2012.03.01
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

郡山市立大島小学校 教諭 小野 浩司 「出会うこと、つながること、伝えること」

第二十八回は、福島県の郡山市立大島小学校 教諭 小野 浩司さんの執筆です。

昨年の3.11の2週間前、東北の教員志望の学生が主催するイベントに講師で招かれた。場所は奥松島。松島湾の内は軽微な被害で済んだらしいが、奥松島は松島湾の外側に位置する。
太平洋沿岸が驚くほどの津波の被害を受けた報道を耳にしたとき、あの施設はどうだったろうか。あそこで出会った学生さんたちは無事でいるのか気が気ではなかった。
3月の終わりには、連絡が取れ、みな本人は無事だったとの話を聞いた。
3月末に、県内最大の避難施設で、学習支援のボランティアをした。郡山出身の学生さんがボランティアを二つ返事で手伝ってくれた。
4月下旬に、どうしても、この目で太平洋沿岸を見たくて、相馬から奥松島まで足を運んだ。
夢、希望、愛、いとしさ、支え、歴史、今まで人が築き上げてきたものが一呑みで奪われてしまった光景を見た。言葉にならなかった。言葉が見つからなかった。
奥松島のあの施設に近づいた。しかし、あの通ったであろう道路はなかった。自衛隊の方が敷設してくれたのだろう応急の道路が、施設から遠く延びていて、施 設に近づくことはできなかった。コンクリートの建物は見てとれたものの、近くに合った松林や小さな建築物は無くなっていた。職員の方は無事だったろうか、 途中で道を聞いた商店の奥さんは無事だったろうか、たくさんのことが思い出されたが、遠くで静かに返す波の音だけが聞こえてきた。

あれから1年、2月25日(土)、山形県上山市かみのやま温泉で、ALL東北教育フェスタ2012が開催された。
本当は別な会、それも大切な会があったのだが、どうしてもこちらに参加しなくてはいけないとの思いが強く、無理を言って先方をキャンセルし、こちらに参加することにした。
会場となっている旅館に着くと、去年出会った懐かしい顏がいくつもあった。中には、去年は4年生スタッフとして参加し、高校教師となり今回は講師として参 加したNくんとも1年ぶりに再会することができた。スーツにネクタイを締めきりりとした出で立ちだったが、彼の魅力の変わらない屈託のない笑顔がそこに あった。

今回は、ICT教育とコミュニケーションについてというオファーだった。
今年もぎっちりのスケジュールで、与えられた演題を伝えるにはどうしても一方的な話になってしまった。反省点だ。
それでも、集まった学生さんたちは、メモを取りながら、真剣に聞き入ってくれていた。
内容は、学校ではどのように情報教育が進められているか、機器の使われ方、指導計画や教科学習との関連などを説明したのち、なぜぼくが情報教育を取り組む ようになったのか、小さいころ父と一緒にBASICのプログラミングをしたことから、大学生、就職してからと、そのときどきの出来事を紹介しながら、どん な経験をし、どのような気づきをし、選択をしてきたのか話をした。
はじめから小学校教師になろう、情報教育を推進しようと思っていたわけではない。とりわけすばらしい教師でもない。自分のやりたいこと、それも心から本当 にやってみたいと思えることだったから、続けてこれたのだし、これからも精力的に続けていけるのだと思う。
楽だとか、都合がいいとか、有望だからとか、誰からに言われたからとか、そういう目先のことで選択しても、長く続けていくのはとてもきつい。心から好きな こと、興味のあることは言われなくてもやれる。自分からどんどんやっていける。それは学びでも同じこと。そんな教育を、授業をつくっていきたい、そしてそ れは、学生時代のいまであっても、社会に出てからでも、「ひと」や「もの」や「こと」と出会っていくこと、つながっていくことの土台でもあることなのかも しれない…という話をさせいただいた。

どの学生さんたちも目の輝きが違っていた。どんどん吸収していこう、自分のものとしていきたい、より自分を高めていきたい と思う学生さんたちだった。 ぼくの話が少しでも参考になってくれたらと思う。少しだけ人生の先輩として、こんな生き方もあるよというのが伝わってくれたらと思う。

小学校や中学校だけでなく、東北の大学で学んでいる彼ら(彼女ら)もこの1年、今までは考えてこなかったであろうことを、たくさん気づかされ、考え させられてきたのだろう。少子化で採用試験が厳しくなっている昨今なのに、今回の震災や原発の問題で、さらに教職への道は厳しいものとなってきている。そ れにも負けずに、より高い理想の教師になろうとする彼らの真剣なまなざし、やさしい表情とともに、なにかたくましさも感じられた一日だった。

帰るとき、湿度が高かったからだろうか、学生さんたちの熱意を感じたからだろうか、降る雪がなにかあたたかく感じることができた、山形での一日だった。

平成24年2月26日

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop