2018.04.18
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食品サンプルをつくろう! 【食と表現】[中3・美術]

食育は家庭科や総合的な学習の時間だけが受け持つものではありません。理科、社会科などどの教科でもアイディア次第で楽しく展開できます。教材開発のノウハウや子ども達の興味・関心を高めながら、望ましい食生活習慣を育てていく授業作りのヒントを、武庫川女子大学・藤本勇二先生主宰、食で授業をつくる会「食育実践研究会」がご紹介します。第137回目の単元は「食品サンプルをつくろう!」です。

食品サンプルをつくろう! イラスト

「しつらえ」という言葉があります。辞書で引くと「しつらえること。用意、準備」と書いてあります。人は毎日食事をして生きていますが、「食べる物さえあれば良い」というわけではありません。器があり、お盆があり、お箸があり……。それらが合わさって「食卓」が出来上がります。同じ食材でも、その「しつらえ」が変わることで季節感を味わえたり、食欲をかきたてられたりと、感じ方にも変化が出ます。

もともと日本は食に対して意識が高く、特に自然の美しさを味わう工夫をしてきました。笹の葉などを包装にするちまきや、螺鈿を施した食器は、材料として自然物を生かした例です。

この授業では、単純に食品のみのサンプルを作るのではなく、食材の瑞々しさや彩りなどのシズル感を目指し「しつらえ」を整えることで、作品を見た人に対して「おいしそう!」、「実は食べられるのではないか?」と思わせられるような、「食卓」を演出します。普段の食生活の様子や食の知識が作品の発想・構想に活かされ、食文化に関心を寄せるきっかけとなることを期待しています。

発想・構想を練り、アイディアスケッチをする

クロッキー帳に描かれたアイディアスケッチ

クロッキー帳に描かれたアイディアスケッチ

はじめにどんな食品を作りたいか、自分の興味ある食べ物を考えます。生徒達は最初、イメージしにくい様子でしたが、次第に考えが深まり、クロッキー帳にアイディアスケッチが増えていきます。

指導としては、
「食べられるもの(食材も可)を作る」
「渡す材料は樹脂粘土のみ」
「ただ食品を作るのではなく、食器や道具なども含めて考えること」
と伝えます。

粘土の量も限りがあるので、大きく作りたい場合はスチロールなどで嵩増しする必要があります。それら粘土以外の材料は、生徒自身で用意します。すると、こちらが予想した以上に幅広い発想で材料を持ってきていました。

実際に粘土を触る

樹脂粘土は繊細な表現ができる半面、水分が乾燥しやすい

樹脂粘土は繊細な表現ができる半面、水分が乾燥しやすい

次に、生徒達に樹脂粘土を渡します。樹脂粘土は自然乾燥すると、白っぽい色から半透明へと変わり、ちょうど餃子の皮や牛皮のような見た目になります。また、絵の具を練り込むことで粘土の色を変えることができます。今まで触ってきたであろう紙粘土や石粉粘土と比べると、肌理が細かくよく伸びるので繊細な表現ができる一方、水分が乾燥しやすく丁寧に扱う必要があることに気づきます。実際に触ることで
「自分にどんな形が作れるのか」
「どんな表現が可能か」
と具体的に考えられるようになり、発想と制作をぐるぐる繰り返しながら思考が深まっていく様子がうかがえます。

実制作を始める

樹脂粘土の扱いに苦戦しながら制作する

樹脂粘土の扱いに苦戦しながら制作する

アイディアが固まると、あとは作るのみです。樹脂粘土の扱いに苦戦しつつも、新しい材料を使って楽しんで制作します。

制作において、最も大切な活動として指導していることが「観察」です。何事も、「見て」、「気づいて」、「わかる」ことが表現の肝です。「観察」してわかったことが表現の糧となって、カタチに表れます。

サンプルを作る際に本物の食品を授業に持ち込むことはできないので、各自で写真資料等を準備します。それを見ながら作ることで、普段気にせず食べていた食品に、おいしさを感じる要素がたくさんあることに気づくことができます。

