2020.10.19
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

宇宙を題材に授業づくりを学ぶ教員研修 相模原市教育委員会 × JAXA宇宙教育センター

9月29日、相模原市教育委員会の教員研修「JAXAとの宇宙教育連携講座」が開催され、12名の小・中学校教員が参加した。相模原市にJAXA(国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構)の施設がある関係から、同市教委では数年前からJAXA宇宙教育センターとの連携を強め、同センターの職員から「宇宙を題材とした授業づくり」を学ぶ「教員研修」や、同センターの職員が授業に参加して子どもたちに「宇宙教育」を行う「授業連携」を実施してきた。今回は教員研修の模様をレポートする。

【研修のねらい】
 宇宙教育のイメージをつかみ、指導案を考え、授業ができるようになる

【プログラム】
  1. 今の教育と宇宙教育
  2. 宇宙教育を体験しよう(コミュニケーション力を鍛える教材事例)
  3. 宇宙を使って授業を考えよう

JAXAと連携する相模原市教育委員会

講師のJAXA宇宙教育センター 野村健太さん

「子どもたちは宇宙が大好きです。宇宙の不思議に子どもたちは驚き、目を輝かせ、主体的に学び始めます。ましてやあのJAXAの方が学校に来てくれるとなれば、興味津々になります」と、相模原市教育委員会の中島哲郎指導主事は宇宙教育の力を語り、続けてこう強調した。

「とはいえ、『宇宙のことを学ぶ』のが目的ではありません。学習指導要領が求める資質・能力や、各教科・単元のねらいを達成する手段の一つとして、子どもたちの好奇心を刺激する宇宙を活用し、JAXAという相模原市の『財』を活用したいと考えています」

そのためには、JAXAとの連携を強め、学校現場のニーズに合った教員研修や授業支援が不可欠となる。そこで相模原市では、市の教員をJAXAに出向させている。今日の教員研修で講師を務めるJAXA宇宙教育センターの野村健太さんも、市内の小学校で理科研究主任を務めていた元教員。元教員だからこそ、学校現場の事情や授業作りに精通し、子どもたちの興味関心も熟知しており、実践的な研修や授業支援ができるのだ。

教員研修レポート

1.今の教育と宇宙教育

宇宙教育とは

研修に先立ち、中島指導主事は先生方にこう呼びかけた。

「みなさん一人ひとりが、宇宙を題材に授業できるようになるのが、今日の目標です。あの教科のあの単元で、宇宙教育をやってみよう! というところまで、今日はつかんでいってください」

研修はまず、JAXAの事業紹介から始まった。はやぶさ2や国際宇宙ステーション、様々なロケット、そして日本人宇宙飛行士が紹介されると、先生方は「知ってる!」と身を乗り出した。さらに「宇宙とは、上空何キロから?」クイズや、民間ロケット「スペースX」の打ち上げシーンの動画が流れると、先生方からは歓声が上がった。宇宙には、子どもだけでなく大人も魅了する力があるのだ。JAXA宇宙教育センターの野村健太さんは、先生方にこう語りかけた。

「宇宙教育と聞くと、理科の中で宇宙を学ぶイメージがあるかも知れません。我々宇宙教育センターが目指しているのは、宇宙教育を一つの手法として用い、 学習指導要領が求める資質・能力3つの柱を育成することです。

私も元教員なのでベテラン教師によく言われましたが、『教科書を教えるのではなく、教科書で教える』のが大事ですよね。宇宙教育も同じです。『宇宙を学ぶのではなく、宇宙で学ぶ』。つまり宇宙という魅力に溢れた素材を、学びの導入やきっかけとしたり、学びを深めたりすることに用いるのです」

2.宇宙教育を体験しよう

「では実際に、宇宙教育を体験してみましょう」と、野村さんは教材を配布した。用いるのは、コミュニケーション力を鍛える宇宙教育の教材だ。宇宙飛行士には様々な資質・能力が求められるが、中でもコミュニケーション力はとても重要。国際宇宙ステーションでは約半年の間、国籍も性別も年齢も異なる仲間の宇宙飛行士と、閉鎖空間で共に生活をする。特に地上の管制室とは、言葉だけでコミュニケーションをとらなければならない。

「その体験を、みなさんにもしてもらいます。直角三角形や半円など様々な図形の紙をお配りしました。そこに星出宇宙飛行士が、言葉だけで、ある形になるように指示します。それを聞いて、パズルを組み立ててください」

読者の方もぜひ挑戦してみてほしい。「大きな三角形を2枚使って、正方形を作ってください」等の指示を聞いて、図形を組み立てていくのだが、これがかなり難しい。正解できたのは半数ほどだった。

4人1組でパズルに挑戦

続いて4人1組になり、先生同士でこのパズルに挑戦。指示を出す管制官役、それを聞いて組み立てる宇宙飛行士役、その様子を見守って最後にアドバイスする観察者役に別れた。管制官は野村さんから渡されたお題の図に従って、宇宙飛行士役が作業する様子は見ずに、言葉だけで指示を出していく。

