2007.10.16
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新人危機管理コンサルタント奮闘記(vol.5) 災害時の応急救護・命を繋げるためにできること

大地震などの災害時、私達はどう行動すべきでしょうか? 今回は、防災キャンプを通して感じた「災害時の応急救護と救助」について、新人危機管理コンサルタントの須藤綾子がお話します。

応急救護訓練で話を聞いている子ども達

応急救護訓練で話を聞いている子ども達

猛暑も過ぎ、すっかり秋の風ですね。食欲の秋、運動の秋、読書の秋……、皆さんはどんな秋をお過ごしでしょうか?
 前回は、日常での応急救護~道に倒れている人がいた、救急車を呼ばなくては~というような、誰にでもできることについてお話ししました。

 しかし、どんなときでも、救急車が駆けつけられるとは限りませんし、どんな時でもすぐに応急手当ができるとも限りません。
 今回は、防災キャンプを通して感じた「災害時の応急救護と救助」についてお話しさせていただきます。

応急救護をするためにはまず救出

今年は、能登半島と新潟県中越地方で大きな地震が発生しました。道路が寸断され、建物が潰れてしまった映像や写真がニュースで流れていました。

 このような大地震の際、ケガ人が瓦礫にはさまれているような身動きのとれない状態であっては、応急手当をしようにも何もできません。
 まずは手当てをできる状態にすること、ケガ人を救出することが第一です。

災害時、救急車やレスキュー隊はすぐ来ない

しかし、街のあちらこちらが被災している状況で、救助隊が必ず来るとは限りません。クルマが道を通れず立ち往生している可能性もあるでしょう。救助する側の人数も限られており、被災している全ての地域で救助活動を行えるかというとそのようにはいきません。

 だからといって、いつ来るかもわからない救助を何もせずにただ待っているだけでは、助かるはずの人が命を落としてしまうかもしれません。

そこにいる人が協力して救出することが大切

そのような状況で重要になってくるのが「地域住民が協力をして救出する」ことです。
 今年7月に発生した新潟県中越沖地震の時、地域住民が協力して倒壊した建物の下敷きになっている人を助けるという救出劇があったという記事を目にしました。
 近所の人達が強力をして、瓦礫に埋まった人を救出し、その人の命が助かったのです。

 この記事を読んだとき、改めて災害時には身近にいる人達が救助隊になれるのだと思いました。と同時に、このような救出場面に遭遇したときに、救出する人も命を失わないようにすることが重要だと感じました。そのためにも、地域住民に向けた救助・救出訓練が必要なのではないかと思いました。

防災キャンプでのプログラム

前回も少しお話しましたが、私達が行っている防災キャンプでは、災害時を想定し、子ども達が救助隊になり、大人を救出しに行くというプログラムを実施しています。
応急救護訓練でケガ(すりきず)の手当てをしているところ

応急救護訓練でケガ(すりきず)の手当てをしているところ

――プログラムの一例――
〇応急救護訓練

ケガの手当ての方法を訓練します(傷口を洗う、ガーゼで押さえ、包帯を巻く。
これにより圧迫止血を行う。骨折をしていると想定される場合は、支えになるもの(副木)で折れている箇所を固定する。頭のケガ、腕の骨折の際に三角布で巻く)。

〇救助スキル
担架搬送の方法を訓練します。運ぶ人も運ばれる人も安全に運ぶための方法を訓練します。

〇総合演習
今まで習った技術を元に、災害時を想定し、建物内にいる被災者を 救助する訓練です。

防災キャンプを終えて感じたこと

毎年行っている防災キャンプですが、私にとっては今までとは違う視点で見ることになった今年。応急救護のインストラクター資格を取得してから参加した防災キャンプでした。そこで、今までただ目の前のことをこなしていただけの自分に気がつきました。

 いざ講師として子ども達の前に立ち、応急救護の訓練を行うことになった時、ただ教えるだけではダメだということ、日常でのケガの場合にできる手当てが本当に災害時にできるのかということを考えさせられました。

 例えば、傷口をきれいな水で洗い流すという手当ての方法があります。日常では水道をひねれば水は出てきます。しかし、災害時にはどうでしょう。いつも使える水道から水が出ないということも考えられます。そう考えると、一概に水で洗い流すと教えてしまっていいものなのか……。そうできない時にはどうしたらいいのか……。

 他にも、骨折をしたときの副木になりそうなものはどんなものがあるのか。太さや強度はどうなのか。本を読んでも、本当にそれでよいのか不安になりました。
 そして、自分の知識のなさ、勉強不足を痛感しました。

応急救護と救助は繋がるべきもの

さらに、応急救護と救助は、切り離すことができないことだということも感じました。ケガをしている人に対して、医療機関に引き渡す前に行う処置が応急救護であり、ケガをしているかもしれない、その場にいたら危険な場所から人を助けることが救助・救出なのです。この両者が繋がることが必要なのだと。

 それは日常でも同じこと。例えば、道路に倒れている人をそのままの状態にはしませんよね。それ以上他にケガをしないよう、安全な場所まで運ぶことが必要です。
 それと同じで、災害時も、手当てをするまえに、まずその場所が安全なのか、まず確かめてから救助・手当てをしなくてはなりません。

 足が折れて動けないとき、日常であればできるだけ動かさずに救急車を待つか、すぐに病院に運ぶことができます。しかし災害時はどうでしょう。悪化させないようにと考えても、命を落とさないために、まずは逃げなくてはならないこともあるでしょう。動かすことで症状は悪化するかもしれませんが、その場にとどまっていては、瓦礫が崩れ、身動きがとれなくなり、最悪の場合、命を落としてしまうかもしれません。

 命が助かることが一番か、症状を悪化させないことが一番か……。
 両方を同時にできれば、それが一番なことはいうまでもありません。しかし、時には何を優先させるのかを決めなければならないこともあるのです。

 症状を悪化させないことを考えるあまり、その人が命を落としてしまったら……。
 もちろん、救出に向かう人、応急手当を行う人がケガをしたり、命を落としてしまったりしては意味がありません。だからこそ、応急手当の訓練だけでなく、救助・救出の訓練も必要なのだと考えます。

 日常でも、災害時でも共通するのは「命を繋ぐために何ができるか」ということ。
 応急手当も、救助・救出もそのためには不可欠なのだと改めて感じた今年の防災キャンプでした。

文:須藤綾子

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