2017.10.11
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『We Love Television?』 “視聴率100%男” 萩本欽一のドキュメンタリー

『We Love Television?』

映画は時代を映し出す鏡。時々の社会問題や教育課題がリアルに描かれた映画を観ると、思わず考え込み、共感し、胸を打たれてしまいます。ここでは、そうした上質で旬な映画をピックアップし、作品のテーマに迫っていきます。今回は、"視聴率100%男"欽ちゃんこと萩本欽一の、モノ作りへの姿勢や奥義、こだわりが見えてくるドキュメンタリー『We Love Television?』です。

超大物芸人・欽ちゃんに突然アポなしで・・・

以前こんな言葉を聞いたことがある。
「テレビに出ている人はいいね。遊んでいるだけでお金をもらえるんだから」
いやいやいや、断じてそんなことはない。お気軽に出演しているように見えるのかもしれないが、その裏では皆必死に番組に爪痕を残そうとしている。なぜならテレビの世界ほど浮き沈みが激しい世界はないからだ。

映画『We Love Television?』場面

視聴率で数字をしっかり叩き出さねば、平気で打ち切りになるテレビの世界。番組だけではない。お笑い芸人だろうと、役者だろうと、飽きられればバッサリ切られる。視聴率が取れないからと、消えてしまった芸能人もどれだけいることだろう。一度や二度なら誰だってテレビに出られるチャンスはある。でもコンスタントに出演したいと思うのなら、そのハードルは途方もなく高い。それがテレビの世界。呑気に遊んでいるように見えても、作り手も出演者もとてつもなく必死で、気を抜く暇なんてないのがテレビなのだ。


そんなテレビ世界で、かつて“視聴率100%男”の異名を持っていたのが、欽ちゃんこと萩本欽一氏だ。あえて今回は通り名である「欽ちゃん」で呼ばせていただこう。私が幼い頃は、欽ちゃんをテレビで見ない日はなかった。コント55号として故・坂上二郎さんと体を張ったコントなどに挑んだ、『コント55号のなんでそーなるの?』、伝説のオーディション番組である『スター誕生!』や『欽ちゃんのドンとやってみよう!』『欽ちゃんのどこまでやるの!?』など、司会からバラエティまで完璧にこなしていた欽ちゃん。1985年に突然、充電と称して、『欽ちゃんの仮装大賞』以外、すべてのレギュラー番組を降板。半年ほどテレビ界を退く形を作ったが、それがなければ間違いなくビートたけしやタモリ、明石家さんまは、ここまで名を成すことはできなかったかもしれない。そのくらい欽ちゃんの存在は大きかったのだ。実際、欽ちゃんが作ってきた節度ある「笑い」は、欽ちゃんが退いたことで消え、どんどん過激な「笑い」になっていった。

映画『We Love Television?』場面

そんな欽ちゃんの裏の顔を本人の承諾も得ずにドキュメンタリー映画として作り上げたのが本作『We Love Television?』だ。ある一つの番組作りの始まりから実際の放送、そして放送後の結果までを余す所なく追っていく。

企画・構成・監督は『進め!電波少年』や『ウッチャンナンチャンのウリナリ!!』などのヒット番組に携わってきた土屋敏男。『電波少年』でも芸人の素顔をさらけ倒しまくり、その人のすべてを画面に焼きつけてきた土屋氏だが、その矛先をまさか超大物芸人である欽ちゃんに向けるとは。

話は2011年の震災前からスタートする。突然アポなしで欽ちゃんの前に現れ、昨今のバラエティが10%ほどしか視聴率が取れない中、一緒に視聴率30%を超える番組を作りましょうと持ちかけた土屋氏。正直驚きつつも素直に喜びの表情を見せる欽ちゃんに、土屋氏はさらにハンディカムのビデオカメラを渡す。気になったことや自分の思いを記録してくださいと。

欽ちゃんの仕事に対する厳しさが見えてくる

時代はまさしくテレビがアナログからデジタルへと変わろうとしている時。そんな記念すべき時代に欽ちゃん主体の番組『新欽グShow』は放送されようとしていた。スタイルは『欽ドン』っぽいコントが主流。だがそこにはドッキリなど、欽ちゃんがやらなかったであろうこともチラホラ混ざっている。構成作家にはダウンタウンなどと組んでいる高須光聖氏などが参加している。

会議などでも次々とアイディアを出す欽ちゃん。そもそも欽ちゃんはとてつもないアイディアマンだ。今では当たり前になったピンマイクを発想したのも欽ちゃん。自分が司会業に進出した時にちゃんと司会のできる女性をつけてほしいと依頼し、今の女性アシスタントが付く慣習を作り上げたのも欽ちゃん。そう、欽ちゃんはテレビの常識を新たに作ってきた人物なのだ。

驚くのはコント練習に入ってから。さんざん練習した挙げ句、欽ちゃんが「本番ではセリフ全部変えます」と言い出す。雰囲気だけ覚えておいて、後は当日に生まれる空気感などを大事にしてほしいというのだ。どうしたら予定調和ではない笑いが生まれるか、そこには欽ちゃんなりの計算と、妥協しないこだわりがある。

かつて欽ちゃんはアドリブを好まない芸人だという噂を耳にしたことがあった。が、この映画を観ていると決してそういうわけではないことがよくわかる。いやむしろアドリブかそうでないかなんてことはどうでもよく、「どうやったら面白くなるのか」というシンプルだけど最も大切なその部分をひたすら追求している人なのだということが、この映画を観ているとジワジワと伝わってくる。ネタバレになると勿体ないからすべては語れないが、この映画を観るとそんな欽ちゃんのモノ作りの姿勢や奥義、こだわりといったものが見えてくるのである。

映画『We Love Television?』場面

よもやドキュメンタリーなんぞになると思わず自分自身で撮影した映像、30%の視聴率を目指して動き出した番組の打ち合わせなどの様子。そしてその間に起こる相方・坂上二郎さんとの別れや東日本大震災……。ドキュメンタリーだからこその、欽ちゃん自身も知らないであろう素顏の欽ちゃんが浮かび上がってくるのである。

それだけではない。番組一つを作るためにどれだけの人達が泣き笑いをしながら作っているのか。本作は欽ちゃんのみならず、番組作りに関わったすべての人達を丸裸にしていく。印象的なのはオファーを受けたお笑い芸人の「次長課長」の河本準一が「怖い怖い」と欽ちゃんとの共演に恐れをなしつつ、欽ちゃんと仕事をした後につい泣いてしまうという場面だ。想像以上に自分を追い込んでいたことが見てとれる。この映画は神経衰弱になりそうなくらい、自分の命を削るように仕事に取り組んでいる人達の姿を丸裸にしていく。

でも「仕事」とはそういうものなのだろう。どんな仕事でもそれぞれ、自分をかけてやる必要があるのだ。つまり本作は最近「働く」ことの意味を失っている人にも、働くということはどういうことか教えてくれる作品になっているのだ。どれだけ一つの仕事のために努力が支払われているのか。仕事に対して無気力気味になっている人はもちろん、仕事への責任について考えられずにいる人、そして「働く」ことについて甘く考えがちな中学生や高校生には是非見てほしい。お気楽に見える仕事でも、その裏でどんなことが行われているか、そしてそういったこだわり・情熱がなければ、何も成し得ないことがこの作品を観ると伝わるはずだからだ。

映画『We Love Television?』場面

ちなみに欽ちゃん自身は、この映画が作られていることを、配給元である日活から「ポスター撮影をします」と言われて初めて知ったそうだ。もう一つ言うとメインとして使われているタバコを吸っている写真も、ポスター撮影している間に一服したものを隠し撮りされたものだそう。それがポスターに使われているのを見て、たいそう驚いたという。個人的には欽ちゃんの仕事に対する厳しさが垣間見える良い写真だと思う。さすが『電波少年』の土屋氏。完全に欽ちゃんまでをもいじり倒し、その本人すら気づかない魅力を引き出して銀幕に焼きつけようというのだから。

実は、筆者は土屋氏に取材できるチャンスがあり、その時に聞いたのだが、『電波少年』で土屋氏がやってきた若い芸人達を追い込んでいじり倒すというこの手法は、欽ちゃんが見せてきた素人いじり芸の変化球なのだそうだ。なるほど言われてみれば確かにそうだ。

昔から欽ちゃんと仕事をしてきて、欽ちゃんに怒られて土下座をしたこともあるという土屋氏だが、そんな師匠ともいうべき欽ちゃんのお家芸で、まさか彼自身に切り込むとは。すごいことを思いついたものである。こうやって誰かから受け継がれた仕事の極意は、また別の人に大きな影響を与えて受け継がれていくのだろう。本当に色んなことを考えさせてくれる「仕事」ムービーだ。

Movie Data

企画・構成・監督:土屋敏男/出演:萩本欽一、田中美佐子、河本準一ほか
11月3日(金)より全国ロードショー
(C)2017日本テレビ放送網

Story

カメラを携えた土屋敏男が、萩本欽一の自宅を訪れ、視聴率30パーセントを超える番組を制作するという提案をした。二人は早速行動を開始。出演者となる女優の田中美佐子と人気お笑いコンビ・次長課長の河本準一との顔合わせ、高須光聖や、猪子寿之が率いるチームラボといったクリエイターらと打ち合わせをこなすうち、次第に萩本が知る番組作りの奥義が浮かび上がる。

文:横森文 写真提供:日活

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

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映画『僕のワンダフル・ライフ』場面

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映画『僕のワンダフル・ライフ』場面

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監督:ラッセ・ハルストレム/原作:ギャビン・ボローン/出演:デニス・クエイド、ペギー・リプトン、ブライス・ゲイザーほか
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(C)2017 Storyteller Distribution Co., LLC and Walden Media, LLC

文:横森文 写真提供:東宝東和 ※写真・文の無断使用を禁じます。

横森 文(よこもり あや)

横森 文(よこもり あや)

映画ライター&役者

中学生の頃から映画が大好きになり、休日はひたすら名画座に通い、2本立てなどで映画を見まくっていた。以来、どこかで映画に関わっていたいと思うようになり、いつの間にか映画ライターに。『スクリーン』、『DVD&ブルーレイでーた』、『キネマ旬報』など多数の雑誌に寄稿している。 一方で役者業にも手を染め、主に小劇場で活躍中。“トツゲキ倶楽部”という作・演出を兼ねるユニットを2006年からスタートさせた。
役者としては『Shall we ダンス?』、『スペーストラベラーズ』、『それでもボクはやってない』、『東京家族』等に出演。また、2012年4月より京都精華大学 マンガ学部にて非常勤講師を務める。

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