2008.09.30
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『ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢』 自分を信じ、夢に挑戦し続ける若者を描く映画

今回は、舞台『コーラスライン』の最終選考に残った若者たちを追ったドキュメンタリー『ブロードウェイ♪ブロードウェイ コーラスラインにかける夢』です。

名作『コーラスライン』の本物の最終選考を追う

『コーラスライン』の舞台は、日本でも劇団四季により上演されていたので観たことがある方も多いだろう。“コーラス”と呼 ばれる役名のないキャスト達。でもブロードウェイではそんな端役でもオーディションが行われ、大勢のダンサーたちが押しかける。それが現実だ。そんなコーラスに応募してきて最終選考に残った人々に課せられる最後のオーディション。それが履歴書には書かれない、それぞれの経歴を語るというものだった……。

 この『コーラスライン』は75年にブロード ウェイで開幕し、76年のトニー賞では最優秀ミュージカル部門を含め9部門を獲得。90年 に惜しまれながら幕を閉じた、名作中の名作。筆者も89年に初めてニューヨークに旅行に行った時、しっかりとその舞台を観劇、いろんなことを考えさせられたものだ。

その文字通りの名舞台が06年よりブロード ウェイでリバイバルされることに。そのオーディションに集まった人々を描いたドキュメ ンタリーが本作なのだ。ややこしい話だが、 ブロードウェイで生きようとオーディションに必死に挑む若者を描いた作品の、オーディションに来た若者たちのリアルな現実が重なっていくというもの。二重構造で描かれる本気の『コーラスライン』というわけなのだ。

 舞台作品でもアメリカのショービジネス界で生き残ることの大変さや苦悩などに絶句することもしばしばだったが、本作は作り物 ではなく本当に本物の“現実”なのだから、 より重く胸にズシッと迫ってくる。

驚いたのはこのリバイバル版のオーディシ ョンを、日本の沖縄出身の高良結香さんという女性が受けていたことだ。結論を言えば彼女はキャストに合格するが、このオーディション中、審査員側から信じられない言葉が飛びだす。それは高良さんが受ける役・コ ニーを、75年の初演で演じ、リバイバル版では振付を担当したバイヨーク・リーが放った言葉だ。それは「この役は生粋のアメリカ人じゃなきゃダメ……」ということ。アメリカでひとつの役を争ってきた人間でないとこの役は演じ切れないとばかりに言うのだ。改めて日本人がアメリカのショーピジネス界で成功することの難しさを感じてしまう。

自分のマイナス点をプラスに変えるには


 その高良さんに今回、電話でインタビューをさせていただいたのだが、まず聞きたかったのはその点についてだった。彼女自身、これまでアメリカ人じゃないというだけで拒絶されたりしたことがあるのだろうか?
 すると彼女は
 「自分は本当にマイナス点だらけなんですよ」
 と屈託のないサラリとした口調で話し 始めた。

 「アジア人というだけでもマイナスなのに、しかも日本の本国ならまだしも沖縄出身でしょ。背も低いし(148cmだそう)、英語にもアクセントがあって国籍も違うなんて、すべてがマイナス要素ですよ。でもそれは自分でコントロールしてどうのこうのできるものではありません。思春期過ぎているし、今から高くなんかなれないし!

 だったら自分でそのマイナスをプラスに変えられることをやらないと。アメリカのショーピジネス界で与えられるものばかり待っていたら、本当にウツ病になりますからね(笑)。とにかく人間はひとりひとりが特別に作られているんですから。背の低さは他ではマイナスポイントだったけれど、コニー役は背が低かったからこそ 選ばれたんです。そういう意味では低くてよかったなと思いますよ。とにかく自分の道は自分以外、開きようがないのですから」。

 そんな高良さんは、実は最初に渡米した時はミュージカルなど全く眼中になかったのだとか。
 「小さい頃からアメリカン・スクールに通っていたんです。アメリカン・スクールの卒業者のほとんどがアメリカの大学か、基地の中の大学に行くのが一般的な流れだったんです。だから私もその自然の流れの中でアメリカの大学に行くと決めて。沖縄の外には何があるのだろうという興味もあったし。で、5歳からクラシック・バレエを習っていたので大学ではダンスを専攻しようと思ったんです。だから大学で初めてモダンダンスをやり、その後、ニューヨークに出てはじめてジャズダンスやヒップホップに挑むことに。クラシックしかやってこなかったから、いろいろなダンスに挑戦してみたいというのもあって」。

