2026.04.06
  • x
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

生成AIを教育にどう活かす? 東京青年会議所「AIと創る未来の教育」セミナーリポート

その利便性の高さから、教育分野でも活用が期待される生成AI。しかし授業での扱い方をめぐっては、現場から戸惑いの声も聞かれる。こうした状況を受け、東京青年会議所はセミナー「AIと創る未来の教育~生成AIとの付き合い方と活用を促進させるマネジメント手法を学ぶ~」を20262月に開催。生成AIとの健全な付き合い方、授業や校務での活用事例など、悩める学校現場に向けて多くのヒントが示された。

趣旨説明

「生成AIの教育利用について、未来を担う子どもたちのためにしっかりと考えていかなければなりません。本セミナーがAIとの正しい向き合い方を学び、現場での活用を進める第1歩になれば幸いです」

東京青年会議所教育政策室室長補佐の平田理沙氏がこう述べ、セミナーはスタートした。

講演1

生成AIとの付き合い方

株式会社EdLog 代表取締役社長 中川 哲氏

最初に登壇したのは、GIGAスクール構想の名付け親であり、その立ち上げに関わった株式会社EdLog代表取締役社長の中川哲氏。社会構想大学院大学の教授でもある中川氏は、アカデミックな観点から教育における生成AIとの付き合い方を語った。

まず中川氏は、アメリカの教育学者ロバート・K・ブランソンが1990年に提起した「学校教育モデル」について説明した。過去・現在・未来の3つのモデルを示したもので、教員が一方的に情報を伝える一斉指導・個別学習型の「口述伝承のパラダイム」、教員による情報伝達と共に子ども同士の情報交換も行われる一斉指導・協働学習型の「現在のパラダイム」、子どもが主体的に情報にアクセスして学び、それを教員が支援する個別・協働学習型の「技術ベースのパラダイム」からなる。

GIGAスクール構想で1人1台の端末が整備されたことにより、これからは技術ベースのパラダイムへの移行が進むと考えられる。なぜなら、子どもたちに「知識及び技能」「思考力・判断力・表現力」「学びに向かう力・人間性等」という資質・能力を育むためには、個別最適な学びと協働的な学びを一体化し、主体的・対話的で深い学びの視点からの授業改善を図ることが求められているからだ。

深い学びとは、「多様な情報をインプットし、それを既存の知識や自分の考え、体験と関連付けるプロセスを経てアウトプットすること」と定義される。情報のインプットにインターネットは欠かせないが、最近では調べ学習で子どもが検索結果に表示される生成AIの要約・回答をそのまま発表するケースが増え、問題視されているという。

「子どもに自分で情報を集め、整理・分析して考えをまとめてもらいたいのに、生成AIは答えを提示してしまう。これでは探究のプロセスがなく、知識も定着しません。教員が生成AIとどのように向き合っていくのかが問われています」と中川氏は警鐘を鳴らす。

学校現場で利用されうる生成AIにはブラウザAI要約のほか、ChatGPTやGeminiに代表される対話型生成AI、教育用に用途を限定した学校向け生成AIの3種類がある。中川氏が2025年に行った調査によると、教員の指示なく生成AIを利用している小中学生の割合は、対話型生成AIで18.2%、ブラウザAI要約で38.5%。いずれも「指示なく利用している」割合と「情報をそのまま用いる」割合がほぼ一致しており、中学校では5割を超えるのが現状だ。

「生成AIの要約を見ることを禁止するのは現実的ではありません。見てしまうことを前提に、何をすべきか指示を出すことが重要です。まずは表示されたリンクをたどり、その情報が信じるに足るものなのかをチェックする。次に、リンク先の情報と関連する情報がないかを調べて吟味する。最後に、ブラウザAI要約の回答は1つの仮説として扱い、自分の考えをまとめる。先生方は大変ですが、子どもたちには答えだけでなくそこに至ったプロセスも書いてもらい、評価する必要があるでしょう。」

学校向け生成AIには 「答えをすぐに提示しない」といった教育的配慮がなされ、OECD(経済協力開発機構)がその効果を発表している。しかし、学校の外では汎用的な生成AIを使うことになるため、「情報を鵜呑みにしないように批判的思考力を磨いておくことが必要」であると中川氏は言う。

「教育現場で生成AIを使う際には、幻覚(ハルシネーション)、誤学習、情報漏洩、偏見だけでなく、認知にも注意を払い、子どもが『考えなくなる』ことをいかに防止するかが重要です。また、校務、授業、自学自習といった利用シーンに応じて生成AIを用いることも求められます。」

なお、生成AIとの付き合い方を考えるにあたっては、利用者と生成AIの位置関係を前(先輩に話を聞くようにAIに相談する)・横(友人と議論するような、いわゆる壁打ちの相手にする)・後ろ(部下に指示するように資料のまとめを頼む)の3つの位置でとらえるとわかりやすいという。

