2018.12.19
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『アリー/スター誕生』 世界の歌姫レディ・ガガを起用し、4度目の映画化!

映画は時代を映し出す鏡。時々の社会問題や教育課題がリアルに描かれた映画を観ると、思わず考え込み、共感し、胸を打たれてしまいます。ここでは、そうした上質で旬な映画をピックアップし、作品のテーマに迫っていきます。今回は『アリー/スター誕生』と『シュガー・ラッシュ:オンライン』を詳しくご紹介します。

光と影、そして愛の物語

クイーンの『ボヘミアン・ラプソディ』がヒットしている。実際に観て思ったのは音楽モノはズルいということ。理屈ではない感動が、襲ってくるからだ。

今回紹介する『アリー/スター誕生』も、まさにそんなズルい1本。全編を素晴らしい音楽が彩り、その音楽を聞いているだけで鳥肌がたつような感動を覚えてしまうからだ。しかも『ボヘミアン・ラプソディ』は真実のストーリーをベースに演者が実際のクイーンの演奏に合わせて口パクで動きなどをそっくり真似て演じているが、『アリー/スター誕生』はフィクションの物語だが、実際のスターであるレディー・ガガが素晴らしい歌声で魅せてくれる。しかもガガの提案もあり、ここで使われているライブシーンでは、実際にその場で演奏した音源をまんま使っているのだそう。これで感動が生じないわけがない。特にクライマックスの曲は印象としてはノーカット・ワンテイクで魅せている印象があるのだが(実際はいろんな挿入映像がある。あくまでも印象)、そのシーンと歌詞の内容とガガの歌唱力があいまって涙がこぼれっぱなしになるような感動シーンとなっているのだ。

さて、それではどんな物語なのか。簡単にいえば、いつかスターになることを夢見ながらもなかなかそのキッカケに恵まれなかった女性が、大物歌手に見出され、スターとして輝きを放っていくというストーリーだ。実はもともと『スター誕生』という作品は今回を含めて4度も映画化されている。

その原点は1937年作品の『スタア誕生』。この時は映画スターに憧れてハリウッドにやってきたエスターという女性が、大スターのノーマンと出会ったことでスターとしての道を歩み出すが、ノーマンは人気に陰りが出て酒に溺れていくという物語だ。演じたのはジャネット・ゲイナーとフレデリック・マーチだった。

次に作られたのは1954年の『スタア誕生』だ。ストーリーは一緒だけれど、こちらはミュージカルとして再映画化されたもので、エスターをジュディ・ガーランド、ノーランをジェームズ・メイソンが演じている。

そして次に作られたのがバーブラ・ストライサンド、クリス・クリストファーソン主演の1976年の「スター誕生」。それまでは映画業界をメインにした話だったが、これは舞台を音楽業界に変えてまたまたヒット。エスターを演じたバーブラ・ストライサンドが作曲した主題歌もオスカーを取るほど大ヒットした。

そして、今回の『アリー/スター誕生』。すべてのベースとなっているのはひとりの女性のサクセス・ストーリーにまつわる光と影の物語であり、同時に愛の物語であるということ。
夢に向かって本気で奔走する人を応援したいという気持ちは、人間誰にでもあるものだと思う。そんな風に真っ直ぐに頑張る人の姿が心地良いから、この映画には普遍的な人気があるのかもしれない。

自分の秘めた才能を信じて、自ら行動することの大切さ

ガガ扮するアリーは、昼はウェイトレス、夜はたまに小さなバーで(しかもなぜかドラッグクイーンナイト)歌っている。別にこれまで自分の夢をつかもうとすることに臆病になっていたわけではない。様々な音楽業界の人に遭い、デモテープを渡して聴いてもらったりしている。だがその度に言われるのが「歌は良いけど、顔がね」という言葉。鼻がデカすぎるから売れないとか、様々なことを散々言われているのだ。

人間はどんなにポジティブな人間でも、やはり否定されるとその行動には陰りが出がち。アリーもまさにそうで、自分の容姿には正直かなり自信を失っている。もしかしたらドラッグクイーンナイトで歌っていたのも、ドラッグ・クイーンのようにド派手なメイクで自分の素顔を見せずに済むからなのかもしれない。

