2012.04.05
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郡山市立大島小学校 教諭 小野 浩司 「1年の節目を迎えて」

第三十回は、福島県の郡山市立大島小学校 教諭 小野 浩司さんの最終回となります。

3月10日
須賀川の文化センターでNHK BSで「震災から1年“明日へ”コンサート」がおこなわれた。由紀さおりさん、安田祥子さん、西田敏行さん、北島三郎さん、坂本冬美さん、一青窈さん、平原綾香さんらとともに、本校合唱部の子どもたちも参加した。
いつもなら3月初旬におこなわれたお別れ会が合唱部最後のイベントとなるはずだったが、思いがけずお声がかかり、お別れ会以降も練習を続け、ステージに立てる機会をいただいた。
前日2時間、当日も朝から会場入りし、リハーサル、発声練習をしての本番のステージ。ライトを浴びながら、会場いっぱいの聴衆の前で、由紀さん、安田さんと共に歌う子どもたち、とてもうれしそうに、澄んだ声を響かせる姿、歌声をステージ袖から観ることができた。
生放送終え、帰宅すると、幾人もの知人・友人から「観たよ」「すてきだったよ」「涙が流れてきたよ」と連絡をもらった。

3月11日
この日も合唱部の引率。
今日は駅前商店街の通りでの震災から1周年の記念イベントへの出演。あの午後2時46分を挟んでのステージ。そのときを、どのような思いで向かえるのだろうと、ドキドキしながら向かえた。
前日もそうだったように、たくさんの方が足を止め、聴いてくださった。数曲歌ったのち、2時46分を向かえ黙祷。
そのあとも子どもたちの歌声が響いた。
歌うにつれ、集まる聴衆が増えていった。よく見てみると、微笑んでいる方、静かに耳を傾けている方、目頭を熱くしハンカチをとり出そうとしている方、多くの方々に子どもたちの声だけでないものが伝わっていることがわかった。

3月13日
給食の時間、司書補の先生が「一年前の今日だね。」と言った。
一瞬、「?」と思った。
「だって、今日って中学校の卒業式だったでしょ。そして卒業式場作成の日じゃない。」
そう、1年前の3月11日は、午前中に中学校の卒業式、そして午後、3時から体育館で卒業式の会場作成をするはずだった。
「だから地震、来ないといいな。」

3月15日
1年前のこの日、たくさんの放射性物質が原子力発電所から飯館村、福島市を経由し、郡山まで届いた。1年前のこの日は、そのことを知らなかった。
それから1年、いろいろなことをしてきたつもりだったが、振り返ってみると、まだまだできていないことがたくさんあることに気づいた。

3月23日
卒業式。139名の子どもたちが学舎を巣立っていった。ある先生が言っていた。
「今年は、普通の、しっかりとした卒業式をして送ってあげたい。」

夜、以前担任していた子のお母さんから電話をもらった。栃木県に避難している方だ。いろんな話を伺った。4月に戻ろうと考えていること、悩みながら戻る決断をしたこと。

3月26日
転退職される先生たちとの送別会が催された。今年は10人の先生方をお送りすることになった。
(昨年度の人事異動が4ヵ月延期され8月1日付となったため)7月に送別会をしたばかりと言うのに…という思いが巡った。

お一人お一人の先生方から話を聞いた中、「震災が大きく考えるきっかけとなりました。」という言葉が数回聞かれた。

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震災をきっかけに1年間コラムを書かせていただく機会を得ました。
今回が最後の原稿となります。
最後に何を書こう、何を書けばいいのか、ずっと悩み続けていました。

結果として、このような文章を書き進めることにしました。

震災、そしてそのあと原発の事故発生以降、今まで考えたことのないことをいろいろ考えることになりました。そして今までしたことのないことをいろいろ経験してきました。
この1年間を振り返ってみて、何より貴重だったと思えることは、このコラム執筆で出会えた方々をはじめ、本当に多くの方々と新たに出会えたことです。その方々から、たくさんのあたたかな言葉をいただきました。たくさんのあたたかな気持ちをいただきました。
そして、お会いした方々よりももっと多くの震災をうけた地域・人々を支えようとしてくださっている方の尊い存在も、本当にたくさん見聞きすることができました。
そして、そして、さらに多くのあたたかな気持ちをもってくださって想いを寄せてくださっている方々がいることも知ることができました。

ほんとうにありがとうございました。

そして、この1年でたくさんのことを学びました。
心のケア、少しずつわかってきました。
教育とは、授業とは、教師とは、少しまた考えを深めることができました。
震災2年目を迎え、また新たなチャレンジをしていこうと考えています。
より子どもたちの心を育む授業を模索していこうと思っています。
没頭したり、熱中したり、癒されたり、心の承認のコップがひたひたと満たされていったりするような授業です。
大きなチャレンジもしようと思っています。
そんなことを何かの機会でお知らせできたらばと考えています。

またどこかで再会させていただく機会があることを信じて最後にしたいと思います。

1年間のご愛読、ありがとうございました。

平成24年4月5日

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