2011.07.21
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郡山市立大島小学校 教諭 小野 浩司 「放射線測定と除去の日々」

第五回は、福島県の郡山市立大島小学校 教諭 小野 浩司さんの執筆です。

3月11日、金曜日、午後2時45分過ぎ…
帰りの会を始めたころ。
この日は、卒業式の会場作成をするため、早めに子どもたちを帰さなくてはいけない日。
でも、5時間目の算数で子どもたちは発展問題にもがんばり、時間をオーバーしての終了。意図せず遅めの帰りの会の開始となった。
しばらくして…
初めて聞く地鳴り。経験したことのない縦揺れ。
はじめは「大丈夫?」と思っていた自分も、すぐに子どもたちを机の下に隠れるように指示する。

「教頭先生、早く指示の放送を…」と思った矢先、これまで体験したことないとても大きな横揺れ。棚に入れてあったものが、ゆさゆさと棚から飛び出してくる。
怖さに泣き始める子どもたち。普段はやんちゃ坊主の子のとても不安げな表情。
本当に大丈夫か分からないものの、「学校は大きな地震が来ても大丈夫なように工事をしているから大丈夫」と精一杯子どもたちを安心させようと話をしている自分。
どれくらい大きな横揺れが続いたのだろう。

ようやく教頭先生からの指示の放送。
教室の後ろに整列させ、すぐに教室を出る。今までやっていたとおりの避難経路を走る。ときおり後ろを見て、子どもたちがちゃんとついてきているかを確かめる。

避難場所はいつもの校庭ではなく、南校庭。
整列をして、人数確認。全員いる! よかった!
学年主任が来るのを待って、人数の報告。
子どもたちを座らせ、待つ。
何を待つかわらないものの、待った。
余震が何度も大きく来る。
西の空から雪が風とともに吹いてきた。
体操着や普段着のままの子どもたち。みんなで小さくかたまって、寒さを防ごうとする。

保護者が不安げな表情で迎えに来る…。
子どもの顔を見て、保護者の顔を見て、互いに笑顔になる。一人、一人、ランドセルを持たず、上履きのまま帰っていく。
最後の子のお父さんが迎えにきたのは、午後7時を過ぎたころだった。
職員室のテレビでは、地震、そしてその直後に発生した津波の大きさを繰り返し流し続けていた…。

…これが、忘れられない3月11日の出来事でした。

3月23日予定の卒業式は延期となっていましたが、3月31日に使えなくなった体育館の代わりに廊下で証書授与をおこなうという形でおこなうことができました。また平成23年度の入学式は1週間遅れの4月11日に無事おこなわれました。春休み中避難をしていた子どもたちも地元に戻ってきて、また元気な声の聞こえる学校が戻ってきました。

はじめは市内の建物もそう被害はなく、一時的に断水、ガソリンや食料不足はあったものの、郡山は被災地と言われることに、少なからず抵抗感をもっていました。しかし、原発の爆発、それに伴う放射線の問題が、報道によって次第に明らかになるにつれ、大変大きな問題であり、福島県中通りの中ほどにある郡山市も被災地との意識を持つようになりました。

今年度は教務になり、学籍、共同研究、特設クラブ、児童活動講演会の担当をさせていただくことになりました。授業は4年生4クラスの図工と6年生2クラスの理科、それに教頭と一緒に放射線測定もしています。
4月中は、校舎内外の測定をおこない、どこがどのくらいの数値か、校長、教頭に報告し、どのような対応策を採っていけばいいのかの資料提供をしてきました。
はじめてのこと、目に見えない放射線のこと、何をどう考えていけばいいのか、暗中模索の取り組みでした。しかし、校庭、花壇、中庭などが高いことがわかり、5月のはじめには市独自の判断で校庭の表土除去がおこなわれました。表土を集めた山は、放射線測定器では測れないほど高い箇所もありました。
子どもたちへの被ばくを最小限にするため、登下校にはマスク、帽子、肌の出ない工夫をさせ、体育は1学期中は体育館のみ、休み時間も、オセロや将棋盤、お手玉などを用意し、室内で過ごせるように配慮しました。
高圧洗浄器を購入して、用務員さんが毎日昇降口を洗っています。PTAの奉仕活動では、いつもは除草や周囲の側溝の泥の掻き出しをするのですが、今年は校舎の窓ガラスや壁を水で洗い流す活動をしました。

春休みには、市内のコンベンションセンターに避難している町村の子どもたちに学習支援のボランティアをしました。それぞれの教育委員長さんに快諾を得ての取り組みでした。
かなりの悪環境でも、強制ではないにもかかわらず、毎日勉強しに来る何十人もの子どもたち。そのときは一生懸命、学習に没頭する姿がそこにはありました。
学校でも、いつもの通り過ごしているように見える子どもたちでも、様々な制限を受け、様々な(信じられない)情報を見聞きし、傍からは見えない心の奥底ではかなりのストレスを感じているのかもしれません。
これまで学級担任だったとき以上に多くの子どもたちの学びの様子を観察し、ペースを合わせ、伝わる言葉を選びながらの、子どもたちの学びを支えていくことを丁寧に進めていくことが求められているのではないかと思い、取り組んでいます。

いろいろなことのあった1学期でしたが、理科の実験や図工の制作に一生懸命取り組む子どもたち、やはり、かけがえのないものを感じました。そして、着実な成長をすぐ側で見て取れた喜びを感じています。

平成23年7月17日

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