2014.12.09
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『バンクーバーの朝日』、『ベイマックス』 ≪お正月映画スペシャル≫

今回はお正月映画スペシャルとして2作品、『バンクーバーの朝日』と『ベイマックス』をじっくりご紹介します。

日系カナダ移民の一条の光となった野球チームを描く 『バンクーバーの朝日』

戦前のカナダに実在した日本人野球チーム

明治維新以降、日本では年々、アメリカへの移住者が増えていった。1908年(明治41年)にはその数は最盛期を迎えたという。その背景にはアメリカの圧倒的な労働者不足という状況と、海外でひと旗上げて日本に戻ってこようとする人々が多かったことがある。しかし現実には渡米した日本人は安い賃金でこき使われ、決して楽な状況ではなかった。そういった話を筆者は書物等で読んだことがあり、20代のときにはハワイに移住した日系人一世の高齢の女性から聞いたこともあり、よく知っていた。

頭脳プレイで大柄な白人チームに立ち向かう日本人チーム

しかしカナダにもそういった日本人移住者が、実はたくさんいたというのは、この映画を見て初めて知った。そして、彼ら日系カナダ移民の二世を中心とした野球チーム(地元のアマチュアリーグに参加し、西海岸リーグのチャンピオンにまでなった)があったことも、筆者は本作を見て初めて知った。

当時の日本人は勤勉であるがゆえに雇い主からは重宝されたが、同時に同じような労働者階級のカナダ人からは自分たちの仕事を奪う憎むべき敵として認識されていた。このようなことから、日系人への差別や排斥という問題が起きていったのだった。このため、日本人達は自分達だけの日本人街を作り、そこで肩を寄せ合うようにしてどうにか暮らしていた。『バンクーバーの朝日』には、日系移民の第一世代と、カナダで生まれ育った第二世代の姿が描かれる。あくまでも「故郷は日本、カナダはかりそめの地」と考える第一世代と、カナダで生まれて日本を知らず、何とかこの地で生きていこうという思いが強い第二世代。物語はそんな第一世代と第二世代の考え方の差が生む葛藤=父子の問題、貧困の中で懸命に未来を夢見て頑張ろうとする第二世代を阻む差別等の問題をはらみつつ、野球にすべてを賭ける男達の姿が描かれていく。
もちろん日本人チーム「バンクーバー朝日」が戦う相手は、カナダの白人チーム。パワープレイで押し切る彼らに、体格も小さく非力な日本人が勝てるわけがなく、いつも大敗を繰り返していた。

そんな中、日本人は気づくのだ。同じように野球をやっていたって勝つわけがないという現実に。そこで繰り出すのがバントや盗塁、ヒットエンドラン、スクイズといった手法。つまり体力で勝てないなら戦術を使って勝てというわけで、この方法で「バンクーバー朝日」は次第に白人チームを打ち負かすようになっていく。
明らかに体力&体格では負けているチームが、大柄でパワフルな白人チームに立ち向かい、頭脳を活かした戦術で打ち負かしていく。その姿に多くの観客が小気味良さを感じていくようになり、そしてそれは白人たちに虐げられていた日本人達の「いつか白人達をギャフンと言わせてやりたい」という想いに直結。さらに「バンクーバー朝日」そのものが、いつしか日本人達の希望の灯にまでなっていくのだ。いや日本人だけではない。「バンクーバー朝日」の頭脳プレイは、一部のカナダ人達(日本人への差別意識が強くないカナダ人)をも魅了。その人気を高めていく。

この映画を見てしみじみ感じるのは、差別といったくだらない意識さえ持たなければ、人間は違う文化を持とうと、人種が違おうと、一つになれるのではないか。壁を作っているのは、人間自身のくだらない自意識などが原因ではないだろうか。
妻夫木聡演じる主人公・レジー笠原は、自分の父親・佐藤浩市演じる笠原清二との折り合いが悪い。その原因の一つは清二の姿勢にある。稼いだ金を「自分はカナダで成功している」と故郷の人々に思わせたいばかりに、すべて日本にいる親戚に送金してしまう清二。しかも自分は出稼ぎ労働者だという固定観念を持ち、カナダ人には心を閉ざし、自ら仲良くなろうとも思わなければ、英語を覚えようともしない。そんな清二の姿勢にレジーは苛立つ。「なぜもっと前向きにカナダという地で生きていく意識をしないのか」と。つまり清二ら第一世代が日本人だけで固まらず、カナダ人社会に溶け込もうとすれば、状況が変化した可能性もあったのだ。だが彼らはそれをしなかった。

白人社会と日系人社会との壁に風穴を開けた“朝日”

