2019.06.27
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主体的・対話的で深い学びの視点で授業改善し続けるには New Education Expo 2019 現地ルポvol.5

新学習指導要領では、主体的・対話的で深い学びの視点で、授業を改善し続けることが求められる。学校全体で授業改善に取り組むには、どんな工夫が有効なのだろうか。元・文部科学省視学官の澤井陽介国士舘大教授と、四谷小学校の石井校長と経堂小学校の横田研究主任が、成功の秘訣を語ってくれた。

主体的・対話的・深い学びの実現の観点から「授業改善」を考える

国士舘大学 体育学部教授……澤井 陽介氏
新宿区立四谷小学校校長……石井 正広氏
世田谷区立経堂小学校………横田 富信氏

授業改善を続けるための手立て

「主体的・対話的で深い学び」の観点で授業改善を続けていくには、校内研究の活性化が重要です」。元・文部科学省視学官である国士舘大の澤井陽介氏は、セミナー冒頭でそう指摘した。校内研究は授業者の発問や説明といった「指導力の研究」になりがちだが、授業を改善していくには「授業づくりの研究」を心がけるべきと澤井教授は言う。

 そのためにはまず、「授業記録」をしっかり取るのが効果的。本時の目標、教師の発問とそれに対する子どもの発言、板書内容等を、時系列で記録していくのだ。この授業記録を見ながら、「主体的・対話的で深い学び」になっているか、具体的に検討していく。
 たとえば「主体的な学び」になっているか否かは、「教師の問いかけた課題が子どもにしっかり届いているか」「子どもは見通しを持って学習にのぞめているか」等の観点でチェックする。「対話的な学び」になっているか否かは、「子ども同士の発言がつながっているか」「課題や教師の発問に正対しているか」等の観点で精査。「深い学び」になったか否かは、「本時の目標に向かっているか」「子どもが考える場面はしっかり焦点化されているか」「学習のまとめは子どもが行っているか」等の観点で点検するといいそうだ。

研究主任として授業改善を推進

続いて、校内研究を活性化させて授業改善に成功している先生方が、その取り組みを報告した。
東京都世田谷区立経堂小学校の横田富信氏は、研究主任として校内研究の活性化を図ってきた。キーワードは「全教員の参加」。すべての先生が主体的に、温度差なく校内研究に取り組めるように、4つの手立てを講じたという。

①組織づくり

「指導案フォーマット提案担当」「事前・事後アンケート提案担当」など細かく役割分担した結果、先生方が責任を持って取り組めるようになった。研究主任の横田先生は、研究推進委員会として全体の動きを統括する。

②授業づくり

研究主題を、「自分の力を役立てようとする子ども-『学び合い』と『振り返りの充実』」と設定。「保護者にもわかる言葉」で具体的に表しつつ、「さまざまな教科に通じる」研究主題を心がけた。教科が限定されないことで、すべての先生が具体的な目標を持ちながら取り組めるようになった。

③協議会づくり

研究授業を協議する際には、若い先生でも発言しやすいように、若手グループ、ベテラングループ、社会科グループのように経験年数や教科の専門でグループを分け、グループごとに協議した内容を発表するようにした。協議会場も、研究授業を終えた後の教室に変更。授業の板書を見ながら、具体的に話し合えるようになった。

④振り返り

今までは研究主任が校内研通信を発行していたが、研究授業を行った学年が発行するようにし、次の学年へのメッセージも盛り込むようにした。各学年での振り返りが充実し、学校全体の質が高まった。

学校長として授業改善を推進

東京都新宿区立四谷小学校の石井正広氏は、校長の立場から授業改善にどう取り組んで来たか、そのために講じた3つの手立てを紹介した。

①学校組織で課題を共有

学力調査の結果を4~5年の長期的スパンで分析。全国平均や区の平均と比較し、同校の子どもたちが正答率の低い問題を具体的に抽出するなどして、子どもたちの弱みと指導の課題を浮き彫りにして、全教員で共有した。

②課題解決に向けた組織的な取り組みの方向付け

課題を解決すべく、学校長がリーダーシップを発揮。学校経営計画の中で、重点取組・取組指標・成果指標を定め、これに沿って教員一人ひとりが自己評価も行いながら授業改善に取り組む仕組みを作った。また、今年度から、教員全員で授業改善の4つの柱として「見通しを持つ」「自分で学ぶ」「友達と学ぶ」「学びを振り返る」を定め、社会科を中心に授業改善に取り組み始めている。共通フォーマットである「学びの振り返りカード」を用いて、全ての先生が全ての単元で授業を分析する予定である。

③教員一人ひとりの実践力の向上を図る

年間で予定されている校長による授業観察や年次研修での研究授業などは約50回になる。それを校内で授業公開を行い、先生同士で授業を見合う機会としてきた。教員一人ひとりが担当学級の「学力向上プラン」を作成し、そのプランに基づいて授業を公開し、他の教員が授業を観察。事後の振り返りで改善点を見つけ出し、さらなる改善に取り組んでいけるようにしている。
「今までの授業改善を否定するのではなく、これまでの授業改善の延長線上に、主体的・対話的で深い学びの実現がある」と石井校長は語り、すべての教員が日常的に主体的に授業改善に取り組める環境を整えるのが、学校長の使命だと語った。

2校の事例から学ぶ授業改善のコツ

この2校の発表を受けて、澤井教授は授業改善のコツを説明した。
まず経堂小のケースは、研究主題の立て方や体制づくりが奏功して、「ベテランの先生が率先して研究授業を行うなど、校内がとても良い雰囲気で取り組めている」と指摘した。そして四谷小のケースは、「シンプルかつ具体的な授業改善環境を作っているので、先生方一人ひとりが取り組みやすい」と評価した。

このような体制作りに加え、学校が一丸となり同じ方向を向いて授業改善を進めていくには、重要な用語の解釈等について学校全体で共通理解を図ることも大切だと、澤井教授は言う。その筆頭が、「深い学び」の定義だ。「深い学び」は目新しい言葉であり、ややもすれば解釈が人によって異なりがちだが、その内容は「知識を相互に関連付ける」「情報を精査して考えを形成する」など、これまで日本の教育が追求してきた既知の学びであると澤井教授は言う。そして「深い学び」とは、各教科等の目標を実現するために、各教科等の特質を踏まえた「見方・考え方」を働かせて学ぶことであるが、この「見方・考え方」は教科によって異なる。新学習指導要領を読むなどして、各教科等の目標と「見方・考え方」をよく研究し、すべての先生にその理解を徹底することが重要だと、澤井教授は締めくくった。

取材・文:学びの場.com編集部/写真提供:New Education Expo実行委員会事務局

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