2003年7月23日、我が子が通う新座市立東野小学校で、「危機管理研修」が行われました。東野小学校では、夏休みの間に教職員を対象として「話し方・聞き方の技術」「ブックトーク技術」などの研修が開催されますが、すべて保護者も見学可というオープンなもの。しかも今回の講師は、なんと学びの場.comで「学校の危機管理」を執筆されている浅利眞さん。この機会を逃す手はない!とはりきって参加してきました!
東野小学校の周辺は、雑木林が点在し、農地に囲まれたのんびりした地域ですが、ここ数年でマンションや宅地が急増。不審者が出没したり、夜中に校庭が少年たちの溜まり場になるなど、だんだん安心な土地とは言えなくなりつつあります。校長の谷俊和先生によると、校内はもちろん地域にも声をかけて子ども達の安全対策に努めているのだそうです。今回の研修は、その一環として、教職員たちに危機管理の基礎について学んでもらうという目的で開催されたのです。会場は東野小学校の図書室。約30名の職員が参加しました。
●危機管理の基礎知識
「学校の危機管理って何だと思いますか?」
開口一番、浅利氏からの基本的かつ本質的な質問です。
「子どもたちを守るために教師がすること」
いきなり指名されて、ある先生が答えます。
危機管理で大切なことは、『守りたいのは何か』という目的を明確にすることなのだそうです。学校なら、危機管理の目的は『子どもの命を守る』ということであるはず。先生の口から迷うことなく「子どもたちを守る」という言葉が出てきたことは保護者としてありがたい気持ちです。
さて、危機管理の種類にはどういうものがあるのでしょうか。起こる場所、原因で以下の図のように分類できるそうです。
赤い四角で囲んだものが、予防できる危機。青い四角で囲んだものが予防はできないけれど準備はできる危機です。これらについて、どんな事故が起こりうるか洗い出し、それに対する「予防」策を練る、あるいは「準備」をする。日頃、防災とか防犯と言われていることがそれにあたります。
実際に事故がおこったら、「対応」をする。このときに大切なのは「情報収集」と「決断力」なのだそうです。まず、事故の現状はどうなっているのか「情報収集」をする。そして情報をもとに次に何をするかを考え「決断」し、実行する。「対応」に正解はありません。結果的に命が助かったら、それが「正解」なのです。適切な決断をするためには情報収集が大切になります。
そして、「事後措置」。事故が起こったことは悲しいことですが、そのままにしておくわけにはいきません。2度と起こさないために原因を究明し、しっかりと対策を考えなければならないのです。
この「予防」「準備」「対応」「事後措置」という4つが危機管理のポイントなのだそうです。
●もし、授業中に大規模地震が起こったら?
基礎知識を頭に叩き込んだ後は、簡単なワークショップが行われました。
浅利氏があるシチュエーションを読み上げます。
「午前の授業中、突然大地震が発生。窓ガラスが割れ、児童のうめき声が聞こえる。その日は校長、教頭とも出張で不在」
さて、この情報から、(1)現在考えられる情況を想像する。次に、(2)このあとどういうことが起こりうるか想像する。そして(3)どのような対応をするか考える。これが課題です。持ち時間10分で、グループに分かれて相談開始!
「まずは地震発生を知らせる校内放送をしないといけないね」
「放送はできるの?」
「拡声器を調達しておかないと」
「119番や110番は?」
「電話がつながらなかったらどうするの?」
「校長も教頭もいなかったら、連絡系統はどうなるの?」
「授業中だからとにかく机の下にもぐるよう指示しないと」
「教師自身がパニックになって、指示どころでなくなったら?」
私は「そんな大きな地震、起こってみないとわからないよ」という気持ちでしたが、先生たちの表情は真剣そのもの。
「ガス漏れや汚水漏れも起こるかもね」
「学校だけでなく周辺地域も相当な被害があるはずでは?」
「道路も寸断されたら救急車もこられないのでは?」
「保護者への連絡はどうするの?」
「保護者自身も被災していたらだれが子どもを引き取りに来るの?」
「教師が怪我をしてしまった場合は?」
「ところで備蓄倉庫ってどこあるの?」
だんだんと最悪の事態へとイメージがふくらみます。
短い時間に、よくもまあ思いつくものだ、というほどのひどい事態が洗い出されましたが、危機管理の専門家はこういう作業を何日もかけて行うそうです。もちろん地震だけでなく、考えられる被害すべてについてです。そして、それら一つ一つについて、て対応策を考えておくのです。
さて、先生たちが考えた対応策はどうだったでしょうか。
「マニュアルを作っておかないと」
「訓練ももっと必要だね」
「校舎の補修工事もいるのでは?」
不安なことはたくさんあるのに、対応策となると、なかなかイメージがふくらみません。一生のうちに起こるかどうかわからないような大事件について想定して対応を考えるのですから、イメージがわかなくても無理もないかも知れません。実際、大きな事故が起こった際、記者会見などでよく聞かれるのは
「こんな事態が起こるとは予想もしていなかった」
という言葉なのだそう。でも「予想できない」ですませずに、対応策を考えておかなければならないのです。
今回のワークショップでは、時間が足りなくて、対応策について突き詰めて考えることはできませんでしたが、今まで「どうせそんなこと起こるはずがない」と、無意識のうちに避けていた危機管理について多少でも意識が向かったのではないでしょうか。
研修を終えての感想を、生徒指導主任の飯塚恵理子先生にうかがいました。
「最近では学校の危機管理についての関心が高まっていて、何かあるとすぐに生徒指導に問い合わせが来ます。こちらもきちんと答えられるだけの知識を持っておかなければ、という焦りはすごくあるのですが、どこに聞けばいいのかわからない状態でした。今回の研修は自分にとっても非常にためになりました。また、他の先生方の意識も高まったのではないかと思います。ただ、公立学校というところは、教師の異動もありますし、なかなかノウハウが蓄積できないのです。市単位で相談コーナーを設置するなど、いつも相談できる危機管理コンサルタントのような機関ができればと切実に思います」
あってはならない事故ですが、手をこまねいて見ているわけにはいきません。起こってしまったらどうしたらいいのか、起こる前にできることは? など考えておきたいもの。2学期早々、どこの学校でも防災訓練が行われます。この機会に、家庭でも緊急時の連絡方法など話し合っておいてもいいかも知れません。
(学びの場特派員:東野花子)
講師の浅利眞さんのコラム「学校の危機管理」もあわせてご覧ください。