2026.02.25
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昔の算数に挑戦2<6年「比と比の値(塵劫記)」> 「はてな?」「なるほど!」「だったら…」で作る算数授業(第11回)

今回は、江戸時代にベストセラーになった算術書『塵劫記(じんこうき)』(吉田光由著・初版1627年)に掲載されていた「比の比の値」の活用の教材を紹介します。

「だったら…」から「はてな?」「なるほど!」に展開する授業

『塵劫記』は著者が何度も改版をしているためいくつか種類がありますが、国立国会図書館の和算コレクションから「新編塵劫記」を閲覧することができます。算数・数学の本を読むとよく出てくる書名なので、勉強のために文庫本を読んでみました。すると、上で紹介したWebサイト(国立国会図書館)を見れば分かるように、問題が昔の言葉遣いでの文や尺貫法、今と違う面積の公式などで苦労し、頓挫してしまいました…。

しかし、ある時、偶然立ち寄った池袋のジュンク堂本店で、「日本語現代語訳版『塵劫記』―校注付」(和算研究所塵劫記委員会編・2000年)と出合い、思わず買ってしまいました。なぜなら、その本に、現代語訳とともに、私が悩んでいた箇所のかなりの部分に注釈が付いていたからです。おかげで、塵劫記の面白さを実感することができました。

「塵劫記」に興味のある方には、ご一読を勧めますが、和算研究所の電話番号・メールアドレスは現在不通のようで、入手が難しいかもしれません。

寛永8年の「塵劫記」の図

話を教材に戻します。

今回扱った教材は、「木のなかさをはなかみにてつもる事(立木の長をつもる事)」です。

原文(筆者読み取り) 現代語訳(筆者直訳)
法にはなかみを四角におりて
又すミとすみをおりて下のすみに
小石をかミよりにてほりさけて
かミのすミすミのかねのあふ所にて
みるべしさている所より木の根
まてけんざをにてうちてみる時に
七間有これよだけを三尺くわえる
時なり木のなかさ七間半といふなり
方法として、ちり紙を四角形に折って
又、隅と隅を折って下の隅に
小石を紐で吊り下げ
(図のように見て)紙の隅と隅の両方がつりあう所で
見るようにします その所から木の根
まで測ってみると
7間ある これに3尺加える
と木の高さは7間半です。

算数的に説明すると、次のようになります。

四角形BCDEは長方形だから
 CD=BE=七間
 BC=ED=三尺
三角形ABEは、直角二等辺三角形だから
 BE=AE=七間
つまり
 AD=AE+ED
  =七間三尺
  =七間半

以下の2つの教材研究をして、授業に臨みました。

(1) 既習内容からの視点

この問題は以下の内容を理解していれば、小学生でも解決できます。

  1. 長方形の性質(向かい合う辺の長さが等しい)…2年の内容
  2. 二等辺三角形の性質(三角定規の直角二等辺三角形の等しい辺の長さ)…3年の内容
  3. 拡大図(拡大しても角の大きさは変わらない)…6年の内容

1と3は、図さえ示せば、直感的に理解できることでしょう。配慮が必要なのは2です。図を示しても三角定規の直角二等辺三角形と結びつかない子が多そうです。

そこで、本時では、三角定規を示してこちらから関連付けを促すことにしました。

(2)全国学力学習状況調査からの視点

また、この問題は、平成24度全国学力学習状況調査(中学校3年生対象)の数学Bの5問目で扱われています。正答率は以下でした。

問(1)木の高さABを求める…72.1 %
問(2)長さを置き換えてよい根拠となる長方形の性質を選ぶ…58.6%
問(3)長さを求められるようにするための方法を説明する…25.3%

特に、問(3)は記述式なこともあり正答率が低いだけでなく、無解答率も41.2%となっていました。

図形の性質を使って説明する活動は、中学生でもかなり抵抗があることが分かります。小学生であれば、もっと難しいのではないでしょうか…。

そこで、本時では、理由を考えさせる場合は、その説明の一部を隠したりキーワードを提示したりして考えさせることにしました。

授業の様子

だったら…

本時の前半では、教科書教材の「校舎の高さは」に取り組みました。ここで紹介する事例は、授業の後半部分ため「だったら…」からの紹介になります。

校舎の高さを出し終えた子供たちに、「塵劫記」の「木のなかさをはなかみにてつもる事」の画面を提示しました。

「版画?」
「ミミズみたいな字は書いてある…」
「もしかして、木の高さを出すのかな?」
と数人からつぶやく声が聞こえましたが、ほとんどの子はいつもと違う問題の雰囲気に表情が暗く見えました。

「これは、江戸時代のはじめに流行った『塵劫記』という算数の読み物の一部です。さっきの問題が解くことができた君たちなら、きっと分かるはず…と思って提示しました。」と、ちょっと気後れしている子の気分を盛り上げました。

すると、「先生、なんて書いてあるの?」
と歴史好きのAさんが、まず食いついてきました。

はてな?

