2008.11.11
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新人危機管理コンサルタント奮闘記(vol.10) 防犯教室講師を経験して(その2)子どもの力と大人の力

私が初めて講師を務めた小学校1年生の防犯教室では、色々なことを学ぶことができたと同時に、ある「怖さ」を感じました。その怖さとは何か? 新人危機管理コンサルタントの須藤綾子がお話しします。

子どもも本気で戦えば、大人に勝てる?

日が落ちるのがとても早くなってきました。今年も残すところあとわずか。あっという間に1年が終わろうとしています。振り返ってみると、この1年間は新たなことに取組み、経験を積むことができた1年だったと思います。
その1つが、前回お話した小学校での防犯教室です。ここでの経験は、本当に色々なことを学ぶことができました。と同時に、子ども達との関わりの中で、ある「危険」を感じました。今回は、そのことについてお話しようと思います。

 「大人と子ども、力が強いのはどちらでしょう?」
さぁ、強いのはどちらでしょうか……。言うまでもなく、大人の方が力は強いですよね。
では、この質問はどうでしょう?
「子どもが大人に捕まったら、子どもは逃げられますか?」
大人であれば「逃げられない」ということがわかりますよね。では、子ども達はどう思うのでしょうか……。

 防犯教室の中で、同じ質問を子ども達(小学校1年生)に投げかけました。するとどうでしょう。
「自分なら勝てる」と意気揚揚と宣言する子どもが出てくるのです。
「本気で戦えば、簡単に勝てる」
「急所を狙うんだ」
などなど。多い学校では、クラスの半分はそう思っているということがわかりました。

 講師が女性の私だからそう思ってしまうのかとも考えましたが、昨年弊社の浅利が行っていた際にも同じ現象が起きていたので、そうではないようです。
もちろん、全ての子ども達がそうであるというわけではありません。多くの子どもたちは、「子どもは大人には勝てない」と思っていました。

 そこで、子ども達に
「おうちの人とお相撲ごっこをしたらどっちが勝つかな?」
と質問してみたのですが、
「絶対俺が勝つ」
との反応。

 では、私から逃げられるかを試してみようと、力自慢の子どもと実験をしてみました。私は女性ですが大人、相手は小学校1年生。数年前に、学童で働いていたこともあるので、彼らの力の強さがどれくらいかはわかっています。けがをしないように、私が子どもの手を握り、その手を振りほどけるかという方法で、実際にやってみました。

 するとどうでしょう。はじめは逃げられると思っていた子ども達ですが、実際には逃げられません。私が抱えてしまうと、簡単に車まで運ぶことができました。他の子ども達も
「がんばれ! 逃げられる!」
と声援を送っていましたが、逃げられないことがわかると
「子どもは大人に勝てないんだ」
とそれぞれが言葉にしていました。

大人の力を知らない子ども達

私が今回の経験で最も怖いと思ったことは、体力で「大人に勝てる」と本気で思っている子どもが少なくないということです。
私が子どもの頃、本気で大人に勝てると思っている子どもは周りにいなかったように感じます。だからこそ、知らない大人についていってはいけない、捕まらないように、と常に思っていました。日々の遊びの中で両親とかけっこをしたり、腕相撲をしたりしながら、
「大人は力が強い。大人には勝てない」
ということを自ら経験していたためでしょう。

 「どんな人が不審者か」がわからないように、「どんな人の力が強いのか」なんてことは、見た目だけではわかりません。明らかに筋肉隆々のマッチョな男の人もいますが、見た目はあまり強そうには見えないけれど、実は元自衛隊員という経歴を持つ弊社代表の浅利のような人物もいます。女性だからといって力が弱いとも限りません。小学校低学年の子どもであれば、女性でも簡単に持ち上げることはできます。

 今回様々な学校で子ども達に防犯教室を行いましたが、本当に大人から簡単に逃げられると思い、大人の力を知らない子どもが、「逃げられない」ということに気づいた時のハッとした表情が今でも忘れられません。
大人の力を知らないと、いくら「知らない人についていかない」「一人で遊ばない」と話をしても、「いざとなったら逃げればいい。戦えばいい」と安易に考えてしまう可能性があるということがわかりました。
学校で先生とボール投げをして遊んだり、おうちでお父さん・お母さんとキャッチボールやお相撲をしたり腕相撲をして遊ぶことで、「大人の力は子どもより強い」ということを経験することが、とても大切なことなのです。

 大人の力を教えることができるのは、子ども達の身近にいる大人なのです。いくら口で説明をしても、実際に経験をしてみないと本当にそうなんだと感じることは難しいということがわかりました。
ぜひ、ご家庭での遊びの中で、子ども達と力比べをしてみて下さい。そして、大人の力に子どもが勝てないことを感じさせて下さい。子ども達が怖い思いをしないために、これからも小学校での防犯活動を続けていければと思います。

文:須藤綾子

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