2008.06.17
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新人危機管理コンサルタント奮闘記(vol.8) 中学生の危機管理活動、「守られる」から「守る」立場へ

日中に地震災害が発生した場合、多くの大人が都市圏へ働きに出ているため、地域に残されるのは女性、子ども、高齢者。その時、学校にいる小中学生が地域の力となります。今回は中学生の危機管理活動について、新人危機管理コンサルタントの須藤綾子がお話します。

2008年5月12日、中国・四川省で、大きな地震が発生しました。みなさんも、テレビや新聞などのニュースで大きな被害状況を目にされたと思います。
 地震発生が日中だったこともあり、学校も被災し、多くの子ども達が犠牲になりました。救援隊が被災者を救助する姿を見て、改めて命を救うことの難しさ、日頃の備えの重要性を感じ、考えさせられました。

 私達は、昨年度から都内のある中学校において、中学生の危機管理クラブ活動のお手伝いをしております。在校生の有志を募り、月2回、危機管理について学び、体験・活動をしています。初年度である昨年は、「防災」の視点から活動を始めました。

中学生にもできる!

今、各地において防災教育が進められています。内閣府では「防災チャレンジプラン」や「ぼうさい甲子園」を支援するなど、子ども達が防災教育に触れる機会を増やし防災について考えることが重要視されています。
 私達も、毎年夏に「防災キャンプ」を実施しており、毎年継続して行う学校も少なくありません。

 仮に、一般的な都市圏周辺やベッドタウンで、日中に地震災害が発生した場合を考えてみましょう。多くの大人が都市圏へ働きに出ていますから、地域に残されるのは、ほとんどが、女性と子ども達とお年寄りとなってしまいます。その場合、学校にいるであろう小学生・中学生の子ども達も、ただ守られる存在というだけではなく、訓練さえ積んでおけば立派に救援活動の手伝いができるということは、以前もお話しました。まずは、子ども達自身が「ただ、守られるのではなく守る立場になれる」ことを自覚することが必要となります。

 昨年度、ある中学校の活動においても、生徒達は様々な訓練を行ってきました。応急救護訓練や救助・救出訓練、無線機訓練など、チームで協力し、分担して救助を行う体験を通じて、災害時には自分達が地域の力となり、地域住民を救いに行くという思いを持つまでになりました。

 また、彼らがその思いを強くした背景には、地域の方々からの反応が少なからず関係しているようでした。それは、訓練の成果を発表する場として地域の防災訓練に参加し、訓練展示を行ったときのこと。そこで地域住民の方々から「中学生もやるもんだ」、「中学生は頼りになる」という言葉をもらったことが彼らに自信をつけ、積極的に人の役に立ちたいという彼らの気持ちを一層奮い立たせたのです。

地域との連携の必要性

この中学校の先生が以前「地域のために役立つ為には、まずは地域について知らなくてはならない」とおっしゃっていました。確かにその通りです。
 ■ 地域ではどのような体制で、そのような防災活動が行われているのか?
 ■ 地震のとき、水害のときに特にあぶない場所は、どこなのか?
 ■ どこに、どんな人達が住んでいるのか?
 ■ 備蓄倉庫はどこにあって、どのような物が入っているのか…
 など、ほかにも知っておかなければならないことがたくさんあるのです。

 いざ、中学生が地域の為に災害支援活動(救助や炊き出し補助など)をしようとする時、「どこに何があるかわからない」のでは活動ができませんし、どこにどんな人が住んでいるのかを知らなければ、救助にも行けないのです。
 そして、これらは「知識としてただ知ればいい」というわけではありません。地域住民の方々に直接教えてもらったり、共に訓練をするなど、「地域と子ども達のキャッチボール」を通じて、必要な情報を得ることで、いざというときに「生きた知識」となって実際の救援活動に貢献することができるのです。

 中学生が災害支援の訓練をするだけでなく、訓練展示を地域の方に見てもらうことは、この「地域と子ども達のキャッチボール」のきっかけとしても、重要な役割を果たしました。しかし、これも日常的、継続的な「キャッチボール」にしていくには、まだまだたくさんのハードルがあります。

 訓練等を通じて、子ども達が防災に関する知識や意識を高め、防災スキルを上げていくことはとても重要です。また、それを地域に発表する場を設けることにより、子ども達の意欲を高め、地域の方々の理解を深めることもできます。これからは、これらの活動が、単に教育活動の一環として行われるだけでなく、地域の防災活動計画の一部としても機能するように、相互の理解と連携を深めることが課題であると今回の活動で、あらためて学びました。

 具体的に、これから、どのような活動を共に行っていけばよいかを考えていきましょう。地域の防災訓練に子ども達が能動的に参加できるような取組を行ったり、備蓄倉庫の中身の点検を共に行う、地域の消防団の方に消火活動を教えてもらう、など色々な「キャッチボール」の方法があるでしょう。

 すでに防災教育を進めている地域では、子ども達が学んだ内容を地域の人に発表する機会をぜひ、設けてください。地域の方々や専門家(危機管理・防災士・看護師など)と連携した活動も取り入れてみましょう。
 そして、共に活動をし、顔が見えるつながりを生むことが、防災活動だけではなく、防犯活動やお祭りなど様々な地域の活動につながるものと信じています。

子ども達の意欲と地域との連携

中学生の防災教育についてもう一度整理してみましょう。
 まず、一番は、「子ども達自身が意欲的に活動に取り組むこと」です。
「やらされている」と思って動くのと、自らが考え意欲を持って動くのでは、違いますね。子ども達の意識や意欲を高めるのに、訓練の内容や成果を地域の方に見てもらい評価や感想をもらうということもとても役に立ちます。

 そして、「地域とのキャッチボール」。
 地域と連携をした防災教育を通して、今まで知らなかった地域の人と中学生が顔見知りになり、防災面だけではない繋がりが生まれます。日常の繋がりが、緊急時のスムーズな情報伝達や協力体制を生むことになります。地震に限らず、どんな災害対応も、「初動」がいかに重要かは言うまでもありません。そのためにも、日頃のコミュニケーションと情報共有は命にかかわる大切にして不可欠な要素なのです。

 知識と技術だけではなく、防災意識と意欲を高めること。地域と連携をした活動を通じてコミュニケーションを深めること。どちらも簡単ではありませんが、これらが今後の防災教育・防災活動のキーワードになるのではないかと感じています。

 中学生の危機管理クラブは、今年度も引き続き行っています。私も、子ども達の為にさらに積極的に活動をしていこうと決意を新たにしました。

文:須藤綾子

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