2014.04.08
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『青天の霹靂』 うだつの上がらぬ人生にも花開く瞬間がある!

今回は、うだつの上がらぬ人生が花開くまでを描く『青天の霹靂』です。

人生を諦めかけていた時、突然、雷に打たれ…

「あなたは、満足のいく人生を送っていらっしゃいますか?」
 そう問われて「はい、満足ですよ」と胸を張って堂々と答えられる人がどのくらいいるのだろう。子どもの頃から、人間は様々な夢を抱き、様々な希望を持つが、実際はその自分の念願通りに生きている人はそれほど多くない。夢のために頑張っていても成功に至らなかったり、成功にこぎつけたとしても結婚とか、子どもが生まれたとか、親の介護をせざる得なくなったなどで状況が変わったりして、夢を途中で諦めざるを得なくなる人もいる。病気で夢どころではなくなる人もいる。どこかで妥協したり、自分の夢の形を変化させたりしながら、生きているという人が大半ではないかと思う。
この『青天の霹靂』に登場する大泉洋が演じる轟晴夫も、胸を張って「満足」とは言い難い人生を送っている。職業はマジシャン。腕は決して悪くはないのだが、しゃべりや見せ方などが今一つで他者へのアピール度が欠けているため、なかなか芽が出ないでいる。オカマでもないのにオカマのフリをした後輩などは、今やテレビで引っ張りだこなのに、自分は手品バーで酔っぱらい相手にマジックを見せているだけだ。挙句の果てに、そのオカマ・キャラクターで売れた後輩にタメ口を利かれ、客の前で完全にバカにされてしまう。それでも晴夫はキレたりもせずに、曖昧な表情でその場を取り繕うだけだ。
そんなことがあった矢先、さらに晴夫の人生には嫌なことが次から次へと襲いかかる。自分が住んでいる安アパートの水道管が破裂、部屋の中が水浸しになり、用意していた手品のタネも何もかもが台無しに。そして、なけなしの金で買った惣菜パンの中身をぶちまけてしまい、さらには失踪した父親がホームレスになっており、河原で亡くなったという哀しい知らせが入る。まさにこれぞ泣きっ面に蜂。不幸のつるべ打ちで、晴夫は生きることを辛いと感じてしまうのだ。

そんな時、突然晴夫は落雷に打たれ、その衝撃でタイムスリップしてしまう。それは自分が生まれるちょっと前の世界。約40年前の浅草だった。そこで彼が出会うのは、まだ20代の頃の自分の父親(劇団ひとり)。そして晴夫を産んだ後に家族を捨てて出ていった、記憶にもない母。そんな母の若い頃(柴咲コウ)にも出会うことになるのだ。現実的にはありえないような、とてもファンタスティックな設定だが、うまいのはいかにもファンタジーといった突飛な世界に仕上げるのではなく、あくまでも地に足のついた世界観に仕上げている点。

例えば、晴夫は最初戸惑いながらも、生きていくために自分の手品の技術を活かして浅草の寄席に出演するようになる。本来、アピール下手な晴夫だが、興行主の「ある計らい」で、インド人キャラクター「ぺぺ」として売り出され、そのキャラと手品の見事な腕前で観客のハートをしっかりとつかんで人気者になっていくのだ。その様子は、非常に臨場感たっぷりに綴られリアル、一見の価値ありだ。

初監督作とは思えぬ、演出手腕の優れた作品

物語は、うだつの上がらない人生にウンザリして、「自分なんてこの世に必要なのか?」と思っていた晴夫が、自分が誕生する前の両親と出会い、彼らとの交流を通して様々な体験をし、「本当の真実」を知り、自分が生まれてきたことにはしっかり意味があったことを悟ることになる。また、昭和50年という世界ではあるが、晴夫はマジシャンとして成功し、客からも喝采を浴びる存在になる。その結果、後の彼に自信と勇気を与えることになるのだが、そこに至るまでのドラマはぜひ劇場で確かめてもらいたい。意外な事実と共に、深い感動を呼ぶことだろう。
生きていくのは大変だけれど、諦めずにコツコツと努力することで必ず色々なことが結びついてチャンスは回ってくる。そのチャンスを活かしきれるかどうかは本人次第。そして、自分を救えるのは自分自身であり、自分の心持ち一つで人生はバラ色にも灰色にも変化していく。そういった可能性を声高に叫ぶのではなく、さり気なく感じさせてくれる。全体が優しい視線に包まれ、観る者に勇気を与えてくれる、そんな作品だ。

実はこの作品を監督したのは、原作者でもある劇団ひとり。これが初監督作となるわけだが、その演出手腕には正直、舌を巻いた。初めて監督をする人が陥りがちな台詞で説明するということがなく、役者たちのリアクションや構図の切り方などで、その時の心情や状況を見事に説明していくのだ。しかもそれがとても的確。まさに映画らしい「画で見せる」魅力が詰まった作品となっている。

