2011.08.18
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郡山市立大島小学校 教諭 小野 浩司 「心のケアって…」

第九回は、福島県の郡山市立大島小学校 教諭 小野 浩司さんの執筆です。

心理学の勉強を詳しくしてきたわけではありません。
いくつかの研修、講演会には参加したことがある程度です。
心のケア、その重要性、必要性はだれもが認めるところです。

PTSD、トラウマ……、耳にした言葉だけど、実際のところ、具体的にはどのような意味かわからない……が正直なところでした。

ぼくたちの周りでも、「子どもたちを守れ…」という言葉がたくさん行き交っています。心のケアに関してだけではありません。放射線に関しても同様でした。
「大人はいいから、子どもたちを守ろう!」
とても聞こえはいいのですが、子どもたちだけでいいのでしょうか。私たち大人が10年後、20年後いなくなっても、子どもたちはしあわせなのでしょうか。
地域を上げて、放射性物質を高圧洗浄器などで洗い流す“除染”活動がおこなわれています。子どもたちのお父さん、お母さんたちが取り組んでいます。
子ども、赤ちゃんが危ないのであれば、将来赤ちゃんを望む大人も避けるべきと考えます。

PTSDは、疲れ、めまい、だるさ、不眠、食欲不振などから顕在化していくそうです。まじめな人であれば、心の問題とは考えず、自分の不摂生の問題、健康管理の至らなさ、心の弱さと受け止め、一層ストレスを抱え、深刻さを増していくそうです。
子どもも大切、だけど、私たち大人も、しっかりストレスがあることを自覚して、少しでも軽減できるように、穏やかな生活になるようにしていく必要があるのだと思います。

そんな中、 6月22日付けの読売新聞の「拒否される心のケア…被災者、質問に辟易」という記事に目を引かれました。
心のケアと掲げる色々なチームが避難所を訪れ、被災者に質問するので、被災者が辟易してしまっている……というものでした。
春休み中に訪れた避難場所の、たくさんのいろんなボランティアが入り乱れている様子を思い出しながら、避難所にいる人々に思いを馳せながら読みました。

だからと言って、何か見つけられたわけではありません。
毎日の授業、休み時間や放課後の子どもたちの会話、来校した保護者の方々との会話、心のケアとは何か、何ができるか、一つ一つ自問自答しながら、同時進行で1学期間を過ごしてきたように思えます。
振り返ってみればあっという間でしたが、恐ろしくたくさんのことがあった1学期間でもありました。

夏休みに入り、8月2日、3日の両日は郡山市中央公民館主催のキッズスクールのワークショップがありました。
中央公民館は震災により建物が損壊し全く使用できず、今年のキッズスクールは郊外の今は使われなくなった市の施設でおこなわれました。キッズスクールの講師は今年で3年目。今回は、子どもたちの心のケアを意識して、1日目はテープ状の間伐材、2日目はマッチの軸を使った工作教室をさせていただきました。

震災以降、多くの子どもたちが避難のため郡山を離れていきました。また、夏休み中は一時避難する子どもたちがたくさんいることが予想されました。一方で郡山に残り、屋外で野遊びを制限されている子どもたちもいます。屋外での行動を制限されているだけではありません。マスコミなどから情報、そして食べ物、多くのことから子どもたちは意識・無意識の別なくストレスを抱えているのだと思います。
これまでは、子どもたちの夏休みの課題の1つにもなっている交通安全ポスターを描く教室を開催していました。しかし今年度は、少しでも、子どもたちの心のケアを考えたワークショップをと考えました。自分なりの答えを模索できればと思っての実施でした。

アートは、お祭りのようなアドレナリンをたくさん必要とするアートもあれば、じっくりしっとりとおこなうセラピーなアートもあります。誰かに認められるためのアートもあれば、自分を見つけるアートもあります。さらにはただただ没頭するだけのアートもあります。
震災以降、各地で様々なワークショップがおこなわれました。しかし、そこではお祭りのようなワークショップや「ケア」と称して子どもたちの心を開かせようとするようなワークショップが数多く開催されていました。
そこには、主催者側のコンセプトや意義はあっても、参加する被災者の心を十分に考えられたものとはいえないものでした。
そこで、今回は、工作をしていくことにしました。理由は、絵(ポスター)とは違って自分だけで完成を決めることができ、具体物で繰り返し試行錯誤ができるからです。
さらに工作といっても、シンプルな材料を使う、身の回りにあるものを使って生活を便利に楽しくするようなものを作るのではなく、少し生活からかけ離れたものを扱う・作ることで、少し日常生活から離れたところで、じっくりと制作に向き合い没頭する時間を少しでも確保していきたいと考えました。

間伐材のリボンは、間伐材を薄いテープ状にしたもの。木とは思えない特徴も持ちながら、木の特徴も感じ取れるような素材です。簡単に扱えるだけでなく、ねじる、まげるなど、たくさんの工夫の余地があります。 マッチの軸は、単純な素材ながら、建築の構造を知ることにもつながっていく素材です。

それぞれのワークショップでは、簡単な自己紹介、説明のあと、すぐに活動が始まりました。テープ状になった間伐材、マッチの軸、それに接着剤を目にしただけで、触りはじめ、あれこれ試行錯誤を始めました。難しい説明などいりませんでした。子どもたちは、材料からたくさんのことを得、構想を練り始めていました。
必要に応じて、接着したところを固定する洗濯ばさみ、ビーズやリボンなどの装飾するための材料を使いながら、思い思いのものを作っていきました。
その姿も、でき上がった作品も、そして持ち帰るときの笑顔も、やれてよかった! 思いを強く持てるものとなりました。これまで考えてきたことの手応えは感じることができたように思えます。

2日間のワークショップを終えた帰り道、先に挙げた新聞記事の最後の一文がふと思い出されました。

「心のケアとは、(人の思いに)思いを重ねることから始まる……」

そんな、授業をまた2学期もおこなっていけるよう、ぼく自身もじっくり充電して2学期に取り組んでいければと考えています。

平成23年8月10日

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