ところが彼女のそのショーを偶然にも見て、不覚にも歌声に涙してしまったロックスターのジャクソン(ブラッドリー・クーパー)はアリーに言う。素顔を見せてほしいと。そして素顔を見せた彼女を美しいと褒めたたえる。さらに一緒に時間を過ごし、彼女の作った曲をアカペラで聴いて「君には曲を作る才能がある」と真摯に伝える。そうやってちゃんと言葉にすることで、彼女の失われかけていた自信を少しずつ取り戻していくのだ。

かといってもちろんそんな言葉だけで、彼女が完全に自信を取り戻すわけがない。そこでジャクソンは行動する。なんとアリーがアカペラで歌った曲を自身のライブで発表。彼女を招いて歌わせようとするのだ。
もちろん最初は「無理無理」とおよび腰の彼女。しかしジャクソンが歌い出すのを聴き、彼女の中に「一緒に歌いたい」という意志が芽生え、ジャクソンの誘いにのって彼女は熱唱。それがキッカケで彼女は彼と共にツアーを回ることになり、さらにジャクソンとも恋に落ちていくことになる。

ジャクソンの行動も素晴らしいが、スゴイのはやはりアリーが自ら行動して、その道を選びとっていく点。別にジャクソンは無理強いはしない。歌いたければ歌いなさいという促し方。その中で行動していったのはアリー自身なのだ。

どんなに夢を描いていても、その夢を実現するのは、やはり自分でキチンと行動するかどうか。その大切さを、この作品はしっかりと教えてくれる。現実を見せてくれる。そしてその後も彼女の歌声に魅せられた人が、彼女のプロモーターとなったり、彼女自身が歌声で成功を呼び込んでいく様をしっかりと見せてくれる。でもそれも自分で歌う意志を見せなければ訪れなかったこと。強く意志を持って挑むことが大切であり、情熱を持つことが重要なのだ。

そしてその自分でつかみとっていく感覚が強いところは、一連の『スター誕生』作品と少し違うところでもある。どちらかというと今までの『スター誕生』は大スターにうながされて運命のままにスターダムを駆け上がっていく感覚のほうが強かった。が、今回はアリーがちゃんと自分の手で勝ち上がっていく感覚が強いのだ。それと同時にアリーとジャクソンの深い愛もしっかり描かれる。

それまでの『スター誕生』ではヒロインの才能を発掘し、育てることに喜びを感じながらも自分の人気が落ちていくことにジレンマや嫉妬を感じる男性スターが描かれていた。しかし今回のジャクソンは、別にアリーに嫉妬を感じて破滅の道に進むわけではない。彼には実は聴力に障害があるのだ。残された耳にもその障害が及びつつあるが、いい演奏を続けたいという思いから医者が薦める補聴器をつけようとせずに突き進んだ。それが結果として彼からどんどん聴力を奪うことになり、彼を酒とドラッグに誘い込む要因となってしまうのだ。そしてアリーにまで迷惑をかけることになってしまう…。自業自得と言ってしまえばそうかもしれない。だがそこにはジャクソンの深い愛、アリーの深い愛があり、愛ゆえにある選択をする。その選択はネタバレになってしまうので観てのお楽しみだが、この映画はそんな2人の愛のほか、ジャクソンとジャクソンの兄ボビーとの複雑な兄弟愛なども描かれる。結局、人は人によって活かされる。アリーをジャクソンが輝かせたように。

監督のこだわった配役でよりリアルな作品に

ちなみにこの作品、ジャクソン役を演じたブラッドリー・クーパーの長編映画初監督作品なのだが、クーパーがこれだけ素晴らしい映画を作れたのも、役者たちの使い方がまずうまいというのが大きいのではないかと思う。

