2014.02.11
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『神様のカルテ2』 医者の過重労働問題とワークライフバランスを提起

今回は、医者の過重労働問題を3組の夫婦の姿を通して描く『神様のカルテ2』です。

医療に携わる人々の日々の姿を描く

かつてドキッとする体験をした。朝起きたら眼の中で出血が起きていたのである。慌ててやっている個人医院を見つけ、タクシーで飛んでいき、止血のためレーザーを照射し、どうにか血が止まりホッとした。その時は本当に医者のありがたみを感じたものだ。医者がいないといかに困るかということを痛感した。

一方、救急治療の受け入れを病院から拒否され、病人がたらい回しに遭う問題が発生することがある。冷静に考えればそれぞれの病院の事情もあるというのもわかるが、自分が患者の立場や患者の家族の立場だったらたまったものではないだろう。こんなに苦しんでいる人間を見捨てる気か!! と受け入れを拒否した病院を恨んでしまうかもしれない。

そんな風に恨むこともなく、私達が十分納得できる医療を受けようとしたら、今度は逆に、医療に携わる人達に様々な無理を強いることにならないだろうか。本作『神様のカルテ2』はそんな医療問題に焦点を当てつつ、そこに生きる人達のそれぞれのドラマが紡がれていく。

前作『神様のカルテ』では、櫻井翔演じる医者・栗原一止(くりはらいちと)がまだ医者としてはヨチヨチ歩きを始めたばかりで、彼の成長が物語のテーマになっていた。しかし今回は、彼だけでなく医療に携わる全ての人がテーマを背負っているのである。

人を助けるために医者は、人として生きてはいけないのか?

その中でもまず注目したいのは一止の大学時代の仲間で、東京から一止らがいる信州の本庄病院に戻ってきた進藤(藤原竜也)とその妻・千夏(吹石一恵)が織りなすドラマだ。千夏は娘を産み、産休後に小児科医として職場復帰する。千夏の勤める病院は、高度な先端医療を誇っており、全国から難病の子たちが集まってくるような場所だった。そこで千夏がたまたま体調を崩し病院を休んだ時に、千夏の患者である白血病の子どもの容態が急変してしまう。そして千夏はその患者の母親から責められてしまうのだ。医者は子育ての片手間にできるような職業ではないと。それ以来、千夏は家族のことは二の次で、家にも戻らず病院にほとんどいるようになってしまう。人が変わってしまったかのように、取りつかれたかのように、仕事第一主義の人間になってしまうのだ。
一方、そんな妻に子育ては任せておけないと感じた進藤は、娘を連れて実家に戻る。そして娘のため、家族のため、患者がいてもお構いなしに、定時に出勤して定時に帰るようになる。看護士が「熱を出して不安がっている患者さんに、身体の状態を説明してあげてください」と言っても、「後できちんと話します」の一点張りだ。しかも、妻と別居して子育てに追われているという自分の事情を、友人である一止にも話さず独りで抱え込む。事情を知らない看護士や他の医者、無論患者からも進藤は不平不満を浴びせられることになるのだ。

何と切ない話だろう。家族を見捨てたような状態で医療にまい進する千夏は「良い先生」と呼ばれ、進藤は定時の仕事はしっかりやっていても「医者として問題がある」と叩かれてしまう。人々を助けるために日夜頑張っている医者たちは、家族を犠牲にせざるを得ないのか。人を助けるために医者は、人として生きてはいけないのか!? そういった問題が進藤&千夏夫妻を中心に、熟年夫婦である貫田医者とその妻・千代(柄本明と市毛良枝)、そしてまもなく子どもが産まれる予定の一止と榛名(宮崎あおい)の夫婦のドラマにも影を落としていく。つまり深刻な医者の過重労働問題を足がかりに、仕事と自分の人生をどうバランスを取りながら生きていくか、3組の夫婦がそれぞれの答えを出していくというドラマになっているのだ。
言うなれば、今回は医者個人の、一人の人間としての顔を余すことなく見せていくようなドラマになっている。このため、病院シーンにしても、前作に登場したような病院の正面玄関などは一切見せない。前作で使ったロケ場所は無視し、あえて病院建物の裏側などを撮影することで、より医者達の裏側、プライベートまでを描き出していることを、観客に示唆していく。そのまとまり感と、前作とは異なるテンポ感が何とも気持ち良い。

仕事とは何か? 家族になるとは? 愛するとは?