そんな中、第二世代のメンバーで構成されている「バンクーバー朝日」は、結果的には野球でカナダ人社会と日系人社会との間に風穴を開けた。それが差別や排斥問題の解消にどこまで繋がったかはわからないが、間違いなく「バンクーバー朝日」の活躍が「日本人もやるもんだ」というカナダ人の意識改革を広めることになったのは間違いない。そういう一歩をまずは踏み出すことが大切だということが伝わってくる。

同時に本作ではその後に起こる太平洋戦争が、日系カナダ人達の人生に大きな影響を与えていくこともしっかりと示唆している。つまり、どんなに懸命に積み上げていった日常も、戦争というものに一瞬にして破壊されてしまうことを。これが戦争の恐ろしさである。本作は戦争の恐怖をも声高ではないが、しっかりと描き上げている。戦争批判を描いた点も見所ポイントである。
ちなみに実際の「バンクーバー朝日」が活躍したのは、1914年から日米開戦となる1941年まで。地元のアマチュアリーグに参加し、次第に独特の頭脳プレイでカナダ人野球チームを打ち負かすようになった彼らは、最終的には西海岸リーグのチャンピオンにまで上り詰めた。しかし開戦で「敵性外国人」となった彼らは、住んでいた日本人街からも強制移住させられ、チーム解散を余儀なくされてしまう。そしてその後、二度と「バンクーバー朝日」として試合に臨むことはなかったそう。
そんな彼らに改めて焦点が当たったのは、2002年5月15日。カナダのトロントで地元のブルージェイズがシアトル・マリナーズを迎え撃つ一戦での始球式に、まだ存命中の「バンクーバー朝日」のメンバー5名がマウンドに立ったのだ。そして2003年には、カナダの移民社会や野球文化への功績が認められて、カナダ野球殿堂入りを果たしたのだ。

ただ野球をしていただけのこと。もしかしたら本物の「朝日」の選手達はそう言うかもしれない。しかし間違いなく、彼らの存在は日本人移民達と彼らを取り巻く社会の意識を変えたのだ。この映画を見た人の心にも、きっと様々な想いが残るはずだ。
Movie Data
監督:石井裕也/出演:妻夫木聡、亀梨和也、勝地涼、上地雄輔、池松壮亮、高畑充希、佐藤浩市ほか
(C)2014「バンクーバーの朝日」製作委員会

文:横森文

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

子どもに見せたいオススメ映画
傷ついた少年の再生と自立、彼を助ける人達を描く 『ベイマックス』

大切な人を次々に失った少年、心の傷を癒すのは…

誰もが必ずいつか大切な人と別れねばならない。両親、兄弟、そして連れ添ってきた相手……。こればっかりは生まれてきた以上は絶対に避けられない、どうしようもない現実である。

問題はそういった大切な人を失った後にどうするか。『ベイマックス』は、その部分をしっかりと訴えてくる素敵な作品だ。
舞台は「サンフランソウキョウ」という、まるでサンフランシスコと東京を合わせたような架空の都市。主人公のヒロは3歳の時に両親を失い、兄のタダシと共に叔母のキャスに引き取られて育ってきた。天才的に頭が良く、様々なロボットを作り出すヒロだが、その眼はあまりいい方向には向いてない。14歳になったヒロは自作のロボットでアンダーグラウンドのロボット・ファイト(闘犬のようにロボット同士を戦わせて金をかける)で荒稼ぎをするなど、その才能を無駄使いしている。

これは筆者の推測だが、ヒロは両親との死別により、人生とは思い通りにはいかず決して甘くはないことを幼いうちに知ってしまい、どこか未来とまともに向き合えないでいるのだろう。さらに天才的能力を持ち、発明をすることに秀でた彼は、学校の勉強は簡単すぎて飽きてしまい、クラスメイトに話の合うタイプもいない、という日々を送っている。このため学校生活に身が入らず、自分の将来をしっかり見据えることができないのだと思う。

タダシはそんな弟のことを心配し、自分が身を置く工科大学へと彼を連れていく。そこではたくさんのタダシの友人達が様々な発明に勤しんでいた。タダシ自身も「ベイマックス」と名付けたケア・ロボットの開発をしていることを知るヒロ。さらにここでロボット工学の第一人者・キャラハン教授とも出会い、ヒロは大学の魅力、未来の展望というものに気づかされていく。そしてキャラハン教授を唸らせるような発明を見せたら、飛び級で大学に進学できることを知ったヒロは、タダシやその友人達の助けを借りて、指ほどの大きさのマイクロ・ロボットを開発していく。しかもそのマイクロ・ロボットを大量に製作。神経トランスミッターを通して大量のマイクロ・ロボットを自分の想像通りに動かせるという、無限の可能性を秘めた発明品を完成させ、大学の研究発表会に提出したのだ。かくしてキャラハン教授のお墨付きをもらったヒロは、大学への切符を手にするが、その喜びもつかの間、発表会で火事が発生しキャラハン教授と大切なタダシを失うことになってしまう。
最初に「誰もがいつか大切な人を失う」と書いたが、両親の次に兄・タダシまでもを奪われたヒロは、どんな気持ちであったろうか。簡単には想像のつくものではない。結局飛び級した大学にも行かず、家にこもるヒロ。マイクロ・ロボット製作を手伝ってくれたタダシの友人達が、心配して動画付きメールを送信してきたがそれもマル無視状態で、すべてをシャットダウンしてしまう。