まず、アリーにレディ・ガガを起用したのが素晴らしい。ガガといえば今でこそ奇抜な衣裳やメイクなどでも過激なイメージと話題をまき散らしている歌姫だが、彼女自身はもともとは個性的すぎて学校でいじめられたり、名家のお嬢さまだけど食えなくてストリップをやって稼いだり、ドラッグ中毒に陥ったりと、様々な挫折や苦しみを味わいつつ成功をつかんだ。また彼女は繊維筋痛症を患って一時期活動を休止したが、この病は強いストレスで発症することが多いのだそうで、ガガ自身も実はデリケートな部分があることが想像できる。つまりアリーと非常に似ている部分があるわけで、そういう彼女をアリ−役に起用することで演技的にも妙にリアリティを感じられたのではないだろうか。

またボブ役は、演じるサム・エリオットに当て書きしたとクーパー監督は語っている。そうすることでフェイク・ドキュメンタリーのような真実味を、この映画に与えたのだろう。もちろんクーパー自身も役作りに時間をかけて、1オクターブくらい音程を下げることができたという。また、ガガはもっとも熱い最後のライブシーンの時、実は直前に友人が亡くなっており、その思いも込めつつ圧巻の熱唱シーンを作りあげたという。そういう思いがのっているから、より感動してしまう作品に仕上がっているのだ。

Movie Data

監督・脚本・製作・出演/ブラッドリー・クーパー 脚本/エリック・ロス、ウィル・フェッタ−ズ 出演/レディー・ガガ、アンドリュー・ダイス・グレイ、デイブ・チャペル、サム・エリオットほか
PG12
(C)2018 WARNER BROS. ENTERTAINMENT INC. AND RATPAC-DUNE ENTERTAINMENT LLC

Story

父とふたりで暮らしているアリーの夢は、歌手になるということ。そのために昼はウェイトレスをして、夜は小さなバーで歌う日々を送っていた。そんな彼女はロックスターのジャクソンに見初められ、彼のライブに参加するようになり、自分の夢を叶えていく。さらにジャクソンからも愛を打ち明けられ、2人はついに結婚することになるのだが…。

文:横森文

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

子どもに見せたいオススメ映画

『シュガー・ラッシュ:オンライン』

様々な懐かしゲームが勢ぞろいして話題になった『シュガー・ラッシュ』。今回は前作でも登場した悪役キャラクターのラルフとレースゲームのプリンセス・ヴァネロペが、なんとアーケードのゲーム世界を飛び出し、オンライン世界に行ってしまうという展開だ。というのも通常のレースに飽きたヴァネロペを助けようと新しいレースコースをラルフが作ったせいで、不具合が発生。ヴァネロペのゲームが入ったアーケード機が故障し、廃棄処分の危機になってしまうのだ。そこでオンライン世界で、なんとか金を稼いで、壊れた部分の部品をラルフたちが買うという荒業に出ることになってしまう。

本作は、オンラインの世界の説明の仕方がとてもわかりやすいのもポイントだ。なのでインターネット世界が今ひとつわかりにくいと感じている子供でも大人でも、本当にサッと内容が伝わるものに仕上がっているのが素晴らしい。検索するとはどういうことなのか、ネットでお金を稼ぐというのはどういうことなのか。スマホで当たり前のように使っているアプリや、ユーチューバーの稼ぎ方までサラリと見せてくれる。

そういったインターネットの面白さや魅力を教えてくれつつ、物語はシンプルに友情の大切さを徹底的に教えてくれる。最近ではそれこそラインで既読したかどうか、返信したかどうかで友達か友達じゃないかなんて言われてしまう時代。でも本当の友達なら、例え一緒に遊んだりできなくなったとしても、その友達を応援していくことができるはず。そういう大切な友情と、大人になるための成長などがいい具合に見せ場と共に描かれていてエンタメとしてワクワクさせてくれるのだ。なかなか続編を作るというのは難しいがこれはとても楽しい一本。特に小学生〜中学生に観ていただきたいオススメ作品だ。

監督/リッチ・ムーア、フィル・ジョンストン 声の出演/ジョン・C・ライリー、サラ・シルヴァーマン(日本語版)山寺宏一、諸星すみれほか 

(C)2018 Disney. All Rights Reserved.

文:横森文 ※写真・文の無断使用を禁じます。

横森 文(よこもり あや)

映画ライター&役者

中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。

2022年4月より、目黒学園で戯曲教室やライター講座を展開。

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