また、役者としても素晴らしい。劇団ひとり扮する晴夫の父親は、ちょっといい加減な面があり、手先は器用だけど生き方が不器用なワイルドな男。それを見事に演じ切っている。本人とは全く異なるキャラクターだそうだが、そこに自分を起用し、しかもリアルな演技で見せ切るのは本当にすごい。よくまあ演出から演技までここまでやったなと感心した。
さらに、劇団ひとりは「容赦しない監督」でもあるようだ。例えば冒頭で、晴夫がテーブルマジックを次々と披露するシーンがあるのだが、その動作を一連で、しかもCGなどですり替えたりせず撮り上げている。かつて映画『スティング』という作品で見事なトランプ捌きを主人公のポール・ニューマン本人がきっちりやって見せ、観客を一気に映画に釘づけにした。『青天の霹靂』のこのシーンも同様だ。
晴夫役の大泉は、手品を習得するのに大変苦労したそうだ。習得が比較的楽な、仕掛けのでかい手品ではなく、より訓練が必要なテーブルマジックにトライさせる。こういう無理難題を、本気で役者にやらせるあたりがすごい。その本気度からして、劇団ひとりがいかにこの作品に真摯に向き合って作っているかが伝わってくる。

これはあくまでも予想だが、劇団ひとりは相当な映画ファンだろう。かなり映画作りの勉強をした人でないと、なかなかできないような演出をたくさんしているからだ。きっとこれまで、いつか自分でも監督したいという気持ちがあり、今回はそのチャンスを最大限に活かしたのだと思う。劇中に描かれている、努力を惜しまず続けていれば、チャンスが巡ってきた時に花開けるということを、まさに劇団ひとり自身が身をもって証明したといっても過言ではないだろう。観る者の勇気とやる気を奮い立たせてくれる、そんな作品だ。
Movie Data
監督・脚本・原作・出演:劇団ひとり/出演:大泉洋、柴咲コウ、笹野高史、風間杜夫ほか。
(C)2014「青天の霹靂」製作委員会
Story
かつて自分は特別な存在ではないかと思っていた晴夫。だが四畳半のアパートで、テレビで後輩マジシャンの活躍を見る日々に「普通の日常」を手に入れることすら難しい現実に気づき始めていた。生まれてまもなく母に捨てられ、今では父とも絶縁状態。何をやってもうまくいかない人生を諦めかけた時、晴夫は40年前の浅草にタイムスリップする。

文:横森文

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

子どもに見せたいオススメ映画

高校生のキャリア教育にぴったりな1本

これまでも『ウォーターボーイズ』や『スウィングガールズ』など、非常にユニークなコメディを放ってきた矢口史靖監督。だが本作でしっかりと見せるのは、笑いよりも一人の青年の心の成長物語だ。
染谷将太演じる主人公の平野勇気は、都会育ちのちゃらんぽらんな18歳。大学受験に失敗し、彼女にもふられた彼は、たまたま緑の研修生を募集するパンフレットの表紙の美女に釣られ、軽い気持ちで1年間の林業研修プログラムに参加。しかし実際にやってみるとハードな林業。辞めたいと思うが辞められずにズルズル続けていくうちに、いつしか林業の魅力、働く楽しさに目覚めていくという展開だ。
注目シーンは、元彼女が大学生の友人数名を連れて林業の見学に来る所。「ナチュラルな生活をする人ってすごい!」と言いつつも、都会暮らしを捨てる気などさらさらなく、どこかで田舎暮らしをバカにしている感覚もある大学生に、勇気自身が違和感を抱き、追い返すのだ。以前は、勇気自身がその大学生のような心持ちだったのに。この成長ぶりに自然と目頭が熱くなった。
「若者が夢を持つのは当然だ」と思われていた時代から、今では幻想だと言われてしまう時代。しかし、勇気のように何かを本気で続けることにより、思いがけぬ出会いがあることもあるはず。本気になることの大切さを教えてくれるという意味で、この作品は将来の進路を考え出す高校生には特にぴったりな1本。笑わせられつつ、ちょっとした勇気の言動に、ハッと気づきを与えられることだろう。
監督・脚本:矢口史靖/原作:三浦しをん/出演:染谷将太、長澤まさみ、伊藤英明、優香、西田尚美、マキタスポーツ、有福正志、近藤芳正、光石研、柄本明ほか
(C)2014「WOOD JOB!~神去なあなあ日常~」製作委員会

文:横森文 ※写真・文の無断使用を禁じます。

横森 文(よこもり あや)

映画ライター&役者

中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。

2022年4月より、目黒学園で戯曲教室を展開。

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