動画

そこで、一文一文、読み上げてあげながら解説し、図でも示しました。

  • この問題は、木の高さを知りたいときに、直接登らなくても知ることができる方法を教えていること。
  • 本の挿絵なので、木の上の部分が切れていること。
  • 「はなかみ」は、今のティッシュペーパーにあたるもので、正方形の形をしていたこと。
  • 小石を紐で吊り下げるのは、折ったはなかみを地面に対して垂直にするためであること。
  • 「尺(しゃく)」は昔の長さを表す単位で、今の約0.3mにあたること。
  • 「1間(けん)」は、昔の長さを表す単位で、畳の縦の長さと同じで今の約1.81mにあたり1間=6尺になること。

問題に書いてある文の意味が分かってくると、表情が暗かった子供たちも、だんだん明るくなってきました。

すると、Bさんが
「えっ?どうして7間半になるの?」
と大きな声でつぶやきました。

同じことを考えた人を挙手させると、学級の約半分いました。

なるほど!

この「どうして7間半になるの?」の解釈は2通り解釈することができます。

  1. 7間3尺が7間半に置き換えられていることが分からない。
  2. 人物の場所から木の根までの距離と人物の目の高さを合わせると、木の高さになる理由が分からない。

何の学習でもそうですが、ちょっとした「?」が解決すると、学習に勢いがつくことがあります。そこで、まず、理解が簡単な1から扱うことにしました。

「間違いを見つけました!『7間3尺』が正しいのに、『7間半』って書いているね。」とあえて教師側から間違った発言をしてみました。

この手法は第5回で紹介したものと同じです。教師が間違った内容の発言することで、子供たちから正しい考えを引き出す効果があります。子供たちの中には、先ほど話した「1間=6尺」を理解している子がいると予想されますが、友達を差し置いてまで説明するほどの自信はまだのことでしょう。そんな子が教師に誤りに気付くと、「いや、それは…」と動き出すきっかけを作れます。案の定、Cさんが動き出しました。

「『7間半』で間違っていないと思います…」とCさんが手を挙げました。説明させます。

「だって、さっき先生が『1間=6尺』って説明していました。それなら、1間の半分は3尺だから、『7間3尺』が『7間半』でいいと思います。」

それを聞いた周りの子たちが頷きました。

すると、Dさんが、
「確かに!『3時30分』は『3時半』って言うし…」
と言うと、さらに聞いた周りの子たちが深く頷きました。1の「?」は「!」に変わりました。

(再掲)

次は2です。

まずは、補助線を引いて各頂点に記号を付けた図を提示しました。補助線の力は大きいもので、すぐに「BE=7間」「DE=3尺」が明らかになりました。

でも、なかなかAEについては、説明できる子が出てきません。きっと、「AE=7間」は見えているのですが、その理由が思いつかないようです。

そこで、三角定規の直角二等辺三角形の図を示して、関連付けを促してみました。

「あっ!」
と数人から声は上がりました。その中のEさんに何が見えたかを発表してもらいました。

この「何が見えたか」と聞く発問は、私のオリジナルではなく、小松信哉先生(元算数科学力調査官)の授業を参観して、私も使うようになった発問です。

算数・数学では正解を問う発問が多いですが、この発問はそれらとは違って、その子の見方・考え方を引き出そうとします。その子が何と関連付けているかが分かるだけでなく、オープンクエスチョンのため子供も答えやすい点で優れていると感じます。

「(三角形ABEが)大きな三角定規に見えます。」
とEさんは、補助線を指差しながら説明しました。

Eさんの違うものを同じに見た見方を褒めた後、再びAEが7間になるのか説明ができないか問い直しました。

「二等辺三角形?」
と誰かがつぶやく声が聞こえました。

「今、『二等辺三角形』って聞こえたけど、『二等辺三角形』と『AE=7間』の言葉を入れて説明できないかな?隣の人と相談してみましょう。」とペアで考える時間を2分間取りました…。

机間巡視をすると、三角定規を出したり図を描いて考えたりしています。中には動きのないペアもいたので、「辺の長さはどうなるかな?」とアドバイスして歩きました。

時間になりました。Fさん・Gさんのペアが挙手したので、説明してもらいました。

「三角定規は二等辺三角形だから、BDとADの長さは同じになります。BD=7間だからAD=7間です。」

練習したかのように、Fさんの説明している箇所を、Gさんが指差ししました。とても分かりやすい説明だったこともあり、自然に拍手が起きました。

最後に、塵劫記の問題について、振り返りを書きました。

  • 昔の人は頭がいいと思いました。身の回りのものを使っているのもすごいです。
  • 三角定規を使えば木の高さが分かると思うので、今度やってみたいです。
  • はじめは「間」や「尺」などが出で難しかったけど、みんなで考えたら解けてので、びっくりしました。
  • 塵劫記が流行った理由が分かりました。ほかにもわたしたちが解ける問題があるのかな?

種市 芳丈(たねいち よしたけ)

小中一貫三戸学園 三戸町⽴三戸⼩学校・三戸中学校 教頭
子供たちが夢中になる算数授業づくりに取り組んでいます。算数専科や複式学級の指導の経験あります。今、チャレンジしているのは、ロイロノートを活用した算数授業です。算数の教材づくりの会「ガウスの会(代表:細水保宏)」の会員。

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