2007.07.31
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『レミーのおいしいレストラン』 目標へと突き進む意欲を持たせる映画

今回は、一匹のドブネズミが一流レストランのシェフになるまでを描く『レミーのおいしいレストラン』です。

夢に向かって熱くなるのはカッコ悪い?

「なんか一生懸命何かに打ち込むって、カッコ悪い気がしていたんですよね」
 つい最近、そんな言葉を某女優から聞いてしまった。なんでも彼女はスカウトされて芸能界に入るまで、さしたる目標もなく、何になりたいかもわからず日々を過ごしていたのだそうな。
「本当になりたいものがなかったの?」と聞くと、「はい」とにべもなく返事をする。そして続け様にこうも言った。
「でもなりたいものがないのって、フツーのことじゃないですか?」と。
「才能がないのに努力するのって無駄じゃないですか。そういう無駄をすることがカッコ悪いと思っていたんです。しかも自分にはどんな才能があるかわかってなかったし。だから何もしてこなかった、というかできなかったんですよね」

 その言葉を聞いて私はなんともいえない違和感を持った。才能がないことに努力することは無駄? しかも自分に何の才能があるかわからない?
 “好きこそものの上手なれ”なんて言葉があるように、人間は何か好きなものがあって、それを自然と突き詰めていくうちに自分にはこの道が向いているのかもしれない……なんてことを幼い頃から次第に感じとっていくものではないのだろうか。最初から無駄だからやらないと、自分で決め込みすぎては何もならないのではないのか?
そういえば最近の子どもたちに夢について聞いていくと「何かおかしい」と感じることが多い。例えば私の友人の子どもの話。小学生の男の子だが、彼の夢は「サッカー選手になること」だという。確かに土日は地元のサッカークラブに入って楽しそうにサッカーをしている。しかしなぜか彼は「サッカー選手になるのが夢」なはずなのに、テレビでサッカーの試合を見ることがない。いや正確にいえば、試合自体ほとんど見ることがないのだという。だからサッカー選手にどんなメンツがいるのかも彼はよくわかっていない。

 「まぁ小学生なんだし、まだ子どもなんだからよく自分のなりたいものがわかっていないだけでしょ」と笑う人もいるだろう。でも自分の子どもの頃を思い出してほしい。例えば野球選手になりたいと言っていた男の子たち。とにかく短い休み時間も校庭の隅っこでキャッチボールをしたり、毎日暗くなるまで近くの原っぱで野球に興じていたりしていたではないか。そして誰もがプロ野球をよく見ていて、ひいきの球団や野球選手の話をするのが普通のことだった。つまり野球好きの子は野球のことを1から10まで知っている、それが当たり前だったのだ。
 口では「サッカー選手になりたい」と言いながら、ほとんどサッカーのことを知らない子ども……? 私はどこか腑に落ちない。そして、某女優の夢がなかった子ども時代と何か共通している気がしてならない。

夢はかなえられる、ただし努力次第

これだけ情報が巷にあふれていれば子どもの頃から現実の厳しさは自然と見えてくる。嫌でも感じるはずである。その半面、今の子どもたちは世間から「人間は何にだってなれる」とか「夢は誰にだって叶えられる」とも言われて育っている。子どもの個性を尊重し、彼らから夢を摘み取ってはならないという風潮があるからだ。

 かくいう私も子どもの頃にそう言われたことはある。しかしその際「ただし努力次第」とつけ加えられていた。つまり努力をしなければ、何にもなれないのだと教え込まれたのである(もっとも、好きなことには無我夢中になってしまう性格のため、努力と思わず努力していたわけだが)。
 だが今の子どもたちはその“努力”の部分がわかっていないようだ。ただ「人間は何にでもなれるのだ」という希望だけを刷り込まれ、現実の厳しさを見ないようにして育てられている気がしてならない。
そこで今回オススメの映画『レミーのおいしいレストラン』の登場である。本作の主人公はレミーという名のネズミだ。しかもラット、いわゆるドブネズミ系。ハツカネズミとか、そういう可愛らしい類いのネズミではない。そんなレミーだが、他の仲間たちより遥かに優れた嗅覚と味覚という“才能”を持って生まれてきたために、普通に残飯をあさることができない。素材を自分なりにアレンジし、ちゃんと調理して楽しんで食べているのだ。その食べることへのあくなき追求が、自然と彼の料理の腕前をあげ、いつしか彼にシェフになりたいという夢をも与えていく。

 しかし、これはかなり難しい話だ。
 だって彼はネズミなのだから。一番キッチンにいてはならない存在であり、すべてのシェフの敵のような存在である。ネズミがシェフになるなんて、まさに果てしない夢なのだ。

 ところがそこに奇跡が起きる。たまたま家族とはぐれてしまったレミーは、彼が最も敬愛する今は亡き天才シェフ・グストーのレストランの厨房に辿り着く。そこで彼は料理の腕がからっきしダメな見習いシェフのリングイニと出会う。リングイニが作った不味いスープをレミーが味を整え直したことから、そしてレミーが人間の言葉を理解しているとわかったことから、1人と1匹は一緒に組んで料理を作ることを思いつくのだ。
 そして、レミーはリングイニの髪の毛を引っ張ることで、彼の動きを操れると知り、リングイニの帽子の中に入って彼を操作し、おいしい料理を次から次へと作り出していく。その様子は、まるで巨大ロボットの操縦席に乗りこんだ戦闘員のよう! こうしてレミーは才能を活かせるボディを、そしてリングイニは得られなかった才能を手にすることができたのである。

辛い現実を耐え抜いてこそ輝く才能

だがこれも互いに最初から「所詮、ネズミにはシェフなんて無理なんだ」と決めつけていたらできなかったことだ。つまりこの映画の一番のテーマは、本当に自分が好きだと思えることに出会ったら、偏見や環境などに負けずにトライすることが大事だということ。さらに言えば、確かに人間は何にでもなれるけれど、その夢を夢で終わらせずに現実に成功させていくには、ハンパではない努力と、どんな障害も乗り越えようとする本人の強い意志力とパワーが必要だということなのだ。そう、まさに今の子どもたちに欠けていることがこの映画ではキチンと描かれている。

 考えても見てほしい。世界レベルで成功した人達がどれだけ小さい頃から努力しているかを。スポーツ選手のタイガー・ウッズなど幼児の頃からクラブを振っていたというではないか。それから成長して大人になるまで何十万回、何百万回、クラブを振ってきたことか。どれほどの練習を積んできたことか。そういう覚悟と忍耐がなければ、人間は何かを成し遂げるなんてまずは無理な話なのだ。辛い現実が見えたからといって、そこで諦めたら終わり。呑気に夢だけ語っていたって、現実には何も起こらない。棚からボタ持ちのようにはいかないのである。

 この『レミーのおいしいレストラン』を監督したブラッド・バードも、そんな努力を諦めなかった人だ。57年生まれのバード監督はごく幼い頃から画才に恵まれ、14歳でウォルト・ディズニー・プロダクションに見込まれ、アニメ界の神童と賛えられた人物だった。しかしどんなに才能があっても、うまくいくとは限らないのが現実。同期や後輩などが次々と劇場用アニメで監督デビューしていく中、彼はひたすら耐えているしかなかった。実は先日、バード監督にインタビューする機会があり、その話を振ったところ、「そりゃ、あの頃はフラストレーションがたまっていたよ」と苦笑いをしながら当時のことを語ってくれた。
「でもだからと言って妥協はしたくなかったんだ。僕は絶対にひとりでアニメの監督をしたかったし(アメリカではアニメの場合、2人で監督をするのが一般的)、絶対に質の良い作品を作りたいという信念を持っていたからね。それまでは諦めたくなかった」(バード監督)。

 かくして99年『アイアン・ジャイアント』でバード監督はようやく劇場用アニメ監督としてデビューできたのだ。しかもそこまで待っただけあって、その作品は本当に素晴らしく、アニメ界のアカデミー賞と言われるアニー賞で9部門を独占した。そして続く『Mr.インクレディブル』(04年)では、今度はアカデミー賞のアニメ部門でオスカーを獲得してみせたのだ。
 現実に傷つきながらも諦めず努力し続けることを、身を持って体験したバード監督。そんな体験に裏打ちされた物語だからこそ、この『レミーのおいしいレストラン』には非常に説得力がある。是非、このアニメを観て、努力の大切さを子どもたちに伝えてほしいものである。

 そうそう、例の学生時代は何かに熱くなることをカッコ悪いと感じていたという某女優さんは、今は演じることの魅力に取り憑かれている。そして、なぜ今までダンスや日舞などの勉強をしてこなかったのか、今頃になってとても後悔し、日々女優としてのセンスを高めるための努力を必死に積んでいるらしい。
 何事も始めるのに遅過ぎるということはない。夢中になれるものが出てきたら、その時からでいいから、真剣に熱く突き詰めてもらいたいものである。 

Movie Data
監督:ブラッド・バード/声の出演:パットン・オズワルド、ルー・ロ マノ、ジャニーン・ガラファロー、イアン・ホルム、ブライアン・デネヒー、ピーター・オトゥール
(c) Disney/Pixar. All rights reserved.

構成・文:横森文

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

子どもに見せたいオススメ映画
『河童のクゥと夏休み』 少年と河童の出会いを描くこの夏イチオシの感動作
どこにでもいるような平凡な小学生・上原康一が、ひょんなことから300年間、石に閉じこめられていたという河童の子どもを救い出し、強い絆を結んでいくというストーリー。  この手の作品は『E.T.』に代表されるように、人間ではない異形の者がどれだけ魅力的に描かれるかがポイント。本作では、後に「クゥ」と名づけられるこの河童の子どもを驚くほど魅力的に描いている。まるで子犬のようにつぶらな瞳で康一を見上げるしぐさや、水の中を気持ちよさげに泳ぐ様子、大粒の涙を流す表情など……もうどこをとっても可愛らしい。誰もがこんな河童の子と同居したいという気持ちに自然となるはずだ。
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本作の優れた点は、そんな2人の友情や家族愛の美しさなど、普遍的なテーマがたくさん語られていながら、どれもこれも押しつけがましさがなく、それでいてキッチリ心に残るように演出されている点。さすがは『クレヨンしんちゃん 嵐を呼ぶ モーレツ! オトナ帝国の逆襲』で、“クレヨンしんちゃん”という強烈おバカギャグ・アニメをモチーフとしながらも、大きな感動を導き出した原恵一監督らしい出来。いやもう~、是非この映画を観て親子で一緒に泣き、様々なことを語りあってほしいものだ。
監督:原恵一
声の出演:田中直樹、西田尚美、なぎら健壱、ゴリほか
(c) 2007 木暮正夫/「河童のクゥと夏休み」製作委員会

構成・文:横森文 ※写真・文の無断使用を禁じます。

横森 文(よこもり あや)

映画ライター&役者

中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。

2022年4月より、目黒学園で戯曲教室を展開。

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