2019.06.12
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『泣くな赤鬼』 教師を生業としている人は必見作!! 感動の再会ストーリー

映画は時代を映し出す鏡。時々の社会問題や教育課題がリアルに描かれた映画を観ると、思わず考え込み、共感し、胸を打たれてしまいます。ここでは、そうした上質で旬な映画をピックアップし、作品のテーマに迫っていきます。今回は『泣くな赤鬼』と『空母いぶき』をご紹介します。

熱血だった教師が変貌してしまった理由とは?

(c)2019 映画『泣くな赤鬼』製作委員会

中学や高校時代に関して思い出すことと言ったら何だろう。友人たちとの楽しい思い出はもちろんだが、次に思い出されるのは私の場合、ユニークな先生たちとのエピソード。
まあ決して“いい子ちゃん”な生徒とは言えなかったので、先生とのエピソードは本当に思い出がつきない。

あと私の話ではないが、こんな話がある。とても優秀な友人がいろいろ家庭の事情で大学進学が難しいかもしれないとなった時、担任だった先生が「私がお金を貸してもいい。あなたは大学に行くべきです」と親身に言ってくれたことがあったという。結果的に奨学金で大学に行くことになったと記憶しているが、友人も「まさか先生がそんな風に言ってくれるなんて思わなかった」と当時泣いてしまったと後に明かしてくれた。

私も担任の先生の新たな一面に気づかされ、人は自分が感じた印象以外にも様々な面を持ち合わせるのだということに気づかされた瞬間だった。

でも必ずしもそんなステキな絆ばかりではない。『泣くな赤鬼』で描かれるのはちょっと痛みを伴う絆だ。

主人公は堤真一演じる小渕隆という名の教師だ。彼は城南工業高校で教師をしていたが、野球部の監督をも務めていた。そして鬼のように厳しい指導と陽に焼けた赤い顔から“赤鬼”の異名を持っていた。小渕の願いは生徒たちを甲子園に連れていくこと。そのために彼は熱血指導を行っていた。

しかしそれから10年後。今や進学校の教師となった彼は、相変わらず野球部の顧問は続けているものの、かつての熱血先生のイメージはどこにもなかった。逆に生徒から「もっと指導してほしい」とせがまれる始末。なぜ小渕がこんなにも変容してしまったのか。それがこの作品のポイントとなっている。

そんな時に病院で出会うのが、かつての教え子でゴルゴの愛称を持つ斎藤だった。野球の素質を持ちながらも、挫折して高校を中退した生徒だ。しかし、立派な大人に成長したゴルゴは、病に侵され、命の期限が迫っていた。厳しさでしか教え子に向き合えなかったかつての赤鬼先生は、ゴルゴのために最後に何ができるのか――。

淡々とした視線で客観的に描かれる元教え子との関係

(c)2019 映画『泣くな赤鬼』製作委員会

といった内容を書くと、なんだかお涙頂戴な人情ものっぽく感じるかもしれない。けれどもこの映画はそんな安っぽくて、涙を求めるような演出はしていない。あくまでもたまたま出会った元教え子と教師が、ご縁で現役の頃とは違う関係を結んでいき、そこで起きた出来事を淡々と紹介しているだけだ。だがそれがいいのだ。変に大袈裟にもならず、たまたま他の人よりも早く死んでいく運命になってしまった人間を見つめているだけなのだから。そのどこか淡々とした視線が、観ている側に、逆に妙な客観性を与え、あれこれと考えさせてくれるのである。

ちなみに、この小渕役を演じた堤真一自身も絶対に泣くまいと思って、この映画を観た。が、不覚にも泣いてしまったのだとか。泣いた理由は役者として達成感を感じたからなのか、純粋にこの作品の内容に感じたからなのかはわからない。けれども泣いてしまったという。

つまりそれだけ良い映画だということなのだが、それをネタバレせずに紹介していくことは非常に難しい。ただ間違いなく、教師を職業にしている人は、感じ入ることがいろいろある映画であることは確かだ。

人生にムダなことは何ひとつないことを、考えさせてくれる傑作

(c)2019 映画『泣くな赤鬼』製作委員会

中でも印象的なのは高校時代のゴルゴが小渕に自分の思いをぶつけるシーン。「努力して報われなかったらどうするんだ」と喰ってかかるシーンだ。これは一度くらい生徒から言われたことがある教師の方、いるのではないかと思う。特に今ドキの余計なことをやりたがらない生徒に悩まされている先生方にとっては頭の痛い話だ。損して得をしろとか、回り道が実は近道になったりすることなど、人生にはムダに思えたことが後から考えたら全然ムダじゃなかったことなんてたくさんある。ところが最近は「ムダに時間を過ごしたくない」そうで、他人に気づかうことも一切したくないという人が多い。

例えばエレベーターに乗った時、他人が乗り降りするのを待つこと自体がイヤだという人も増えている。そういうのを聞くと、電車に乗る時に降りる人を優先するという行為がだんだん減ってきていることや、満員電車の乗り降り時、入り口付近の人が「降りて乗れなくなったりしたら最悪だから」とその場で踏ん張る人が多くなったのもなんだか納得できる。

