2015.10.13
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『バクマン。』 やりたいことを見つけ、情熱を傾ける楽しさを描く

今回は、一生の中で心血を注ぎ、情熱を傾ける何かを見つけたくなる『バクマン。』です。

目指すは、一流漫画誌での連載、そこでのトップ!

夢に向かって突き進む。実はこれはたやすいことではない。「好きなことをやっているのだから、何がそんなに苦労だというのか?」……そういう人もいるだろう。しかし、好きなことに情熱をずっと傾けられるというのは、その思いをずっとキープできるということ。作家ならば文豪、映画監督ならば名手や巨匠、鬼才などと呼ばれる人達の次元に達することである。
本作『バクマン。』は、累計1500万部を超える大ヒットとなった『週刊少年ジャンプ』(集英社)の同名漫画を原作とする映画。ここに出てくる登場人物達も、漫画家になりたいという夢を持ち、懸命に頑張っている。タイトルの「バクマン」の意味は明らかになっていないが、恐らく爆発的ヒットの漫画を目指すというような思いが込められているのだろう。主人公の高校生の真城最高(ましろもりたか)。彼は学校では特にどこかの部活に入るわけでもなく、何かに情熱を燃やすこともなく、帰宅部として高校生活を送ってきた生徒。ただ自分の叔父が漫画家だったこともあり、小さい頃から漫画を描くのは好きだった。しかしストーリーが作れず、いつも好きな女の子、同級生の亜豆美保をノートなどにイラストとして描き留めていただけ。
もう一人の主人公・高木秋人も帰宅部。彼の場合はストーリーを色々考えられるのだが、残念ながら画が描けない。そこで高木は同じクラスメートの真城がハンパなく画がうまいことを知り、彼に「一緒に漫画家にならないか」と誘いをかける。

最初はそこまで漫画家という職業に乗り気でなかった真城。しかし思いを寄せていた亜豆が実は声優志望であることを聞き、自分達が作った漫画がいつか売れてアニメ化までされたら、そのアニメの声優を務めてほしいということ。さらに自分の彼女になってほしいと告げる。実は真城のことを好きだった亜豆はそれを承諾。真城と高木は最高の漫画家、つまり最も売れている少年漫画誌である週刊少年ジャンプ(本作では多くの漫画関係の固有名詞が実名で使用されているが、基本的にフィクション)で連載、そこでのトップを目指して歩み続けることとなる。

真城の漫画家になりたいという動機は、そんな好きな女の子と付き合いたいという、ある意味不純なものだったが、漫画家を目指すようになってからはそこに様々な想いが加わり、どんどん漫画を描くことに夢中になっていく。高木との息も合い、漫画作りがどんどん楽しくなっていく。そして初めて高木と共に1本の漫画を作り上げ、勇んで週刊少年ジャンプに持ち込みに行くと、多少の褒め言葉はあったものの、まずはガッツリと批判の嵐に遭う。現実はそんなに甘くない。誰だって頭をひねりまくって良い作品を作ろうとするし、当然その作品には多少なりとも自信を持っているものだが、初めから完璧な作品を作り出すのは相当に困難だ。二人もかなり編集者から厳しいアドバイスを受けることになる。
中学生~大学生の中には、若いがゆえのプライドの高さからか、こういう批判を受けただけで、もうやりたいことへの情熱を失ってしまう人がいる。創作するということは必ず誰かの批評を受けることになり、それですぐに挫折してしまうようでは話にならない。実際、私もそういう人達に何人も出会っている。
その一方で、負けず嫌いな性質から、批判に対して「じゃ、これならどうだ!?」と新しい作品をすぐに作ってくる意欲的な人もいる。つまり好きなことへの情熱が揺るがない人達。こういう人はすぐには思い通りにいかなかったとしても、いつしか自然と伸びていく。結局は何か起きたときにやるかやらないか。情熱を持てるか持てないかで、目指す道は大きく変わっていくのである。