 ところがずっとクラシックをやってきたため、最初はヒップホップなどをどう踊ればいいのかさっぱり要領が掴めなかったとか。それはそうだろう。クラシックとヒップホップ では、体の使い方が真逆と言ってもいいくらいに違うのだから。
 「例えば重心をもっと低くと言われても、どうしたらいいのかわからないんです。だから最初は相当にできなくて本当に恥ずかしい思いをしました。でも私は獅子座生まれだから負けず嫌いなんです(笑)。そこで毎日、ヒップホップの稽古に出たり、積極的に練習したりしていましたね」。

 そうなのだ。『ブロードウェイ♪ブロード ウェイ~』にも、どんなことにも目もくれず 学生時代は毎日毎日ダンスのレッスンに明け暮れていたという話をするダンサーが登場するが、そうやって何もかも忘れて一心不乱に 打ち込んできたからこそ、開花できるというものだ。いろんなことを犠牲にし、その代償で得た技術、高めた技術が本人の自信をも向上させていき、それが魅力に繋がっていく。ダンサーという世界の面白さだ。高良さんもやるからにはとにかくいろんなダンスを 踊るしかないと感じたようだ。

 「先程も言ったように、とにかく自分でやれること、できることを高めていくしかないんですよ。生まれとか背の高さとかどうしようもない問題は置いておいて、唯一勝負できるものって結局は技術だと思うんです。ミュー ジカルはダンスと歌と演技ができなきゃ無理なんですが、例えばダンスならどんなジャンルでも踊りこなせるようになろうと。レベルをあげようと。
 だから私はフラメンコもモダンもベリーダンスも習いましたし。歌もそれこそロックからポップ、オペラ、ミュージカルまでいろいろと習いました。

 演技に関しては、特に訓練はしていませんが、図書館でリサーチのテーマを決めていろいろ映画を借りてきて観たり。例えばアン・マーグレットという女優をリサーチしたいと思ったら、彼女の出演作を片っ端から借りて観る。台本も読みますし、CDも借りてきます。さらに観た作品の演出がいいと思ったら、今度はその監督について調べだします。本当にリサーチってエンドレスなんです。今でもリサーチは欠かせません」。

夢を掴むために大切なこととは?

おそらくこうやって誰もがプロになっても練習をし続け、誰もが自分を磨くことに懸命であり続けるのだろう。でもそれはショービジネスの世界のことだけなのだろうか。 高良さんもインタビュー中に
「自分探しって ショービジネスに関わらず、永遠のテーマですよね」
 と語ってくれたが、誰もが自分の人生を魅力的に輝かせていくためのリサーチには終わりはないはずなのだ。

 けれども歳をとっていくうちに、人はどこかで甘える。どこかで新しいものを吸収しようという意欲や意識を失ってしまいがち。そうやって人は“オジサン・オバサン化”していくのだろう。
 まだ10代~20代 の、何をやっても取り返しがつく年代で自分の思い込み(=甘え)だけで「人生もう終わ った」と思い込んでいる人たちには、この映画を観て自分が本気で努力しているのか、本当に本気で何かにトライしたことがあるのか、己を振り返り、もっと考 えてもらいたい……と思ってしまう。

 高良さんに夢を掴むために大切なことは何かと聞いてみると、
「まず自分を信じること。夢を現実に変えるのに大切なことは、最終的な鍵を持っているのは自分自身だってことを忘れないでほしいってことですね」
 と言う。実は高良さんの周辺にも彼女自身が「なんで!?」と思うようなことをする人がいるそうなのだ。