ところがそんなヒロの前に思いもかけない相手が現れる。それは、タダシが研究していたケア・ロボットのベイマックスだ。ヒロのかすり傷程度の怪我に反応して作動した彼は、ホルモン等の様々なヒロの身体の反応を見て、ヒロが過度なストレス状態にあると判断。ヒロの心の傷をケアしようと動き出したのである。そしていつしかベイマックスは、失われたタダシの代わりにヒロの大切な心の支えになっていく。

ケアを受け入れ、立ち直れるかどうかは自分次第

そして、火事で焼失したはずのマイクロ・ロボット達がなぜかまだ残っていることに気づいたヒロは、ベイマックスを連れてあの火災の際に何が起きていたのか、その真相解明へと乗り出していくのだ。そしてここからは予想もつかない展開が生じていく。
もちろんどんなことが起きるかはネタバレになってしまうので書けないが、ただ一つ言えるのは、本稿の冒頭で述べたように、愛する者を失ったとき、どのような行動を取るかで、人生は大きく変わるということ。

いや愛する人を奪われたときだけではない。例えば何かに深く傷ついたとき、あなたは今までどんな行動を取ってきただろうか。入学試験に失敗した、就職活動に失敗した、友人に裏切られた、恋人にふられた……。愛する人と死別する以外にも、心をえぐり取られるような出来事はたくさんある。でもそこで取る行動が後々の人生に大きな影響を与えていく。
もしこれ以上傷つきたくないという思いで引きこもる選択をしてしまったら!? 確かに引きこもっていれば、その間は確実に傷つくことはないかもしれない。しかし、いつしか親は亡くなり、引きこもってはいられなくなる。引きこもりをやめたときにまだ若ければどうにか再生の道もあるかもしれない。でも30代、40代と時を重ねてしまったら、確実に社会復帰は難しいものとなる。そのときに自分の行為を悔いても、もう遅い。

もちろん人間だから深く傷ついたときは自暴自棄になり、死にたいと思ってしまうこともあるだろう。それをどう立ち直らせていくかは、実は傷ついた自分次第なのだ。ベイマックスはケア・ロボットとしてヒロにあれこれとケアをしてくれるが、それを受け入れて心を癒せるかどうかは自分次第であると本作は描く。

つまり自分の人生をどうするかは、結局は自分が事態をどう判断し、何を選択していくかだろう。自分次第で人生はバラ色にもなるし、暗闇のどん底にもなる。人生を謳歌できるかどうかは、心一つで決まるのだと思う。

それを支えてくれるのが友人であり家族。ヒロの場合はそれがベイマックスであり、マイクロ・ロボットを作ったときに助けてくれた、タダシが亡くなった後も連絡を取ろうとしてくれたタダシの友人達だった。つまり本作は傷ついた少年の再生の話であり、最後は自分で頑張るしかないという自立の物語にもなっている。そこに、友情や他者との絆の大切さも描いている。

ちなみに『ベイマックス』の原題は『BIG HERO 6』。なぜ“HERO(ヒーロー)”なのかは映画を見て楽しんでもらうとして、6は当然、ヒロとベイマックス、そしてタダシの友人達を指している。

人は決して一人では生きてはいけず、いろんな人達と支え合って生きているもの。そんな想いまでもが伝わってくる、優しさにあふれた本作は、同時に血沸き肉踊るエンターテインメントとしての楽しさもあふれている。小学生から大人まで本気で楽しめる、傑作と呼ぶにふさわしいこのディズニー・アニメーション。劇場で見ないと損をすること間違いなし!
監督:ドン・ホール、クリス・ウィリアムズ/製作総指揮:ジョン・ラセター/出演:ライアン・ポッター、スコット・アヴィット、T.J.ミラー、ジェイミー・チャン、デイモン・ウェイアンズJr. 、ジェネシス・ロドリゲス、ダニエル・ヘニーほか/日本語吹き替え版:小泉孝太郎、菅野美穂ほか
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文:横森文 ※写真・文の無断使用を禁じます。

横森 文(よこもり あや)

映画ライター&役者

中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。

2022年4月より、目黒学園で戯曲教室を展開。

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