はじめに色。おいしそうな肉や野菜は色鮮やかで明るい印象を持っているかもしれませんが、実際はそうでもありません。所々くすんだり、変色したりしています。絵具のチューブをそのまま捻った色では、合成着色剤を塗りたくった人工物になってしまうのです。

団子のほどよい柔らかさが表現され、美味しそうな食感が伝わってくる

団子のほどよい柔らかさが表現され、美味しそうな食感が伝わってくる

次に形。例えば団子を作ろうとした時、多くの人が「丸くなっている」と思うでしょう。しかし、団子のおいしさは、ほどよい柔らかさにあります。綺麗な球体では卓球のボールのような印象を持ってしまいます。器に載った団子が重力にならって少し潰れ、隣の団子とくっついていると、美味しそうな食感を見る者に予感させてくれます。

最後に構成。作ったサンプルを盛り付ける際、
「とりあえず紙皿でも持って来ればいいや」
と思っていた生徒のほとんどは、実際に盛り付けてみると物足りなさを感じます。それがバーベキューで焼いた肉ならば良い雰囲気になるのかもしれませんが、良い食材はそれに見合う器に盛られているものです。ご飯ならお茶碗、焼き魚なら四角の織部、アイスのカップ、ケーキ皿やティーセット、お節の重箱、炒飯の大皿、蕎麦のざる……食品の数だけ器はあります。そういった食品以外の部分が持つ食文化に気づき、作品に取り入れることで、より本物に近づいた食品サンプルが出来上がっていきます。

実際制作にかかる時間は作るものによって前後しますが、早い生徒でも7時間くらいはかかります。アイディアを練るのに1時間、心材を作っておおまかな形を取るのに1時間、ケーキのスポンジや、フライの衣、果実の種などの表面の形を作って、着色や光沢をつけるのに4~5時間はかかります。

展示する

制作した作品を文化祭で展示

制作した作品を文化祭で展示

今年は制作した作品を文化祭にて展示しました。絵と違い、立体物であることと、食品という身近なものであったことで、展示を見に来られた方もイメージしやすく、楽しんでもらえたようです。生徒それぞれの持っている「食」のカタチが作品に表れ、生徒にとっても保護者の方にとっても、食文化について考えるいい機会となったのではないでしょうか。

生徒達が作った食品サンプル
  • 生徒達が作った食品サンプル1
  • 生徒達が作った食品サンプル2
  • 生徒達が作った食品サンプル3
  • 生徒達が作った食品サンプル4
授業の展開例
  • 「和菓子」~季節が流れる甘味な世界~(和菓子を通して日本の美意識を感じる)
  • 「食欲そそるランチマット」(トレー、お盆、マットなどのデザインを考える)

村井 隆宏(むらい たかひろ)

兵庫県丹波市立春日中学校 教諭 美術科
教職3年目で2校目の勤務となる。現在、2年生の学級担任をしている。筑波大学大学院で焼き物を中心に研究し修了した。生徒達が「人の表現を気づける、わかる、伝える」授業づくりを目指して、日々研鑽を積んでいる。

藤本勇二(ふじもと ゆうじ)

武庫川女子大学教育学部 教授。小学校教諭として地域の人に学ぶ食育を実践。文部科学省「食に関する指導の手引き」作成委員、「今後の学校における食育の在り方に関する有識者会議」委員。「食と農の応援団」団員。環境カウンセラー(環境省)。2010年4月より武庫川女子大学文学部教育学科専任講師。主な著書は『学びを深める 食育ハンドブック』(学研)、『ワークショップでつくる-食の授業アイデア集-』(全国学校給食協会)など。問題解決とワークショップをもとにした食育の実践研究に取り組む「食育実践研究会」代表。'12年4月より本コーナーにて実践事例を研究会のメンバーが順次提案する。

監修:藤本勇二/文・村井隆宏/イラスト:あべゆきえみうらし~まる〈黒板〉

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