実際にやってみると、先ほどよりもさらに難しい。「半円を2つ使って円を作り、それを先ほど作った正方形の上に置いてください」などと指示しても、「上に置く」の受け止め方が様々。管制官は、「正方形の上に重ねて置いて」と伝えたかったのだが、 正方形の上辺に接するように円を置く人も。2問目3問目はさらに図形が複雑になり、難易度がアップ。先生たちは完全に本気モードになり、問題を解く度にすぐ反省会を開き、改善点を話し合った。

「最終的にロケットみたいな形になります、とイメージを伝えるとわかりやすい」「直角三角形は二種類あるので、『直角三角形を使って』という指示だけではわからない。『30°60°90°』の直角三角形、というように算数の知識を使ってみたほうがいい」と、話し合いは大いに盛り上がった。また、管制官役になった人は、指示を出す前にまず自分で作ってみて、どう言えばわかりやすいかプランを練ってから挑むようにも変わっていった。

そして最終の4問目は、なんと英語で指示。指示で使える簡単な英単語をまとめたプリントが渡された。「英語は苦手だなぁ」と言いながら、どの先生も真剣な顔で楽しんでいた。

活動を終え、野村さんがこう語りかけた。

「話し言葉の曖昧さが、よくわかったと思います。授業でも、言葉だけで子どもたちに指示するのではなく、黒板に書いたりお手本を見せたりして、視覚も使いながら短くわかりやすく説明する大切さに気づけたのではないでしょうか。言葉やコミュニケーションの大切さを知るきっかけになる教材です。

この教材は国語はもちろん、図形や数を使うので算数、英語で指示するようにすれば英語、学活などでもできます。様々な教科で、教科横断的に実施できます」

3.宇宙を使って授業・授業連携を考えよう

宇宙教育の指導案を作り、グループで検討

続いて野村さんは、全国で行われている宇宙教育の実践事例を紹介した。

●家庭科「献立を工夫して」

より良い食事について話し合い、家族のための献立を考え、調理するのがオーソドックスな授業展開だが、導入で宇宙食と地上食の食べ比べを実施。宇宙食の工夫や、宇宙食を作る人・食べる人の想いを知る。宇宙食のカレーは味がスパイシーだったり、カルシウムが多かったりと宇宙飛行士の健康を保つための工夫が多く凝らされている。宇宙食を食べ、考え、話し合うことで、自分たちの食事を見つめ直すきっかけになる。

●理科「月と太陽」(小・中学校)

月の形がどのように変化するかを観察し、なぜ形が変わって見えるのかを月と太陽の動きから考えるのが、通常の授業展開。宇宙教育では JAXA の職員が授業に入り、まず導入部分で月の映像を見せながら月の不思議を解説することで、月への興味関心が高まり、学習意欲が高まる。また発展的な学習として、月から見た地球も同じように満ち欠けするのか、予測を立てて実験する。最後に、月から見た地球の映像(JAXAが提供)を見て、答え合わせを行う。

他にも、JAXA のホームページに授業実践事例が掲載されているので、参考にしてみるとよいだろう。

実践事例に触れた後、先生方は宇宙教育の指導案作りに取り組んだ。配布された冊子「宇宙で授業」や授業連携一覧表をめくって他の事例を読み込む先生もいれば、持参した教科書を開いてどの単元で実施できそうかを考える先生も。みな真剣な面持ちで指導案を検討していた。グループ内で自分の作った指導案をプレゼンし合った後、ポスターツアーを行い、グループ間でもプレゼンし合った。

ポスターツアーの様子

先生方が考案した指導案の例を紹介しよう。

●あったらいいなこんな人工衛星(小学校高学年・理科)

JAXAの職員から衛星について教わった後、学校生活を豊かにする衛星を考える。まず学校生活の課題(通学路の安全確保、健康管理等)を見つけ出し、その課題解決に役立つ人工衛星を考える。

●相手にわかりやすく伝える方法を考えよう(小学校4年生・朝の時間)

今日の研修で体験したコミュニケーション力を鍛える教材を、朝の時間に用いる。ペアで取り組んだ後、どんな指示がわかりやすかったか・わかりにくかったを話し合い、クラス全体で共有。普段の授業でも意識できるように何度か繰り替えし、伝え方の向上を図る。

宇宙教育の要素を授業に取り入れる

JAXA宇宙教育センターの資料

中島指導主事が冒頭で示した目標通り、先生方はみな、宇宙教育の指導案を考案するところまでたどり着いた。このような実践的な研修と、JAXAによる手厚い支援の結果、宇宙教育の実践事例数は確実に増加中。昨年度は市内15校で宇宙教育が行われ、理科や生活科をはじめ家庭科や道德科などさまざまな教科で教科や単元のねらいにつながる授業が実践できており、子どもたちも主体的に学べているという。

「JAXAの方が授業に入ったとしても、授業を主導するのはあくまでも担任の先生です。『ここで宇宙教育を取り入れれば子どもたちが主体的に学べるようになるかも』というアイデアを先生一人ひとりが持て、実践できるようになってほしい。宇宙の要素は少しだけ入れたのでいい。単元や授業の最初に宇宙を導入として使い、学習意欲を高めるのでもいい。宇宙教育を授業の手立ての一つとしてとらえ、様々な教科で日常的に使えるようになってほしいと思います」(中島指導主事)

取材・構成・文・写真:学びの場.com編集部

※当記事のすべてのコンテンツ(文・画像等)の無断使用を禁じます。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop