2018.08.15
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北六米っこ物語 ~自分たちのくらしをつくる~(その1) 【食とくらし】[小5・総合的な学習の時間]

兵庫県西宮市立北六甲台小学校では、毎年5年生が米作りを行っている。米作り体験を行っている学校は全国的に見ても決して少なくない。米作りが総合的な学習として教材として扱われているのは、社会科の学習との関連性や日本の農業や食文化など、教材が持つ内容の広がりの幅が大きいからであろう。
子どもたちが米粉パンと出会い、製品化を実現するまでにさまざまな課題に出会った。出会った課題を探究的に解決していく子どもの姿を3回に分けて紹介する。第141回目では、田植えから収穫までの様子をリポートする。

単元構想

現在、日本では米の消費量が年々減少している。その背景として、食事の欧米化や少子高齢化の影響、農業で生計を立てる人(農業従事者)の割合の減少などさまざまな問題点が挙げられている。
本実践では、JAや農家の方の話から、自分たちが作るお米の見えない課題に直面させ、日本農業社会の問題を考えさせた。そして、米の消費量を増やし、日本の食料自給率を上げるために自分たちのつくったお米を米粉パンにして製品化する活動を中心にして単元構想を立てた。
はじめに米粉パンと出会い、製品化に向けて米を栽培していくという単元の見通しを持った。米粉パン販売に向けて、米の栽培を種籾選びから苗づくり、田植え、稲刈り、脱穀まで実際に農家で行う工程と同じように実施する。その後、米粉パンとして製品を企画し、店頭販売を行い、地域や社会に発信していくまでの活動を以下のように4つの大きな構成で計画を立てた。

総合的な学習の時間「北六米っこ物語」の単元構成
第1単元 北六米っこ物語~シナリオ作り~
第2単元 北六米っこ物語~米を栽培・収穫しよう~ 
第3単元 北六米っこ物語~米粉パンを製品化して販売しよう~
第4単元 北六米っこ物語~未来につなげよう~

1 米粉パンとの出会い

~米粉パンへの期待と活動の見通し~

学校の近所に、キタロクベーカリーというパン屋さんがある。自分たちの身近なお店で販売されている米粉パンを子どもたちが食べる機会を設け、教材と出会わせた。

いつも食べている小麦でつくられた食パンと米粉パンとのちがいから、米粉の良さに目を向けさせることで子どもの活動に対する興味や関心を高め、今回の単元を位置づけた。

2 お米づくり~田植え・水の管理・稲刈り~

(1)種籾選び~塩水選~

昔から農家で行われている塩水選(えんすいせん・塩水に沈んだ充実した種子だけを採用する)という方法を用いて種籾を選ぶところから、稲の栽培活動を行った。さらに、例年、近所の農家さんの田んぼで栽培していた「ヒノヒカリ」に加え、今年度は、バケツ稲(バケツで稲を育てる方法)で酒米として使われている「山田錦」と「コシヒカリ」を栽培した。

(2)田植え

田植え

田植え

田植えは、地域の田んぼを借りて昔ながらの手植えで行った。また、バケツ稲では、地域でお世話になっている農家の方に有機肥料の入った土をお借りした。種籾は牛乳パックを再利用し、選別して発芽させた種籾を植えて田植えができる大きさに生長するまで栽培した。農家の方が米作りで行うように、土づくり、代掻き(しろがき・田に水を入れた状態で土の塊を細かく砕き、田面を平らにする作業。)の工程を行うことで、農家の方の苦労や努力を感じさせた。

子どもたちは、大変さを感じながらも、楽しみながら活動していた。

バケツ稲での田植え

バケツ稲での田植え

(3)稲の栽培活動 ~子どもの探究的な学び~

栽培活動において、バケツ稲の水がすぐに干上がるために管理がとても大変であった。

子どもは、「水の管理を簡単にできないか」と課題(問題意識)を持ち、全体で共有し課題解決の方法を話し合った。

そこで出てきた方法は、以下の3つである。

①バケツにペットボトルを立てる。(生活科のあさがおの栽培方法)
②稲にビニール袋をかぶせる。(蒸発させないようにする。→4年生の理科の実験の活用)
③バケツを池にしずめる。(田んぼと同じ方法)

これを順に課題解決させていった。

① バケツにペットボトルを立てる方法

ペットボトルを突きさし、観察した。マジックで線を引き、水の減りを比べることで検証した。

この方法では、ペットボトルの水がバケツの中に入らずに水が干上がってしまったため、うまくいかなかった。

② 稲にビニール袋をかぶせる方法

②蒸発を防ぐ

②蒸発を防ぐ

稲にビニールハウスを閉じ込めて水の減り方を検証した。

この方法では、水滴がビニール袋の内側にたまるため、ある程度の水は循環していたように感じられた。また、この方法で栽培していた稲の生育が非常に良かった。子どもたちは、「ビニールハウスみたいになったから、よかったのではないか。」と発言していた。

しかし、この方法では、1つのバケツに袋をかぶせるため設置に時間がかかるという問題点も挙がった。

③ バケツを稲にしずめる

「バケツ稲を池にしずめよう」と話題になったときであった。一人の子どもが「稲が全部水の中に沈んでしまうので、大丈夫かな。(育つのかな。)」「水の中の生き物は大丈夫なのかな。稲の土を入れると、駄目じゃないのかな。」と発言した。

①本当にこれで稲は育つのか
②池にいる生き物に影響が出るかもしれない。

この考え方の背景には、池にいる生き物に興味を持ち、観察している子どもたちの姿があった。池の生き物や環境を大切にしたいという思いが感じられる意見であった。新たに2つの疑問が生まれたため、子どもたちは、課題解決に向けて地域の方や専門家に質問してみることにした。

専門家に聞いてみよう その1 ~地域の農家のHさん~

地域の農家のHさんの話

地域の農家のHさんの話

そこで地域の農家のHさんをゲストティーチャーとして招き、池にしずめても稲が育つのか質問した。すると、Hさんからは、稲が全て沈むと良くないと指摘されたため、子どもたちは、池から出る稲の部分の高さを調節するために、以下のような案を出していた。

・ペットボトルを下に敷いたらいいのではないか。
・稲の出ている部分を何㎝にするか、また台やペットボトルをどうやって沈めるか。

また、Hさんからは、「稲は育つだろう。」とアドバイスをもらった。しかし、生き物への影響に関しては、「難しい質問です。やってみないと、わからない。」という回答であった。

専門家に聞いてみよう その2 ~武庫川女子大学 藤本勇二先生~

「池にバケツをしずめて、池の生き物は大丈夫なのか」という新たな問いに対して、日本環境教育学会に所属している、武庫川女子大学の藤本先生に聞いてみた。携帯電話を用いてテレビ会議を行った。会議では、子どもたちが藤本先生に対して稲を栽培していてわからないことや不安なことを質問した。池の生き物に対する質問では「田んぼの土には浄化作用があり、池の生き物にとっても稲にとっても環境が良いのです。」と回答をもらった。

国語:立場を決めて討論しよう

バケツ稲を池にしずめることに関して国語科で討論をした。テレビ会議の内容をふまえてバケツ稲を池にしずめることに賛成と反対の意見を自分なりに両方の立場から考えさせた。授業の実際では、池の生き物に影響のないことや水の管理が簡単にできるため、賛成意見のほうが多数であった。しかし、反対意見には、「全校生の憩いの場所となっているため、5年生の活動の為に全校生に迷惑をかけてはいけない」と学校全体のことを考えて発言する姿があった。結論として、3つだけバケツを池にしずめるという意見に収束したのであった。

3 米作り ~稲刈り・脱穀~

(1)稲刈り ~田んぼ 編~

田んぼの稲刈りを行った。稲刈りを体験することで、子どもたちは農家の方の苦労や努力を学んだ。さらに地域の方からは、稲の生育に有害な害虫やその害虫を食べてくれる益虫の話など、生き物の命の繋がりや無農薬で栽培することの大切さを教えてもらった。
  • 田んぼで稲刈り

    田んぼで稲刈り

  • バケツ稲で稲刈り

    バケツ稲で稲刈り

(2)稲刈り ~バケツ稲 編~

①バケツ稲と育苗箱で育てた稲を比べよう~理科教科関連学習~

バケツ稲で栽培していた稲は順調に育ち収穫できるまでになった。また、苗のまま育苗(いくびょう)箱に入れ池に沈めて放置していた稲も少量ながら収穫できた。そこから子どもたちに、二つの生育条件のちがいから稲の生長に必要な条件を理科の植物の育ち方と関連させて学びを深めさせた。以下は子どもの感想である。根が張れるための広さや肥料、さらに根から水を取っていることなど理科の学習で学んだ内容と結び付けて学んでいることが感想からも読み取れる。

②米の収穫量の平均を比べよう~山田錦とコシヒカリ~

バケツ稲では、山田錦とコシヒカリを育て収穫した。

そこで子どもから「どっちの方が多いやろ。」という素朴な疑問が出てきた。その問題をクラス全体に投げかけ、調べてみることにした。

  • どちらのほうが多いかな

    どちらのほうが多いかな

何粒あるかで調べたいという子どもたちは、バケツ1杯当たりの収穫量を調べ、平均を出して調べてみる方法をとった。これは、算数で学習した平均の考え方を生かした学びである。このように、実際に獲得した知識や技能を活用して実際の日常生活で発揮させる場面を設定することで確かな学力へと定着していく。

実際の収穫量の平均を出す際には、子どもの意見でもあるように、何らかの原因でうまく生育しなかったり、測りまちがいが起こったりすること、いわゆる外れ値と呼ばれるものがある。その値を平均として含めるか含めないか問いかけた。

「自分たちの育てたものであるため全て含めて平均を出そう。」
「それだと、ちゃんと育った場合の米の収穫量にならないから、その値は含めないほうがいいんじゃないかな。」

他の値と比べて差が余りにも大きい場合、外れ値として含めない場合があることを教えた。算数の授業で教科書の例題を扱い知識を学ばせるより、日常生活や子どもたちが主体となる活動の文脈の中で結果を分析し、外れ値の取り扱いを学んだほうがはるかに切実に学んでいた。算数で学んだ平均を日常生活で自在に扱えるように、自分たちが体験した内容を用いて活用していくことで、汎用的な知識や技能へと高めることにつながった。

さらに、この学習で学びを深めた子どもたちは、教室掃除の場面でも力を発揮した。教室掃除で牛乳パックのストローのゴミが落ちていることに気づいた子どもたちは、掃除の時間に何束落ちているか数え平均を出し、クラスに知らせていたのであった。

授業の展開例
  • 米は一束あたり何粒ついているか、それぞれ異なる。そこで1束あたりの数を数え平均を用いて調べることもできる。何粒ついているか調べてみよう。
  • 米の種類によって収穫量が異なる。さまざまな米を栽培してみて、収穫量のちがいを調べてみよう。結果から収穫量が異なる理由を調べることで、生育条件や品種のちがいなど、教科を横断した授業に発展していくでしょう。

箱根 正斉(はこね まさなり)

兵庫県西宮市立北六甲台小学校 教諭
教員8年目。総合的な学習の時間を中心として子どもの主体性を引き出せるように単元、授業づくりに日々取り組んでいる。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 准教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・箱根正斉/イラスト:学びの場.com編集部

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