2021.09.29
  • twitter
  • facebook
  • はてなブックマーク
  • 印刷

『MINAMATAーミナマター』田園調布学園オンライン訪問交流会 登場人物のモデルとなったアイリーンさんとZoomで交流

日本人の誰もが一度はその名前を聞いたことがあると答える水俣病。熊本県水俣市のチッソ水俣工場の廃水を原因とし、現在まで補償や救済をめぐる問題が続いている公害病だ。その存在を世界に知らしめたのが、写真家ユージン・スミス氏とアイリーン・美緒子・スミス氏が75年に発表した「MINAMATA」という写真集。
この写真集をベースに、ユージン・スミスに憧れていると語るジョニー・デップが製作&主演で映画化したのが、"映画と教育"コーナーでも以前に取り上げた『MINAMATAーミナマター』という作品だ。この映画の公開を記念して田園調布学園にて行われたオンライン訪問交流会をレポートする。

『MINAMATAーミナマター』田園調布学園オンライン訪問交流会

9月1日(水) 15:20〜16:10 Zoomにてアイリーン・美緒子・スミス氏と中継

登壇者:アイリーン・美緒子・スミス氏(オンライン)

参加生徒:高等部1年生と3年生(約400名)

講堂で映画『MINAMATAーミナマター』を鑑賞

水俣病を世界に伝えた実在の写真家ユージン

1996年度から九州への学習体験旅行で毎年、水俣を訪れるなど、水俣病や公害病の学習に力を入れている田園調布学園。具体的にはどんな学習をしているのか、生徒に尋ねたところ「Zoomの事前学習で、実際に水俣病患者の家族の方からお話を伺ったりしています。家族の方からの体験談や葛藤などを生で聞くことで、本で読むのとは違ってとても理解が深まりました」という。

今回、学園の講堂で高等部の1年生と3年生約400名を集めて行われたオンライン交流会では、映画『MINAMATAーミナマター』をまず鑑賞した。

この作品は1971年のニューヨークから話が始まる。かつて第二次世界大戦でサイパンや沖縄、硫黄島などに戦争写真家として派遣され、自分も26歳の時にひどい怪我を負いつつ(戦争による負傷だけで23回も手術しているという)、アメリカを代表する写真家としてその名を残したユージン・スミス。ある日、アイリーンと名乗る女性から、熊本県水俣市のチッソ工場が起こしている現実ーー海に有害物質を流すーーにより、苦しんでいる人々があり、その人たちを撮影してほしいと頼まれる。かくして水俣に向かったユージンは、水銀に侵され歩くことも話すこともできない子どもたちの姿や、激化する抗議運動、そしてそれを力で押さえ込もうとする工場側という信じられない光景にシャッターを切り続けることになる…。

ユージンの元妻・アイリーンさんとZoomで交流会

映画の制作裏話も

今回はユージンと共に水俣病の実情を世界に知らしめた、元妻のアイリーン・美緒子・スミスさんをZoomを使ってゲストに迎え、質問形式で交流会を実施した。

こういった交流会では、質問などはなかなか出にくいもの。しかし、司会である生徒たちが「まずは感想を」と促すと、最初こそモジモジしていたものの、次第に2人、3人と手が挙がり始め、感想が次々と飛び出していった。

「印象的だったのは、水俣の方達が初めてユージンさんに賛同したシーンです。多くの試練を乗り越える芯の強いユージンさんとアイリーンさんの姿にも感動しました」

「ユージンさんの報道写真家としての思いや仕事に対する姿にとても感動しました。公害の罪深さや真実を伝えるための執念、そしてひとつの命の大切さなど、様々なメッセージが込められていた作品でした」

「世界の公害や、水俣で起こった悲劇をもう二度と繰り返してはいけないと思いました」、「ユージンさんが諦めそうになっても、アイリーンさんが何度もユージンさんを支えていたことに感動しました」

さすが、映画の前にしっかりと水俣病などについて学んでいるだけあって、しっかりとした感想が述べられていく。

「こういう若い人達との交流の機会を楽しみにしていた」と語るアイリーンさんも、とても楽しげにその感想に聞き入っていた。

アイリーンさんからも、映画の製作裏話などが語られた。映画の話が舞い込んだのは7年前であること、話が具体化したのはジョニー・デップがユージンを演じたいと言い出した3年前であること。アンドリュー・レヴィタス監督にはユージンと自分が見聞きしたこと、ユージン自身がどんな人だったのかを真摯に伝えたことなどが語られた。

生徒たちからの質問

公害はなぜ起きるのかを自分たちで考えることが大切

そして質問コーナーへ。まず「劇中で水俣の写真を撮ることをユージンさんに提案していましたが、そもそもアイリーンさんは水俣の方たちとどのような交流があったのですか?」という質問がなげかけられる。するとアイリーンさんが意外な答えを返してきた。

