2011.12.22
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郡山市立大島小学校 教諭 小野 浩司 「アートとサイエンスの交差点で」

第二十三回は、福島県の郡山市立大島小学校 教諭 小野 浩司さんの執筆です。

ぼくが参加している情報教育の研究会で、来春子どもたちを対象に科学的リテラシーを育んでいこうというワークショップの企画が持ち上がりました。 被災地の子どもたちに何かできないか、現在研究会で考えようとしている科学的リテラシーをどのように具体的に育んでいく方策があるのか、そんな思いから立ち上がったものです。

そして、先週末、そのミーティングがおこなわれました。
集まったのは、代表の先生をはじめとする大学の先生方、その先生に付く大学院生さん、福島県内の同じ志を持つ先生たち、8名でした。
1日目の土曜日は、福島市に集合し、それから浜通り(福島県の太平洋側の地方)の会場校の下見をしました。
会場に着くと、校長先生、教頭先生が厚く出迎えてくださりました。木の香り漂う、できたばかりの建物で、ようやく新校舎での学校生活も始まったばかり…のころにあの地震が来たのだそうです。
幸いにも、海岸から6キロほど離れており津波の被害がなかったこと、そして校舎の損壊もなかったのだそうです。しかし、3月11日の夜から、被災された方々の避難所となり、驚くほど多くの方を迎え入れたのだそうです。
中心となったのは、先生たち。年度末・年度初めの仕事もたくさんあったろうに、精いっぱいの対応をおこなった話を伺うことができました。時おり体調を崩しながらも、支援物資の受領、割り振り、大切なニーズの対応、そして新年度に向けての準備、様々なことを同時進行でおこなったのだそうです。全国からたくさんの支援物資が届き、被災された方がひしめく校舎には入れることが難しかったのだそうですが、使われなくなった旧校舎(地震の影響で損壊があったのだそうですが)を倉庫代わりに利用して事無きを得たのだそうです。
時おり体調を崩してしまうこともあったのだそうですが、始めての慣れない作業が続いても、声をかけあって、職員相互がフォローし合って乗り切ることができましたと話す校長先生の優しい笑顔がとても印象的でした。
校長先生との面談が終わると、利用させていただく教室や体育館を見せていただきました。途中、体育館の渡り廊下らから校庭を見ると、倉庫として使われた旧校舎が急ピッチで取り壊されていました。来年には広くてきれいな校庭となるのでしょう。

2日目は、代表の先生からこのワークショップを実施しようとしたかの経緯、目的、願いなどを伺い、実施の方策についてみなでディスカッションして進めました。さらに、ワークショップで作成するフライングペーパー(A4のコピー用紙を切ったり折ったりせずに――つけるのはOK――作る紙飛行機、造語)の試作もしました。
この研究会に参加するようになって10年ほどになるのでしょうか。年に数回しかお会いしない先生方であっても、会うと本当に昨日も会ったかのような錯覚に陥るほどの存在になってきました。お一人お一人がすばらしい実績があるだけでなく、人間的魅力のある方々ばかり。そして何よりこの会がすごいのは、大学教授などという肩書きにとらわれずに心から交流できることです。今回も忌憚のない意見を交換させながら、漠然としたイメージだったものが、一つ一つ具体的な計画となっていきました。本当にクリエイティブな時間でした。なにか、アイディアが目に見えるものであったのなら、パチパチと火花のようなものがそこここで飛び散っていたのではないかと思えるほどでした。
試作機をみなで作って、誰のが一番美しく遠くまで飛ぶかコンテストを最後にしました。前日はA先生の機が一番でしたが、2日目はぼくの機が10mほど飛んで1位になることができました。
周りの物理学や生物学、情報学などバリバリの理科の先生方を差し置いての優勝。表面では謙遜しましたが、内心はすっごく嬉しかったです。(^^)

ぼく自身は、プログラミングも表計算のマクロも組むことができません。できたらすばらしいと思うのですが、チャレンジはしても挫折ばかりでした。ICTのスキルといってもインターネットサービスやグラフィックツールの分野には少し明るいかな? というくらいで偏りがあるのも事実です。それでもこの会にいるのは、アートの立場から情報教育を見ていくことで、自分がやっていける部分もあるのではないか、そんな思いを漠然と抱き続けたからなのかもしれません。アートとサイエンスの交差点に立つことで、アートからサイエンスを見るだけでなく、サイエンスからアートをまた見直すこともできるのではないかとも思っていました。
今回もまた、言葉であったり、紙飛行機であったり、段取りであったり、作り上げたものの見える形は違いますが、アイディアを交差させること、相手のアイディアをどう自分の中に汲み上げていくか、自分のアイディアを相手にどう伝わりやすく伝えていくかといった、クリエイティブな活動の核心に迫るであろう様々なことを意識して体験することがとても高いレベルでできたこと、とても刺激的でした。また、すばらしい経験をすることができました。
そして、1ヶ月後のワークショップの本番が楽しみです。もう当日まで直接会ってのミーティングは持てませんが、インターネットを介して細かいところを詰めていく予定です。

このワークショップは、会として初めての企画です。
このワークショップを通して、子どもたちの真剣な表情、笑顔が見られればいいなと思います。
そして、子どもたちの心の中に科学的探求に興味をもつ種が蒔かれればいいなと思います。そして、たとえ形が変わったとしても、このワークショップが継続され、成長し進化していってくれればと思います。そしてそこにぼくも携わり続けられればいいなと思っています。

平成23年12月19日

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