真城&高木コンビは、そう簡単には情熱を失わなかった。編集者から言われたことをしっかりと反映して描き直してみる。自分達なりに週刊少年ジャンブに掲載される漫画を分析し、ジャンプの読者にウケる絵柄に変えていったりもする。かくして遂に真城&高木コンビは、高校生でありながら週刊少年ジャンブでプロ漫画家としてデビューすることになるのだ。

心血を注げるものがあるとは、なんと素晴らしい

普通の映画ならばこのデビューまでを丹念に描き、終わってしまってもおかしくない。しかし本作では、デビューした後の作家の苦悩にも肉迫していく。そこがまた面白い。

多くの漫画誌が注意を払っているのがアンケートの結果。特に週刊少年ジャンブはアンケート結果を重視しており、これが悪ければ打ち切りになってしまうこともある。実際、この映画の中でも読者に支持されず、ついには漫画家の夢すら諦めてしまう人も出てくる。

また漫画家になったらなったで、毎週やってくる締め切りと戦わなくてはならない。ましてや高校生であるということは、学校生活を送りつつ、その合間を縫って原稿を描かねばならないということ。当然のことながら睡眠不足に襲われ、段々と疲れもたまってくる。真城と高木も疲れの余り、友情関係がギスギスし始める。常にクオリティの高いものを作り続けていくのは本当に大変なことである。いつしか肉体的・精神的疲れと慣れ、様々なことが原因となり、情熱的に作品を作るのではなく、ただ仕事をこなすようになっていく。そうなったら、作品はどんどん死んでいくのである。
映画の中で真城&高木コンビと対照的な人物として現れるのが、子どもの頃からひたすら漫画ばかりを描き続けてきた新世代の天才漫画家・新妻エイジだ。同じ高校生でありながら、新妻はなんの迷いもなく、ひたすら漫画を描くことにのみ心血を注げるタイプ。情熱がありすぎて、普通の友情や高校生活は求めず、いい漫画を描き続ける相手にしか興味のない男。「天才」と評されて鳴り物入りでデビューした新妻に、真城&高木はアンケートで勝つことを念願に立ち向かう。しかしそれでは勝てないのだ。理由は簡単。敵に勝つことばかりに情熱を傾けているから。真のライバルは己自身、つまり自分が描きたい漫画の質を上げていくことしかないからだ。
新妻を見ていると凡人の私なんぞは「漫画を描くこと以外、他に楽しみはないのだろうか」とつい思ってしまうのだが、全てを賭ける、心血を注ぐとはこういうことだと言わんばかりに、漫画に夢中になれる彼は真に「天才」なのだろう。

この映画を見ていると、夢中になるものがある人達が素敵に感じられると同時に、そこまで心血を注げるものが自分にはあるのかと考えさせられる。そして本当に好きなものを極めていくことが人生にとって何よりも大切なのではないかと思えてくる。分野は別に何でもいいのだ。お菓子作りが好きならそれに励んだって構わない。その結果、世界屈指のパティシエになれるかもしれない。スポーツを観戦するのが好きならそこにのめり込んだっていい。そうすればスポーツライターになって、世界のトップアスリートのプレイをリポートできるかもしれない。逆に、情熱を注げるものがないとは、なんとつまらない人生であろう。やりたい事が見つからないほど、寂しいことはないだろうと、本作を見ながら考えさせられた。
もちろん好きなことに心血を注いだとしても必ず報われるわけではないのも現実だ。この映画でもそういった現実的な痛みはしっかりと描かれている。でも、もし挫折したとしても、本当に心底向き合ったものがある人にはまた新たな道、新たな可能性が訪れることも事実だと、本作を見ると確信できるのである。
ちなみに、この映画の制作自体にも様々な情熱を感じさせるエピソードがある。真城役の佐藤健は、漫画家らしい線を描けるようになるために、撮影の合間もひたすら漫画を描く練習をしていたという。また監督の大根仁は、真城&高木と新妻のアンケート首位争いを大胆な方法で映像化している。それは、ペンをあたかも槍のように持って戦い合う殺陣を作り、血湧き肉踊るような場面に仕上げているのだ。他にもプロジェクション・マッピングを使うなど今までにない様々な手法を取り入れ、漫画を描くという一見地味な行為を、「創造」の楽しさにあふれた名シーンに仕立て上げている。大根監督のこの斬新な発想、情熱を込めた演出が間違いなくこの映画のクオリティを押し上げているというわけ。劇中で描かれているテーマをスタッフとキャストが一丸となって証明しているのだ。

中学~大学生まではもちろんのこと、大人にも人生における夢=目標を持つこと、何か夢中になれることの楽しさを本作は教えてくれるはず。人生を豊かにする方法を教えてくれる作品と言えるだろう。
Movie Data
脚本・監督:大根仁/原作:大場つぐみ、小畑健/出演:佐藤健、神木隆之介、染谷将太、小松菜奈、桐谷健太、新井浩文、皆川猿時、宮藤官九郎、山田孝之、リリー・フランキーほか
(c)2015映画『バクマン。』製作委員会
Story
「俺たち二人で漫画家になって、ジャンブで一番を目指そうぜ」と二人の高校生が抱いたジャンプ漫画への壮大な夢。高い絵の才能を持つ真城と巧みな物語を綴れる高木。二人はコンピを組んで週刊少年ジャンブの頂点を目指す。やがて編集者・服部に見出される二人。しかし、新進気鋭のライバルが頂点への道を阻む……。

文:横森文

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

子どもに見せたいオススメ映画

愛の本質が描かれる、高校生の純愛物語

この作品はいわゆる高校生同士の恋を綴ったものだ。身体のバカでかさと高校生とは思えぬオッサン顔の剛田猛男。そんな彼の親友である「スナ」こと砂川誠は、女子なら心に響かぬ者はないほどのイケメン。中学時代から、猛男が好きになった女の子は、必ずスナが好きだったというのが当たり前の状況だった。
そんなある日、猛男は不良に絡まれていた大和凛子という女子高校生を助ける。今までとは違い、猛男に直接お礼を言いにくる大和。実は、大和は猛男にひと目惚れをしてしまったのだ。それは猛男も一緒。しかし、猛男はいつものパターン通り、大和がスナと付き合いたいのだろうと勘違いし、何とか二人の仲を取り持とうと悪戦苦闘することに……。
通常、この手の恋愛モノは、恋のライバルや二人の間を阻む者が現れて引っかき回し、観客をジリジリさせて話に引きつける展開が多い。しかし、本作では悪人はゼロ。嫉妬心や身勝手さが生むトラブルもない。ベースは少女漫画だが、最近流行の「壁ドン」や「顎グイ」に焦点が当たることもない。

そういった枝葉を一切排した純愛物語が本作だ。互いが互いを思いやる余りに起こる恋愛のスレ違いが笑いと共に描かれていく。そこに浮き彫りになるのは、何よりも相手のことを思うことの美しさであり、相手を大切にする愛の本質。その純粋さを観ているうちについ感情移入し、泣けてしまう。イマドキの恋愛モノとは明らかに一線を画している。その分、愛のリアリティを感じるし、どの世代が見てもハートにグッとくること間違いなし。特に中学~高校の多感な世代に見てほしい。笑わせられながらも本当の愛について考えてみては。とても素敵な青春佳作だ。
監督:河合勇人/原作:河原和音、アルコ(作画)/出演:鈴木亮平、永野芽郁、坂口健太郎、鈴木砂羽、寺脇康文ほか
(c)アルコ・河原和音/集英社 (c)2015映画「俺物語!!」製作委員会

文:横森文 ※写真・文の無断使用を禁じます。

横森 文(よこもり あや)

映画ライター&役者

中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。

2022年4月より、目黒学園で戯曲教室を展開。

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