少々話が脱線したのでもとに戻すが、要はそういう「ムダをしたくない」人種が増えてきているのだ。でも人生に「ムダ」って本当にあるのだろうか。

(c)2019 映画『泣くな赤鬼』製作委員会

高校生の時に野球を熱心にやっていたとして、それで野球選手にまでなれる人は本当にごく一部でしかない。多くの人は野球になぞ全く関係ない人生を歩んでいる。でも野球に全力を注いだと思えるくらいに本当に頑張った人は、他のことでも努力するクセがついているはずなのだ。努力することに抵抗感がない人になるはず。逆に自分から逃げてしまった人は、何に置いても逃げ出しがちになる。ちょっと職場で人間関係につまづけばもうその職場自体に行きたくなくなってしまったりする。うまくいかないことを努力で埋めるのではなく、避けることでゴマかしているだけだ。

生きて出してきた結果は、そういう様々なところにも顔を出すものなのである。映画の中ではそこまで描かれてはいないが、ゴルゴも自ら野球部から逃げ出したことを恥じて生きているはずだ。他でも逃げ出したりしている部分があったような気がしてならない。でも人生が短いことがわかり、逃げ出す時間もなくなってきた。そこで彼は初めて克服することを覚えたのではないのだろうか。

そしてそのゴルゴとの関係は小渕にとっても抜けない刺のようなものだったと思う。それは彼がゴルゴと再会した時の態度からして一目瞭然。普通に相対しているのだが、どこかしらで会いたくなかったなというような戸惑いがにじみ出ているからである。痛い絆。最初はあきらかにそうだったはずだ。それは小渕にとっても越えなければならない壁だったのだ。

若い時は、頑張ってもモノにならないとふてくされてしまいがちだ。でもその時に努力したことは、他の道で活かされることに繋がっていくもの。いろいろ若い時に感じたことをこの映画は思い出させてもくれる。そしてたまたまゴルゴは期限つきの命を与えられて自分の人生を顧みたけれど、実際は誰にだって命に期限はあり、それが早いか遅いかは誰にも本人にすらもわからない。もしかしたら明日、その生命が尽きることだってありえるのだ。そうなった時、あなたは本当に悔いのない人生を送っていると胸をはって言えるだろうか。納得の行く人生を送っているのだろうか。そういう人生を振り返るいいキッカケも与えてくれる素晴らしい作品だ。

Movie Data

監督・脚本:兼重淳 原作:重松清 出演:堤真一、柳楽優弥、川栄李奈、麻生祐未、キムラ緑子、竜星涼ほか
配給:KADOKAWA
6月14日(金)より、全国ロードショー

写真提供:KADOKAWA

(c)2019 映画『泣くな赤鬼』製作委員会

Story

かつて熱血指導で“赤鬼”の異名を持っていた高校野球部の監督も務める教師の小渕。だが今や顧問を務める進学校の野球部では、過去の熱さが微塵もなかった。そんな中、小渕は才能がありながらもあまり努力せずに辞めたゴルゴこと斎藤という元教え子に再会。実は彼は病を患い、余命半年に。そんなゴルゴに対して小渕は何をしてあげられるのか…。

文:横森文/写真提供:KADOKAWA

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

子どもに見せたいオススメ映画

『空母いぶき』

(c)かわげちかいじ・恵谷治・小学館/「空母いぶき」フィルムパートナーズ

(c)かわげちかいじ・恵谷治・小学館/「空母いぶき」フィルムパートナーズ

正直な話、私は『戦争』と『戦闘』の違いを全く正しく理解していなかった。そのことに気づけただけでも、この映画を観た価値はあるのではないかと思う。
物語は自衛隊初の戦闘機搭載の護衛艦『空母いぶき』を巡るもの。『専守 防衛』の観点から、日本に必要なのか否か、論争を巻き起こしていた『いぶき』の存在。だが国籍不明の軍事勢力が日本の領土を一部占拠、海上保安庁の隊員を拘束する事件が発生。海上自衛隊は直ちに小笠原諸島沖で訓練航海中だった、いぶきを含む第5護衛隊群を派遣する。だがそんな彼らを待ち受けていたのは、敵潜水艦からの突然のミサイル攻撃。さらに進路上には敵の空母艦隊が。かくして政府は戦後初の『防衛出動』を発令することになっていく…。

(c)かわげちかいじ・恵谷治・小学館/「空母いぶき」フィルムパートナーズ

何があっても自分からは攻撃できない自衛隊。あくまでも防衛でしか戦えず、そのせいで理不尽な死を迎える者や、痛手をこうむることにもなる。だがこれこそが現実だ。こうしたつばぜり合いに当たるような戦闘をしつつ、本当の意味で地獄を呼ぶ戦争を避ける。おそらくあからさまにしていないだけで、こんなことは世界のあちこちで起こっているのではないかと思えるリアリティ。ひとりひとりがイヤでも考えざるを得なくなる現実が、この映画の中には詰まっている。
正直、中学生以上はこの映画を観たほうがいい。そして本気で一度話すべきである。戦争とは何なのか。本気で日本には何が必要なのか。以前、ある知人が「戦争にならないよう、どうにかしてくれるでしょ。偉い人達が」と平然と言ってのけ、「なんて呑気な」と驚かされたが、そういう他人まかせに生きている人こそこの現実を知るべきだと思う。我々の平穏な日常を保つために、どれだけの人が苦労して動いているのかという現実を。

監督:若松節朗 原作:かわぐちかいじ 出演:西島秀俊、佐々木蔵之介、本田翼、小倉久寛、玉木宏、斎藤由貴、藤竜也、佐藤浩市
ほか 配給:キノフィルムズ
絶賛公開中

(c)かわげちかいじ・恵谷治・小学館/「空母いぶき」フィルムパートナーズ

写真提供:キノフィルムズ

文:横森文/写真提供:キノフィルムズ ※写真・文の無断使用を禁じます。

横森 文(よこもり あや)

映画ライター&役者

中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。

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