 「例えば、塾の先生に『この大学はよくないと言われたからやめようと思った』とか、『通訳になるのなんてよくないと言われたからやめよう と思った』とかって言う人がいるんですよ。でも誰かに何か言われたからやめるなんて変じゃないですか? 自分の心が何をしたいのか、それは自分自身に聞いていないことだと思うんですよ。だってもし明日死ぬとしたら、本当に自分の今の人生、それでいいと言えますか? 今がラストの時だと思ったら満足できますか? と。

 人によっては、給料がいい会社だから、そこのサラリーマンになりたいなど、いろいろ事情はあると思いますけれど、 本当に自分にとって大切なことは何か耳を傾けてほしいと思うんです。ちょうど私は9・11のテロの時にNYにいたんですが、あの時に本当に自分も死ぬんだと思ったし、裸に氷水をかけられたような気持ちになりました。まさにWAKE UP! と言われた気分だったんですよ。

 だから後輩たちにも『やりたいことはやりなさいよ』と言ったんです。そうしたら大学を卒業するまでに1年半残っていたけど、卒業を待たずにフランスに渡った人や、大学を卒業してから上京してオーディションに挑戦して受かった人などいろいろな人が出てきたんです。そういう話を聞くと私も嬉しいですね。とにかく、常にこれで人生がラストなんだと思って、自分を信じて責任を持って行動してほしいと思います」。


自分の心に素直に耳を傾け、自分のやりたいことを自己責任の下やっていく。すごくシンプルなことだけれど、なかなか実行することはできない。劇団四季版『コーラスライン』の『WHAT I DID FOR LOVE』の歌詞で「悔やまない、選んだ道がどんなに つらく この日々がむくわれず 過ぎ去ろうと」というのがある。どんな道でも必ず成功するとは限らないけれど、自分を信じて頑張ることはとても重要だ。そしてその大切さを子どもたちに教えるのも、大人としての役目なのではないだろうか。
Movie Data
監督・製作:ジェイムズ・D・スターン、アダム・デル・デオ
製作総指揮:ジョン・ブレリオ
出演:マイケル・ベネット、ドナ・ マケクニー、ボブ・エイヴィアン、バイヨーク・リーほか
All Rights Reserved(c)Vienna Wai ts Productions LLC.
Story
応募者数3000人、最終選考まで8ケ月、選ばれるのはわずか19名! これが16年ぶりに再演されるブロードウェイ・ミュージカルの最高峰『コーラスライン』のオーディション。 そこには最終選考で互いの努力を知り尽くした親友と一騎打ちになった日本人のユカ、代役候補だったのにメキメキ成長した新人など 様々な姿があった……。

構成・文:横森文 写真提供:松竹、ショウゲート

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子どもに見せたいオススメ映画
『パコと魔法の絵本』 感涙必至! 人は一人では生きていけない・・・
患者から医者、看護婦まで変わり者しかいないある病院。そこに入院している一代で会社を築 いた大貫は、とても偏屈で皆から嫌われていた。ある日、大貫はベンチに座った少女パコを突き飛 ばす。しかし両親を失った交通事故で1日しか記 憶がもたなくなっていたパコは、翌日になるとケロッとして同じベンチでいつもの絵本を読む。そんな パコの事情を知らない大貫は、ついパコの頬にビンタを。それ以来、パコは大貫の手が頬に触れると、大貫のことだけは思いだすようになって いくのだった……。
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誰もが一人では生きていけないし、誰かのためにステキな 思い出を残すことがどれだけ素晴らしいことかを、しみじみと感じさせてくれる傑作だ。しかも大貫というキャラクターが『クリスマ ス・キャロル』のスクルージ的イメージなので、 友情の大切さ、心の交流の大切さが小学生でもわかること間違いなし。年代によっていろいろな楽 しみ方ができる作品なので(ちなみに大人は号泣間違いなし)、是非家族連れで観にいって楽しんでいただきたい。そんな1本だ。
監督・脚本:中島哲也
原作・出演:後藤ひろひと
脚本:門間宣裕
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(C)2008「パコと魔法の絵本」製作委員会

構成・文:横森文 ※写真・文の無断使用を禁じます。

横森 文(よこもり あや)

映画ライター&役者

中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。

2022年4月より、目黒学園で戯曲教室を展開。

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