには、節分の写真を見せることで恵方巻を連想させ、授業に対する興味づけを行いました。
2月3日になると恵方巻がスーパーやコンビニで売られます。子どもたちには、その売れ残った恵方巻が処分される現実から食品ロスと出合わせました。販売者の立場から売れ残りをなくすために、図2のように子どもたちなりに課題解決の方法について考えました。

売れ残った恵方巻をどうしたらいいか

  • 恵方巻を安く売る
  • 余った分を無料で配る。
  • パックにして貧しい国や食べ物に困っている国に届ける。
  • インターネットで販売状況(売れ残り)を伝えてPRする。

図2「売れ残った恵方巻をどうしたらいいのか」

そして、子どもたちが食品ロスについて自分たちの考えを出し合ったあと、昨年の売り上げ実績をもとに恵方巻を販売したスーパーの事例を提示しました。
この事例から、売上を重視して販売活動に取り組む多くのスーパーや企業と、地球資源を守るために売れ残りを減らそうと取り組んでいるスーパーの考え方を比較し、どちらの考えが良いか考えました。授業の中では、以下のような意見が出されました。

売上を重視して多めに生産するのか、それとも昨年度売り上げた実績をもとに販売するのか

「社会科の養殖業と関連づけて、自分たちの食べる分は養殖を行い、(水産資源を)守ろうとしているからいいのではないか。」
「でも、人の食べる量には限りがあるから(恵方巻を)作りすぎるのは良くない。」

子どもたちは、さまざまな意見を出し合い、この問題を考えていました。授業後の感想には、「(売る量を減らすと)買いにくる人ががっかりするし、売る側の利益にならないから、少しくらい余るくらいがいい。仕方ない。」という生産者と消費者という関係を理解し、社会的な仕組みの視点から考えている子どもや「恵方巻を大量生産することで資源をむだにしている。」という資源の有限性を考える子どももいました。

以下は、授業後の子どもたちの感想です。

  • 図3 子どもの感想「恵方巻が売れ残るのは仕方ない」

  • 図4 子どもの感想「店や消費者のことを考えると仕方ない」

  • 図5 子どもの感想「売れ残らないようにしたほうが良い」

  • 図6 子どもの感想「売れ残ると処分しなければならない」

図7 授業後の感想「自分にできることを考えた」

また、授業の最後には、食品ロスを自分事して考えるきっかけとなるように、給食で余った米の写真を提示しました。給食の残食を提示することで、食品ロスは自分たちの身近な問題であることとして捉えることができました。

また、感想には「ぼくたちも学校の給食を残さないことが、こうした食べ物が余る現状を解決するための一つの解決策でじゃないかなと思った。」(図7)と述べるなど、今の自分にできることを考えている子どもの姿がありました。

その後、給食で出されたお米は、3学期が終わるまで残量ゼロが続くなど、子どもたちが協力して食品ロスに取り組む姿が確認できました。日常的に食べ物を大切にする態度が育まれたことが確認できたのです。

3.食品ロスをなくすためには

食品ロスとは、食品の食べ残しの問題から経済活動で行われる生産・消費の過程において出されるなど多岐にわたる問題です。食品ロス解決のために、今ある身近な現実に直面し、その食品ロスの事象を主体的に捉え、課題解決に向けて自分の生活の中で自らできることを考え、できることから実行していく態度を養うことが重要だと考えます。そのために、次の学年へ継続して取り組むことや、学校の教育活動全体で考え指導していくことが重要となります。
授業の展開例

○バレンタインや恵方巻など、社会に根付いているイベントから食品ロスの現状を調べ、子どもと出合わせることでより身近な事象として現代社会の問題を学ぶ教材へと変わるのではないでしょうか。

○日本の食品ロスが年間、どのくらいの量か調べてみよう。自分たちが食べている量と廃棄している量を比較すると驚きの結果が見えてきます。

箱根 正斉(はこね まさなり)

兵庫県西宮市立北六甲台小学校 教諭
教員8年目。総合的な学習の時間を中心として子どもの主体性を引き出せるように単元、授業づくりに日々取り組んでいる。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修・文:藤本勇二/イラスト:学びの場.com編集部

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

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