そんなある日、貫田が病に倒れてしまう。仕事第一で、大病院には行かずに本庄病院という小さな病院で頑張ってきた貫田。そういう生き方を選んだことには、実は大きな理由がある(その理由は映画を見てのお楽しみ)。仕事、仕事で家にもあまり帰らず、たまの休日も病院から呼ばれたら休日返上で駆けつける。映画中、休日に神社のお祭りにやってきた一止夫妻と貫田夫妻がばったり会い、神社の東屋でお茶を飲むシーンがある。その時の千代の言葉が複雑だ。「どうせ病院に呼ばれたら他のことは全て忘れてしまう人達なのだから。たまには家のことを思い出させないと……」と、にこやかに榛名に向かってアドバイスをするのだ。そう言った途端に、携帯に電話がかかってきて二人して病院に呼び出されてしまう。
その時の何とも言えない、寂しいけれど送り出さなければならない妻としての千代の表情が印象的だ。わがままも言えず、送り出さねばならない心境。そうやって貫田が医療に捧げた人生を、妻は文句も言わずにずっと認め、耐えてきたのである。夫婦がやっと普通に会話を楽しめると思ったら、夫の入院先でとは、何とも皮肉な話だ。しかし、そんな人生を後悔していないと言い切る貫田の姿は魅力的に映る。そんな夫をしっかり支えてきた凛とした千代の姿も美しい。何十年も共に過ごしてきた夫婦ならではの強い絆、そして「この人を失ったら……」という千代の不安感が痛いほど胸に突き刺さる。
この映画を見ていると、本当に色々なことを考えさせられる。仕事とは何か、家族になるというのはどういうことか、愛するとは何か、友達を想うとはどういうことか……。どれも正解のあるようなものではない。そうやって自問自答を繰り返しながら、人間は生きて、前に進んでいくしかないのだろう。本作では医者が主人公になっているが、ここで描かれているテーマはどの人にでも当てはまるものだ。こういう映画を見て、もう一度、自分の人生について思い返し、あれこれと自問していくのも悪くないのではないかと思う。しかも10代~20代の若い世代はもちろんのこと、60代以上の中高年まで、年齢性別問わず必ずそれぞれが胸中に引っかかる内容が折り込まれている。前作以上に胸に迫り、どの世代も楽しめる、秀逸と呼ぶにふさわしい人間ドラマ。掛け値なしに見ていただきたい作品だ。
Movie Data
監督:深川栄洋/原作:夏川草介/出演:櫻井翔、宮﨑あおい、藤原竜也、要潤、吉瀬美智子、朝倉あき、原田泰造、濱田岳、吹石一恵、西岡徳馬、池脇千鶴、市毛良枝、柄本明ほか
(C)2014「神様のカルテ2」製作委員会 (C)2010 夏川草介/小学館
Story
榛名の出産を心待ちに本庄病院で仕事に励む一止の前に、大学時代の同期で「医学部の良心」と言われていたエリート医師・進藤が赴任してきた。親友との再会を喜ぶ一止だったが、進藤は勤務時間が終わると帰宅、時間外の呼び出しにも応じない。そんな進藤の姿勢に疑問を感じた一止は彼と衝突する。一方、貫田医師が過労で倒れてしまい……。

文:横森文

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子どもに見せたいオススメ映画
『アナと雪の女王』

姉妹の互いを想いやる心の素晴らしさを描く

かつて『人魚姫』をハッピーエンディングの『リトル・マーメイド』に変えたように、アンデルセンの『雪の女王』をディズニーアニメらしい、ユーモアと愛あふれる王道ミュージカル・エンタテインメントに仕立てあげたのが本作だ。
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胸を打つのは姉妹の愛情だ。妹アナを愛するがゆえ、二度と傷つけまいと彼女を避けて心を閉ざすエルザと、急な姉の心変わりに戸惑いながら生きてきたアナ。彼女たちの互いを想う心の素晴らしさがストレートに描かれ、実に気持ちいいのだ。人を大切に想うことや人を愛することとはどういうことか。シンプルにそれを教えてくれるこの作品は、特に家族愛や友情などが芽生え始めてくる頃の小学生に見せたい秀作。低学年~高学年の全学年におすすめする。本作を見た後、人を想うことの大切さについてクラスで話し合ってみてはいかがだろう。
監督:クリス・バック、ジェニファー・リー/声の出演:クリステン・ベル、イディナ・メンゼルほか(日本語吹替え版)神田沙也加、松たか子ほか
(C)2013 Disney Enterprises, Inc. All Rights Reserved

文:横森文 ※写真・文の無断使用を禁じます。

横森 文(よこもり あや)

映画ライター&役者

中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。

2022年4月より、目黒学園で戯曲教室を展開。

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