「文部科学省が出した初等中等教育段階での生成 AI の利活用に関するガイドラインに基づき、独自のガイドラインを作成する自治体も出てきています。しかし、テクノロジーの進歩は速い。制度の完成を待つことなく、現場の1人ひとりが考えていくことが重要です」と中川氏は呼びかけた。

講演2

先生のための生成AI活用術:授業デザインから校務改善

合同会社未来教育デザイン 代表社員平井 聡一郎氏

次に登壇したのは、合同会社未来教育デザイン代表社員で、小学校へのタブレット導入を牽引した平井聡一郎氏。公立小中学校で教員、教頭、校長として勤務した経歴を持つ平井氏は、生成AIの実践的な活用方法と、教育委員会を含む組織の意識改革の必要性について語った。

AIの出現によって社会は変わり、テクノロジーを駆使してエッセンシャルワークを進化させる「アドバンスド・エッセンシャルワーカー(AEW)」が、今後AIに取って代わられない新たな人材像として注目を集めている。

「社会で通用する人間を育てることは教育の命題。社会の変化に伴って求められるスキルがより高度になったことを踏まえ、学校の学びは変わらなくてはいけないというのが近年の学習指導要領改訂の方向性です。教育改革のためには、教員こそアドバンスド・エッセンシャルワーカーになる必要があると感じています。」

次期学習指導要領は2030年度から小学校で全面実施される見込みで、2027年3月頃には小・中学校の新しい学習指導要領が公示される見通しだ。学校はこれからの変化を把握し、考えなくてはいけない時期にきている。とはいえ、公開されている次期学習指導要領の論点整理をすべて読むにはかなりの労力を要する。そこで、平井氏は次期学習指導要領の論点整理を生成AIでさらに論点整理することを提案し、わかりやすくインフォグラフィックに変換した資料を示してくれた。

それによると、学習の基盤となる資質・能力には「言語能力」「情報活用能力」「問題発見・解決能力」が挙げられている。このうち情報活用能力の育成においては、小学校で「生成AIの基本的な仕組みや特性を理解する」、中学校で「AIの仕組みと社会での活用を理解する」、高校で「AIの特徴と課題を踏まえた活用の方法を身につける」というように段階的、系統的に示されている。

授業でのAIの活用法として、平井氏は「AIに書いた文章を分析させて間違いを抽出する」、「AIと問答を繰り返すことで子どもたちに深く考えさせ、それを言語化させる」という言語能力の育成も兼ねた使い方を提案。「個別最適化や自宅学習に役立つという意味では、 AI に勝るものはありません。ただし、生成AIとひと口に言ってもそれぞれ違いがあるので、まずは先生方がその特性を理解し、子どもたちの学びや校務に結びつけることが大切です」と訴えた。

ここで、平井氏は参加者が自らスマートフォンを用いて生成AIを操作するワークショップを実施。データを分析して利用者の行動から興味や関心を把握するAIの特性を体験した。

続いて平井氏は、次期学習指導要領では子どもと教師の双方に余白を生み、教育の質の確保と教員の働き方改革を両立させるため、教育課程のあり方を柔軟化することが検討されていることを紹介。その実現には「校務の効率化と総量削減が必要」であり、「効率化の部分は生成AIやクラウド環境などのテクノロジーでカバーし、総量削減の部分は部活動の民間移行のように学校や教員のやるべき仕事を絞り込むべき」であるとした。

また、校務のDXと同時に「生成AIと共に深い学びをデザインする」学びのDXも必要であると平井氏は指摘した。例えば生成AIのGemini には、目的に合わせて役割や指示、回答ルールを設定できる「Gem(ジェム)」という機能がある。平井氏はこれを使って、AIが対話を通して若手教員の指導案の作成をサポートする Gemを作る方法を紹介。若手とベテランがチーム組んでGemを作れば、ベテランの指導の知見が伝承されるメリットもあると述べた。

「AIを使って子どもの授業の振り返りを分析すると、うまくいったと思っていた授業が実際はそうでもなかった、という発見があるかもしれません。それを繰り返しながらよい授業を作っていくことが大事です。授業が変われば学校が変わり、学校が変われば子どもの未来が変わります。学校がAIの活用に慎重であれば、家で AI と相談しながら授業を作り、その効果を実感してみるとよいでしょう。まずは、やれるところから始めてみてください。」

パネルディスカション

教育DXの最前線~AI活用が変える現場とリーダーシップ~

続いて行われたのは、中川・平井両氏によるパネルディスカッション。ファシリテーターとして、一般社団法人教育 AI 活用協会の代表理事で、教育現場と最先端AIをつなぐ「教育AIサミット」発起人である佐藤雄太氏が登壇した。

