2024.01.15
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高校[公共]特別授業「ふつうってなんだろう?」実施リポート 専修大学ネットワーク情報学部・栗芝プロジェクト2023

専修大学ネットワーク情報学部・栗芝プロジェクト2023では「ふつうってなんだろう?」をテーマとした、ワークショップ形式の授業を開発・実施しました。

今回は、202311月に千葉県立柏の葉高等学校の1年生と東京女子学園高等学校(現・芝国際高等学校)の2年生に対して実施した、ワークショップの様子を紹介します。

プロジェクト概要

主な活動内容

no(ノーマル)

本プロジェクト「ふつうってなんだろう?」では、「ふつう」について考え続ける場づくりを行うため、研究をしています。

研究の背景にあるのは、「ふつう」という言葉・概念の危うさです。

「ふつうに美味しい」「ふつうにして」など、「ふつう」は日常生活のあらゆる場面で使われます。しかし無意識に「ふつう」を用いることは、個々の価値観や多様な文化を覆い隠し、共通認識から外れた存在の否定を引き起こす恐れがあります。

そこで私たちは、互いの「ふつう」について考えられるきっかけづくりを行っています。2022年度には、お題カードとリアクションチップを使いながら対話を繰り返す「no(ノーマル)」というツールを制作しました。自分と他者、両方の当たり前が浮かび上がるようなツールとなっています。

授業開発に至った経緯

「ふつうとは何か」を問い続けることは、選択肢や可能性を拡張し、暮らしを豊かにすることにつながると、私たちは考えています。このような機会を多くの人に広げるために着目した科目が、高校の「公共」です。社会のあり方について考える授業が、「ふつう」というテーマを考える上で最適であると考えたためです。「ふつう」の基準や背景について対話することは、大人と子供の狭間にある高校生にとっても貴重な機会になると推測し、特別授業の考案に至りました。

授業形態は、50分授業1回分で完結するワークショップ型を採用しています。テーマの難しさや公共授業のボリュームを考慮し、生徒側・教師側の双方が取り組みやすい形態としました。

授業の様子

ワークショップの内容と活動

授業スライド

本ワークショップでは、

  1. 自身が「ふつう」を無意識の偏見に基づいて使っていることを認識する。
  2. 「ふつう」の特性を知り、継続的に考える素養を身につける。
  3. 自分の認識する世界と、他者の認識する世界が異なることを理解する。

この3つをねらいとし、グループワーク主体の授業を行いました。

まずは「ふつう」という言葉の使用例を列挙し、「ふつう」という言葉を深く意図せず、日常的に使用していることを、生徒と共に確認します。多くの人々が「ふつう」を使用する一方で、それらの意味について深く思慮していない可能性を認識することで、本時で扱う問題を自分事として捉えてもらう目的があります。実際に生徒からは、頷きや共感する声があがりました。

さらに「ふつう」という言葉をどのようなときに・どのような意味で使っているのかを意識するため、「ふつうに美味しいってどんなときに言う?」という問いについて、グループで1分間話し合います。生徒からは、「自分が想像していたよりも美味しかったとき」「日常から食べ慣れている味に対して」「正直美味しくないけど、気を遣って言うとき」など、さまざまな意見が出されていました。

次に、「ふつう」にはさまざまな意味があり、状況や使う人によっても異なることを、視覚的に理解するワークを行いました。このワークでは、始めに「ふつう」が使われるときや場面を考え、付箋に書き出します。付箋に書く内容は「ふつうにかっこいい」や「ふつうに疲れた」など、日常でつい使ってしまう言葉です。その後 [書いた付箋をどのような意味で書いたのか] [普段の使い方] [他の人はどのように使うのか] 等について、グループ内で話し合います。話し合いでは、普段使っている言葉の価値観と意味を分析しやすくするため、ワークシートを用いました。

  • グループワークの様子

ワークシートには縦軸と横軸があり、それぞれの軸名を自由に書くことができます。縦軸と横軸に分けて広く配置しているのは、世間で一般的に使われる「ふつう」の意味を広く考え直すためです。生徒たちは、軸として「客観的・主観的」や「よく使う・使わない」「人・もの」などを記入し、付箋を分類していました。普段生徒たちは「ふつう」を何かの中間的な意味として使用している場合が多いですが、実際に分類を進める中で、状況や各々の価値観によって言葉に含まれる意味が異なることを見出していました。

  • 生徒が制作したワークシート

  • ワークシートを共有している様子

その後、まとめたワークシートをクラス全体で共有しました。共有の目的は、主に「自分とは違う『ふつう』の意味に気が付く」「自分の無意識の偏見を自覚する」ことの2点です。異なるグループで話し合われた結果を共有・比較検討することで、メンバーが異なれば同じワークでも結果が変わることを理解します。そして自分では気が付かなかった「ふつう」の意味に思い至ります。

共有中に生徒が話していたこと(抜粋)
  • 「ふつう」を話し言葉につけると差別らしくは聞こえないが、名詞につけるとなんだか差別らしいニュアンスが出ると気がついた。
  • 「『ふつうに』形容詞」と言うと、なんだか皮肉みたいになる。
  • 「ふつうにかっこいい」と言うけど、意味的にはその男性が「かなりイケメン」の時に使っている。

上記のように、これまで無意識に使っていた「ふつう」を分析すると、自身が「ふつう」という言葉を使っている状況やそれが表す意味について意識するようになっていました。

最後に、本時の問いである「ふつうってなんだろう?」に対する生徒それぞれの答えを記述してもらいました。「ふつう」とは一意でないことや状況や価値観によって捉え方が異なることに気がついていました。また、このような絶対的な正解の無い問いを考えることが新たな価値観や選択肢を発見することにつながることを実感してもらうことが出来ました。

活動の結果と考察

2校3クラス、91人にワークショップのアンケート実施し、以下のような結果を得ることができました。

アンケート結果

生徒からのコメント(抜粋)
  • 「ふつう」って別になくてもいい言葉だけど、自分の知らないところで無意識に使ってしまうことで、人を傷つけてしまうこともあるかもしれないと思った! 授業おもしろかったです!
  • 普段考えることがない「ふつう」について考えることで、世の中の見方が変わったような気がしました。また、「ふつう」は生涯肌身離さず使う言葉なのだなと思い知らされました。
  • 「ふつう」は色々な場面で使われて、色々な意味があることがわかった。自分の「ふつう」を押し付けないように、友達とかと接していきたいと思った。
  • 自分自身に「ふつう」という部分を無くしていけば、輝けるものが出てくると思った。

おわりに

「ふつうってなんだろう?」ワークショップは、教育現場のみなさまにご活用いただけるよう、指導案や授業スライド、ワークシート等を配布しています。Webサイトにて公開していますので、ぜひご覧ください。

私たちは今後も「ふつうってなんだろう?」を考えられる場作りを推進してまいります。

最後に、本プロジェクトは350⼈以上の⽅々のご協⼒があったからこそ成し得たものです。この場をお借りし、お⼒添えを頂いた皆様に⼼より感謝申し上げます。

教材(指導案や授業スライド、ワークシート等)ダウンロード

専修大学ネットワーク情報学部 栗芝プロジェクト2023

栗芝正臣 准教授
山根霧羽 / 菅原真唯 / 上山哲太

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