「実は、私もユージンも、水俣のことについては何も知らなかったんです。当時、私は富士フィルムの仕事でユージンに初めて会いました。コーディネーター兼通訳として。それは実話なんです。そんな中、日本から元村和彦さんという方が来て、水俣のことを教えてくれたんですよ。で、水俣に行くことを提案してくれたんです。そこで初めて水俣病のことを聞いて、公害で人が死ぬということに驚いたし、その場ですぐ水俣に行くことに決めたんです。とにかくこれはたくさんの方に伝えなければいけないと思いました」

映画では実に上手にそこをアレンジ。元村和彦氏という人物を出さず、アイリーンさんが伝えたかのように見せている。

生徒たちからは続々と質問がぶつけられていく。こんな質問も出た。

「水俣病の患者さんへの取材を進めることについて、抵抗感はなかったのですか?」というもの。

「病気を見せていただいて記録するので、それはもちろん簡単なことではありません。でも、水俣の皆さんは安心できる、信用できる人になら撮ってもらっても良いというのはあったと思います。その環境づくりのために、既に水俣で撮影をしていた方たちに、患者さんなど紹介してもらいました」と、当時を振り返って語ってくれたアイリーンさん。

「大切なのは、どんどん主張して自分の気持ちを伝えることなんです。病気をさらすということは誹謗・中傷の対象になることもあります。ですが誰かが訴えなければ、こういうことは埋もれてしまう。すると、患者さんたちも自分達の熱意を積極的に受け入れてくれましたね」と、昨日のことのように苦労談を聞かせてくれた。

また「公害や、環境問題と向き合うときに、どのような思いで問題に接するべきでしょうか?」という質問には、環境問題に対する持論が語られた。

「いろんなところで環境問題で苦しんでいる人がいます。当事者を支えることが大事だと思います。医療ができる人なら医療で、アートができる人ならアートで。何もできないと思うなら草むしりでもいいから支えになる。人が必ず見ている、決してあなたたちは透明人間ではないということを伝えるのが大事だと思います。そして公害はなぜ起きるのかを自分たちで考えることが大切です」

アイリーンさんからのメッセージ

自分にしかない長所を生かすことが大切

とにかく「一番重要なことは、自分の長所をどう活かすか」だと語った。

「自分にしかない長所は宝です。そして、気になったことがあれば、どんどん聞いていくことが重要。周りを気にせず動くことも大切だと思います。目の前で起こっていることについて反応して行動する。そうすれば自然に前に進んでいけると思います」とご自身の生き方を振り返り、人生を歩んでいくためのアドバイスなども飛び出した。

映画ではすさまじいまでの暴動に近いほどに混乱した抗議活動の現場にユージンと共にアイリーンさんが巻き込まれるシーンがある。

そこで「ユージンさんについて行って怖いと思ったことはありますか?」との質問が。

すると「カメラを持っていると、やはり記録しなければ!という思いが強いので、撮影に集中するんですね。だから暴動の時も髪の毛を引っ張られたり、かなり危険な目には遭いましたが、怖いと思ったことはなかったんです」とキッパリ。

「この映画の素晴らしいところは、ジャーナリズムの重要性を伝えているところだと思います。映画を観て、改めてジャーナリズムについて考えるキッカケを作ってほしいというのは、どうしても皆さんに伝えたかったことなんです。映画で描かれた出来事は、遠い昔の人の話のように思えるかもしれません。でもこれは今に繋がっていることなんですね。被害者が立ち上がって、多くの人々が関わり、実現したことというのは、現在の環境にも良い影響を与えています。その時代の人々が頑張ったおかげで、今の自分がいる。だから次世代も行動して、世の中を良くしていくこと、繋げていくことが重要なんです。皆さんも元気で頑張ってくださいね。どうもありがとう!」

そう感謝とともに、生徒たちに熱いエールを送り、イベントを締めくくった。

交流会を終えて

伝えなければいけないと思っていた人がいたことに感動

イベント終了後に話を聞いた生徒の中には「映画を見て水俣病の患者さんたちに代わって伝えなければいけないと思っていた人がいたということに感動しました。私は、本当に伝えなければいけないことを見極める力がないので、今後ユージンさんみたいに伝えるべきことを考えたいと思いました」という意見が聞かれた。またアイリーンさんのジャーナリズムの話に考えさせられたとの話も。

アイリーンさんと生徒たちの交流会は約1時間ほどだったが、生徒たちにとってはいろいろ考えさせられた、貴重な1時間になったのではないだろうか。これによって躊躇せず何か行動することができる子どもたちが増えていくことを期待したい。

ご意見・ご要望、お待ちしています!

この記事に対する皆様のご意見、ご要望をお寄せください。今後の記事制作の参考にさせていただきます。(なお個別・個人的なご質問・ご相談等に関してはお受けいたしかねます。)

pagetop