「生成 AI を教育の質向上につなげるために、現場で『絶対に共有しておくべき前提・価値観』は何だと思いますか?」という佐藤氏の質問に、中川氏は「体験を大事にすること」と答え、次のように説明した。

「生成 AI はインターネット上のドキュメント化された情報を読み込んで学習モデルを作り、答えを生成する。このAIが学習するインターネット上の知識を『形式知』と言い、インターネット上にないドキュメント化されていない知識は『暗黙知』と呼ばれます。暗黙知は私たち人間の経験からしか生まれません。ですから、子どもたちにはたくさん体験させ、感じたことを大事にしてあげることが必要です。」

一方、平井氏は「『生成AIを使ってどんな子を育てたいのか』という明確な旗印立てること。それがないと目的が曖昧になり、『手段の目的化』と言われかねません」と述べた。

次に佐藤氏は、「生成AIを“一部の先進的な先生”だけでなく、学校・教育現場全体で当たり前に使えるようにする最初の一歩として何から始めるのが現実的でしょうか?」という問いを投げかけた。

「人間は不便でも使い慣れたものを使う傾向がある。この意識を改革するには、最初は無理にでも使ってもらう必要があると思います。アンケート結果の分析など、やったつもり、できたつもりになってるところにAI を使うと、その有効性を実感してもらえるでしょう」と平井氏。佐藤氏は「最初は授業の振り返りなどにスポットで取り入れていくことになるでしょうが、最終的にはこのテクノロジーがあるからこそできる新しい授業スタイルの実現に役立ててほしい」と期待を述べた。一方、中川氏は「授業と校務のAI利用は分けて考える必要がある」とし、「授業での利用については、子どもが見ることを前提にした指導のあり方をルール化して学校現場に下ろさなければいけません。そこは教育長のリーダーシップにかかっていると思います」と訴えた。

最後に佐藤氏は、「生成AI活用を“一過性の取り組み”で終わらせず学校として定着させるために、管理職やリーダーはどのような意思決定や行動を取るべきでしょうか?」と質問。

平井氏が「校長や指導主事が生成AI についてのリテラシーを上げることです。自分で使って大体のところを理解していないと、部下の使っているのがよいものなのか、間違った使い方をしていないかが判断できません」と答えたのに対し、中川氏は「おそらく生成AI はこのまま浸透していくので、生成AI に詳しくないリーダーがいてもいいと思います。わからないことは皆に聞き、どういう使い方をすればよいかを議論して納得することが大事ではないでしょうか」と回答。リーダーが自ら学ぶことと他者から吸収すること、両方の重要性が示された。

推進運動の発表

最後に青年会議所教育政策室室長の鳥井大吾氏から、教育政策についての活動報告が行われた。

東京青年会議所の教育政策室が掲げるビジョンは、「教員が校務・教務で生成AIを活用し、生徒一人ひとりの個性を伸ばす『個別最適化学習』が実現する社会」。学校への生成AI導入支援などの活動を通して、学校現場の生成AIに関するニーズと導入・活用への障壁を明らかにし、教育委員会の施策検討の参考情報として提供することを目的にしている。

「こうした取り組みにより、生成AI活用の土壌を整えていきたい」と鳥居氏は述べ、講演を締めくくった。

交流(ネットワーキング)

講演終了後は、会場内に設置された教育DXに関わる企業の展示ブースに場所を移し、参加者同士が交流するネットワーキングの時間が設けられた。

展示ブースはEdLogが展開する「クリップ採点支援システム」をはじめ、コニカミノルタジャパンが手がける対話型生成AI機能を搭載した学習支援サービス「tomoLinks」、NPO法人みんなのコードが提供する授業用教材「みんなで生成AIコース」など、最新のAIツールやDXツールが体験できる場となっていた。また、NPO法人CORE EDUCATIONがAI時代に求められる人間力を育む学習支援サービスを紹介。佐藤氏が代表理事を務める教育 AI 活用協会のブースでは、同協会が認定するAI先端モデル校である青楓館高等学院のAI部による生成AIを活用したプロジェクト型学習の成果報告が行われていた。

教育現場や行政、企業などから集まった参加者たちは、情報交換をしたり、企業のブースで実際にサービスに触れたり、登壇者に直接質問をしたりと、思い思いに充実した時間を過ごしていた。

記者の目

生成AIが教育現場にもたらす利点と課題から、生成AIを活用するにあたっての心構えや注意すべきこと、具体的な活用法まで、知りたかったことがクリアになるセミナーだった。日々、現場で生成AIの影響を感じている先生をはじめとする教育関係者が、やるべきことを明確にする一助になったのではないかと感じた。

取材・文:学びの場.com編集部 写真提供:東京青年会議所

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop